第134話 孤独と疎外感 3 ~個と集団~  Aパート

文字数 7,342文字


 長い夏休みもようやく終えた9月1日火曜日。私たちの学校は進学校と言う事と、受験への追い込みと言う事もあって、今日から授業もあるし、何なら明日は学力テストまである。
 ただ今日に限っては教頭先生との話もあるから、そっちの方が大切だったりする。なんせ、合っていればと言う頭書きは付くけれど、教頭先生とは私に出された課題。統括会残留や雨降って地固まるなど雪野さんとの事や、何かの何かを掴んでいると言ってくれた先生を信じての、実祝さんの成績の事。知らされていなかったっぽい倉本君を落ち込ませるようなことが出来なかった私は、みんなでの話し合いの時間は取ることが出来なかったけれど、この二つは絶対に抑えないといけない。そしてこの二つ共に“雨降って地固まる”の結果になるのだから。
 私はあらかじめ考えておいた終業式の原稿を、忘れずにカバンの中に入れて手早く準備を整える。
 今回も全校集会がある分、早く行かないといけない私は、そのままリビングへ降りて朝と、今日だけは慶の分も含めたお弁当の用意も合わせて準備する。

 私は当然として、今回は珍しく慶の方も夏休みの課題だけは終えている。
 まあ先週の週末は、慶の宿題のチェックとお小遣い審査のために帰って来たのがお母さんだったから、そのお小遣いの減額だけは免れようとの魂胆だったのだろうけれど。
 そのお母さんが帰って来るのを知ってから、目の色を変えて夏休みの宿題に取り組んでいたのは、記憶に新しい。
 その慶と言えば、蒼ちゃんの誕生日8月25日の事を思い出す。


 ―――――――――――★ 二人だけの誕生日 ★――――――――――


「じゃあお姉ちゃん行って来るから」
 毎年私が改めて言わなくても蒼ちゃんの誕生日にはついて来ようとする慶が、今回に限っては付いて来ようとする気配を感じない。
 まあ、来ると言い張っても粗野な慶を蒼ちゃんの部屋には上げられないけれど。
 それと今日の誕生日の日の事は、もう蒼ちゃんと可愛い後輩は知らない仲じゃないから、合わせて声を掛けようかと蒼ちゃんに聞いてみたのだけれど、誕生日は私と二人だけで良いって言ってくれた。
 もちろん私を慕ってくれる後輩で、あの戸塚君とか言う全然良いイメージが無い蒼ちゃんの彼氏の事を良く思っていない二人。私としては蒼ちゃんの理解者として是非呼びたかったのだけれど、蒼ちゃんが誕生日だけは、私に祝って欲しいって言ってくれた。親友からそんな風に言ってもらえたらやっぱり私は嬉しい。
 だから今日は結局誰にも声は掛けていない。慶は毎年の事で蒼ちゃんの誕生日の事を知っているだけだ。
「……ねーちゃん。これ蒼依さんに」
 私が靴を履いて家を出ようとしたところで、慶がラッピングされた小さな包みを手に部屋から出て来る。
「蒼ちゃんに選んだ慶からのプレゼント?」
 私の確認に視線を逸らして首を縦に振る。
 本当に蒼ちゃんに対してラブなのが分かる、伝わる。
「今年はババァのせいで行けそうにねーから、ねーちゃん頼む」
 その上でお小遣いの事があるからと、宿題を済ませると言う。
 普段の生活から波のある慶だけれど、蒼ちゃんの事に関しては一貫している。
「分かった。ちゃんと慶の気持ちは蒼ちゃんに伝えといてあげるから。それと、今日夜遅くなって良かったらお姉ちゃん夜ご飯準備したげるけれど、どうする?」
 慶が人の事を考えながら自分の事もきっちりすると言うのなら、私が放っておく訳にはいかない。
「……ねーちゃんが作ってくれるなら待つ」
「分かった。お姉ちゃん作ったげるから、帰って来るまで我慢しなよ。お小遣い減額阻止のために頑張るんでしょ?」
 私は慶を励まして蒼ちゃんの家へと向かう。

