第138話 同調圧力の怖さ ~分水嶺~ Aパート

文字数 8,657文字


 二年から私に対する散々な印象を聞いて教室に戻って来た時、件の女生徒Aからは、何故か怨念のこもった視線を貰う。
 また、それ以外の生徒からもなんとなくざわついた雰囲気の中、実祝さんの不安そうな表情が私の目につく。だから私が実祝さんに手を抜くな、全力で取り組むようにと言ったのだから、実祝さんに向かって安心してもらえるように、一つ大きく首を縦に振る。
 取り敢えずはそれで安心して貰えたのか、他の女子グループからの視線にさらされながらも、集中してくれていたようには見えた。
 その中で迎えた終礼。
 もちろん私も朝寝坊するくらいには準備をしたのだから手ごたえがないわけじゃない。ただ実祝さんには模試とか、全国の受験生とかそう言った事は一切関係なく今回も勝っているかは気になるところでもある。まあ、あれだけの啖呵を私に切った女生徒Aは、私が今朝宣言したからか、今日の学力テストじゃなくて明後日の『健康診断』。つまり蒼ちゃんの前腕に付けたアザの事が気になって浮足立っていて、テストに全く集中出来ていなかった事は丸分かりだった。
 これだともう、先生の話だとか、勉強しているかだとかしていないかとか言う以前の問題だ。
 その教室内の空気が弛緩する間もなく、担任の先生が入って来てそのまま終礼が始まる。
 その時に改めて伝えられたのが、このテストから中学期の成績に反映される事。だから国公立を考えている生徒は悔いの無いようにしっかりと取り組むようにとの事が伝えられる。
「それと岡本! ちょっと確認したい事があるから少しだけ俺に時間をくれ」
 解散直前で、後輩二人の説教に行こうとしていた私を呼び止める先生。
 だから朝以来蒼ちゃんと喋る事も、一日かけて喋る事が出来なかった咲夜さん。諸々聞きたい事もあったのだけれど、どうしてもなら、また夜にでも電話する事を決めてしまって、少しでも早く先生の用事を済ませようと、そのまま先生の所まで駆け寄る。


「毎回呼び止めてスマンな。少し聞きたいんだが、あいつは昨日岡本に何を言おうとしたんだ? それとも、誰に何を言おうとしたんだ? って言う方が正しいのか? 昼休みの件と言い、何を聞いても答えてくれなくてな。差し支えなければ教えてくれ」
 まさかの女生徒Aの事なのか。結局昨日も今日もあれだけの啖呵を切っておきながら、どっちにもダンマリとか、裏でコソコソしているくせに格好悪すぎる。
「私も途中で止められたから何を言おうとしていたのか分かりませんが、今朝は実祝さんに“勉強するな”みたいな事を言っていました」
 実祝さんと咲夜さんの事は先生にお任せするって決めたのだから、昨日先生が言ってくれた“誰に”“何を”を中心に、隠さず話してしまう。
「それと私との話の事も、咲夜さんに対してしている事を聞いたのに、何も答えてくれなくて分かりませんでした」
 私の言葉をノート手帳に書き込んでいく先生。
 咲夜さんが私の彼氏に告白した事は、咲夜さんの名誉と先生の私への気持ちを考えて黙っておく事にする。
「ありがとう岡本。おかげで昨日いくら聞いても分からなかった事がまた少しわかった」
 書き終えた先生が私にお礼を言ってくれるけれど、
「また少しわかったって……何かあったんですか?」
 もしや蒼ちゃんの何かに当たった当たったのかと思って聞くも
「いや。あいつ自身プライベートの事だから岡本は気にするな」
 全くの見当外れだったのか、先生がそのまま教室を出て行こうとしたところで、慌ててその先生を呼び止める。
「先生に言おうと思いながら中々言えなかったんですが、初学期の時に一度お話した私のお願いを聞いてもらっても良いですか?」
 これから説教をしないといけない後輩二人の事もそうだけれど、優珠希ちゃんもまた私にとっては大切な後輩なのだ。
「……改まってどうしたんだ? 初学期の時って……ひょっとして前に少しだけ聞いた園芸部の事か?」 (112話)
 放課後の教室内、あらかたの生徒は帰ってしまったけれど、女生徒Aを含む数人はまだ教室内に残っている。
「そうです初学期の時、今年度一杯部活停止になったその園芸部なんですが、何とかなりませんか?」
 私のお願いと言う言葉に、確かに覚えていてもらっていたと分かるような、露骨に顔をしかめた先生に、私は笑顔を向けながら、夏休みの時に見た園芸花壇の話をする。
「何とかって、それこそお前ら統括会の腕の見せ所だろ」
 確かにそう言われれば間違いないのだろうけれど、今の統括会は雪野さんの事で精一杯なのだ。
「じゃあ私にとって頼りになるはずの先生は、初学期からお願いしていたにもかかわらず、私のお願いを“何も”聞いてくれないんですか?」
 だから先生の協力が何とかして欲しかった私は、実祝さんの成績の件が残念な結果に終わってしまった事と、初学期の時の話を持ち出して、何とか