 お盆の前に蒼ちゃんの手作りのお菓子を持って来てもらったのを最後に、久しぶりに見る蒼ちゃんの顔。
「蒼ちゃん久しぶり」
「愛ちゃんも久しぶりだね」
 平日の昼下がり。だから蒼ちゃんのご両親はいないし、正真正銘の二人きりだ。
 だから、本来なら今日も長袖を着ている蒼ちゃんの話を誰に聞かれる事の無いこの家の中で、聞きたかったのだけれど、今日は蒼ちゃんの誕生日なのだから、蒼ちゃんにとって辛い話はしたくない。
「今朝からホールケーキを作って、今は冷やしてるから夜にみんなで食べよう」
 ホールケーキって……この夏休みで、増々蒼ちゃんの腕は上達しているんじゃないのか。
「今日は蒼ちゃんが主役なのに、何で蒼ちゃんが準備してるの?」
「何でって、夏休みの宿題も終わったし特にやる事も無いから?」
 やる事なくてホールケーキを作り出す学生ってあんまりいないんじゃないだろうか。それともお菓子を作るのが好きな人は、みんなこんな感じなのだろうか。
 それにしても蒼ちゃんは進学希望じゃないのに、宿題だけは先に済ましている。こっちはこっちで宿題を終えていないと、毎年のお誕生日を祝ってもらえないそうで。
 そのおかげで、この日までには宿題を終える癖自体は付いたって言う蒼ちゃん。
「とにかく。今は愛ちゃんがお客さんなんだから、蒼依の部屋で先に待っててよ」
 私が考えている間に、私の事までお客さん扱いし始めた蒼ちゃんによって、先に蒼ちゃんの部屋にお邪魔させてもらう。

「……」
 その蒼ちゃんお部屋はいつもほんのりと甘い。この辺りは私の部屋とは全然違う。私も友達の家にあんまりお邪魔した事が無いけれど、どうして蒼ちゃんの部屋ってこんなにも女の子らしい甘い匂いがするのか。
 どうしても蒼ちゃんと比べると、自分の女子力に自信が無くなる。
 ただ私の自信もそこそこに、蒼ちゃんの机の上に置いてあるレットに目が留まる。
「……お菓子教室?」
 私が手に取ろうとしたところで、蒼ちゃんが二つのカップをトレイに乗せて姿を見せてくれる。
「それ。実はお盆明けから通ってるんだ」
 私の目線の先を追った蒼ちゃんが先回りして答えてくれる。
「え?! お盆明けからって学校は?」
 元々私との時間のためにって、一緒に通っていた学校の事と、
 ――蒼依の希望通り余計な事を言わずに、進学じゃなくて好きな料理学校
      に行かせていたら、もっと笑ってくれていたのかしら―― (43話)
 不意におばさんの言葉を思い出す。
「……もう愛ちゃんは……本当に甘えん坊さんなんだから。このお菓子教室は週に一回で、土曜か日曜だけ。だから愛ちゃんは変な心配をしなくても大丈夫だよ」
 でもそこは私の事をよく知ってくれている蒼ちゃん。空かさず立ったままの私を抱きしめてくれる。蒼ちゃんの温もりを感じて安心した私が、蒼ちゃんの背中に手を回すと、
「いくら愛ちゃんでも、そんなに匂いを嗅がれたら恥ずかしいよぉ」
 どうにも身に覚えのない事を言われて渋々離れる。


「ところで最近愛ちゃんは空木君と仲良くやってる? 意地張って喧嘩してない?」
「意地なんて張って無いって。それにあれ以来喧嘩なんてしてないよ」
「じゃあ会長さんは? あれ以来会長さんに優しい言葉かけてない?」
「優希君にあれ以来言われていないから、大丈夫だと思う」
 久しぶりに会う蒼ちゃんとの会話。今日は慶からの贈り物もあるからと言う事で、カバンに手を入れた矢先、聞かれるのは私の事ばかり。
「じゃあ彩ちゃんや空木君に蒼依から聞いても平気?」
「そりゃ聞いてもらっても良いけれど、今日は蒼ちゃんのお誕生日なのに私の話なの?」
 今日は蒼ちゃんが主役なんだから、いくらでも私が聞き役に回るのに。でも服の事もそうだし、彼氏に誕生日にを祝ってもらわなくても良いのかとか、今日私との二人きりが良いって言ってくれた蒼ちゃんからしても、あまりいい印象の無い戸塚君の事も、ましてや教室での話なんか出来るわけも無くて。
「愛ちゃんには空木君と大喧嘩をしたって言う前科があるから良いの」
 その言い方だと私が悪いみたいになっている気がするし……まあ実際には私にも落ち度自体はあった訳だけれど。
 このままだと、増々雲行きが怪しくなりそうだからと、私たち姉弟から蒼ちゃんへの贈り物で、一度話を変えさせてもらう。

「えっと。今回は慶久君からもあるの?」
 テーブルの上に置いた二個の包みを見て驚く蒼ちゃん。まあ、最初慶から渡された時は私も驚いたけれど。
 よく考えたら慶は蒼ちゃんの事が大好きなんだから、むしろ今までの方がおかしかったのかもしれない。
「私も中身が何かは知らないけれどね」
 そう思うと、慶が蒼ちゃんに何を送り付けたのか少し心配になって来る。何か変な物でなければ良いんだけれど。
「わぁ! 可愛いねぇ」
 私の心配をよそに、感嘆の声を上げる蒼ちゃん。蒼ちゃんの手元に目を向けると、鶏をモチーフにした目覚まし時計だった。
「……なんか慶久君らしいね」
 その目覚まし音が、ロック調の鶏の鳴き声で、思ったより大きかったその鳴き声に二人してびっくりする。
「まああの子。朝が弱いからどうしてもね」
 まあ、蒼ちゃんが喜んでくれているから文句は言わないでおく。これは慶を褒めても良いかもしれない。
「……慶久君には悪いけど、やっぱり愛ちゃんからの贈り物の方が嬉しいかな。毎日持ち歩きたくなるコンパクトミラーをありがとう」
 そして蒼ちゃんの喜び方に、私の鼻がスッと高くなる。
「まあ蒼ちゃんの事は、慶なんかよりも私の方がよっぽど知っているからね」
 私が、蒼ちゃんの好みを外す訳が無いってね。 


 ―――――――――――★ 二人だけの誕生日 完 ★――――――――――


 それにしても蒼ちゃんがお菓子教室に通い始めたなんて全然知らなかった。
 私は朝ご飯を食べながら、あの綺麗にデコレートされたケーキを思い出す。
 蒼ちゃんのご両親もびっくりするくらいのホールケーキを作っても、まだまだ学ぶことは多いと言う。あまりにも美味しかったからと言う事で、私も恥を忍んで、慶の分と切り分けてホールケーキをおすそ分けしてもらったのだ。
 お菓子の世界はお料理よりもよっぽど深い気がする。
 そして慶の分の夜ご飯を作ってやると言う約束の事も思い出して、後はご家族の時間。私はお暇させてもらった。

 私は一度自室に帰ってリップを引いている間に、慶が起きて来たみたいだから、
「今日からお姉ちゃん夕方まで授業があるから、お昼にお弁当作っておいたから持って行くなり、家で食べるなりしなよ」
「マジで?! サンキューねーちゃん」
 蒼ちゃんを喜ばせてくれたからと、今日のお昼の事を伝えてやると、私のお弁当一つでお昼代が浮くのがそんなに嬉しいのか、今日の慶は朝からご機嫌だ。
「じゃあお姉ちゃん。先に行くから戸締りだけはして行ってよ」
 その慶に任せて、今日は私の彼氏と一緒に登校する。


 今日は全校集会もあっていつもよりも早い時間の登校にもかかわらず、
「今日も優珠希ちゃんと一緒なんだ」
「……何よ。なんか文句でもあるの?」
 さも当然のような顔をして、今日も左右に結った髪を自分で撫でながら、優希君の隣に陣取る優珠希ちゃん。だけれど、優珠希ちゃんが認めてくれつつある優希君との仲。初学期の時とは違うのだ。
「……愛美さんおはよう」
「おはよう優希君」
 私は妹さんの邪魔をうまくかわして、私の腕を優希君に絡ませた上で、少しだけ抗議の意味も含めて強めに恋人繋ぎをする。
 けれど私の抗議に対して、痛いはずの手を我慢しながら嬉しそうにしてくれる優希君。
「ちょっとアンタ! わたしがいる事、忘れてるんじゃないでしょうね」
 そう言ってまた、優希君にバレない様に私の足を器用に蹴ってくる妹さん。
「あっと大丈夫?」
「うん大丈夫だよ。ありがとう優希君」
 その妹さんを利用させてもらって、私は優希君にもたれかかる。たったそれだけの事で、私に締まりの無くなった表情を見せてくれる優希君。
「ほら。やっぱりお兄ちゃんが格好悪くなってるのはアンタのせいじゃない」
 相変わらず違和感のすごい制服で、私と反対側の優希君の隣に移る優珠希ちゃん。
 まあ、妹さんの方は約一か月ぶりくらいで元気な姿を見られたのは良い事だと思うけれど。
 それでもいつも通り私に対しては可愛くない。
「格好悪い……」
 まさか仲の良い優珠希ちゃんから言われるとは思っていなかったのか、軽くショックを受けている優希君。
「私の彼氏はとってもカッコ良いよ。私の事、信じてくれるんだよね」
 だから励ます意味も込めて、優希君の腕にきゅっと抱きつく。
「愛美さん……」
「優希君……」
 私が素早く唇を湿らせたところで、
「痛っ?!『ちょっとハレンチ女。朝からお兄ちゃんにだらしのない顔をさせた上、誑かせるなんてちょっと調子乗り過ぎじゃないの?』――『ちょっと優珠?!』――」
 何が調子乗り過ぎなんだか。
「いくら優珠希ちゃんだからって、私の彼氏を落ち込ませるのは辞めてくれる?」
 人の事は散々ハレンチ女だとか、性悪女だの言っておきながら、今の自分の格好は何なのか。
「何? お兄ちゃん。まさかこのハレンチ女の味方をするってゆうんじゃないでしょうね」
 私の腕から一向に離れる気配のない優希君に半眼を向ける優珠希ちゃん。
「ちょっと優珠?! 僕の彼女にって、そうじゃなくて! 今日は愛美さんに言いたい事があるんじゃなかった?」
「ちょっとお兄ちゃん?! 何いい加減な事をゆってるのよ。どうしてわたしがこのオンナと話す必要があるのよ」
 あの日以来当たり前のように言葉にするようになった“私の彼氏”“僕の彼女”。その言葉の重さ、私たちの繋がりがハッキリと分かるから、とりとめのない普通の言葉でもこんなにも嬉しくなれる。
「優珠希ちゃんが私に言いたい事があるなら、ちゃんと聞くよ」
 だから優希君が優珠希ちゃんの方を向いて頭を撫でている間に、思いっきり舌を出して挑発する。
「ちょっとアンタ! 何が“ちゃんと話を聞く”よ。全然聞く気ないじゃない」
「ちょっと優珠。愛美さんに会えて嬉しいのは分かるけど、もうちょっと穏便に仲良くしてよ」
 ただそれだけの事で、夏休み中の優珠希ちゃんの事を教えてくれる優希君。
「う?! 嬉しいって……お兄ちゃんまで魔女の手先に落ちてどうするのよ」
 私の事だけが、私の大切な朱先輩の事を魔女って呼ぶ優珠希ちゃんに筒抜けになるなんて、私が黙っているわけがない。
「で? 優珠希ちゃんのお話は良いの?」
 今日は統括会があるから、あまりゆっくりしている時間は無いよって言う意味で聞こうとしただけなのに、
「~~っ! 良いわよ! わたしからハレンチ女に話す事なんて何も無いわよ! ま、精々その腹黒さでお兄ちゃんに愛想を尽かされない事ね」
 私に対してまた失礼な一言と、嬉しい一言をそれぞれ残して“確認したい事があるから”と先に行ってしまう。

 それにしても、私との縁が切れるのは嫌だと言ってくれた優珠希ちゃんが、優希君に愛想を尽かされない様にって……どう考えても素直じゃない中に、優珠希ちゃんの気持ちがにじみ出ているなって思いながらその背中を見送る。
「愛美さんも仲良くしてくれるのは嬉しいけど、優珠は素直だから、もう少し優しく接してくれると嬉しいかな」
 その私に、まさかの真逆の感想。
 さすがに驚いた私が聞き返すと、
「優珠が思ってる事は、すぐに態度や言葉に出るし、一度気を許した相手にはあまり取り繕わずに話もするくらいだから」
“だから優珠にはあまり友達が出来ないんだろうけど”と、小さく零す優希君の表情は何となく“お兄ちゃん”の表情で。
 しかも間違ってもいないから……また別の形で二人の繋がりの強さを垣間見た気がする。
「ごめん。次からは気を付けるね」
「別にそこまで深く考えなくても大丈夫だって。ただ優珠の事を知っておいて欲しかっただけだから」
 そう言って私の頭を優しく撫でてくれる優希君。
「それに優珠の耳を見る限り、あれでも楽しんだって言うか、喜んでるのは分かるし」
 でもその心は妹さんに向いていて、そこでまた面倒臭い私が顔を出す。
「ねぇ私は? 私も素直だよね」
 私に心を向けて欲しくなった私が優希君に聞くも、
「愛美さんは素直じゃないし、いつも本音と建前があるよね」
 言い換えてしまえば腹黒だって言われている気がする。これって妹さんが繰り返し言ったせいで、優希君の印象が変わってしまったんじゃないのか。
「え?! 優希君の中の私ってどうなってるの?」
 だとしたら今の内に訂正しておかないと、後で由々しき事態になりそうだ。もしそうなったら妹さんに思い切り八つ当たりさせてもらおうと決める。
「えっと、友達の月森さんの時は、本当は僕と二人きりにしたくなったのにやむを得ず、僕への告白を許してくれた。一年の子は一緒に行きたかったけど、何でか今でも分からないけど迷った挙句ついて来るのを辞めた。色々きつい事を言ってはいても、本音としては雪野さんとは一緒に最後まで活動したいだけだよね……まあ独りにさせたくないって言う気持ちもありそうだけど。あ。でもこれは見たまんまだから素直で良いのか」
 ……なんかもうほとんどバレバレだった。なのに、どうして肝心の私の女心の部分だけは分かってくれないのか。これって嬉しいはずなのに、一番面白くない流れなんじゃないのか。
「え?! ちょっと愛美さん! おはようのち……キスは?!」
 しかもよりにもよって、何の痴言を口走ろうとしたのか。そんなに私にイジワルして恥ずかしがらせて楽しいのか……好きな人にしかイジワルをしないから、楽しいのか。このままだと全面的に私の負けのような気がする。
「今日はナシね」
 絡めた腕を解いて、本当に久しぶりに普通に手を繋ぐだけにする。
「でもさっき愛美さん、唇濡らした――」
「――私の素直じゃない気持ち、分かってくれているんでしょ?」
 妹さんばっかり優しくして、気持ちを向けて。だったら全然分かってくれていない、私の女心を盾にさせてもらう。
「……そんな」
 私のにべもない返事に優希君の肩が大きく下がる。
 でも初っ端から夕方まである学校。
「今日は一日長いって」
 優希君を一言励まして、いったん自分の教室へと向かう。

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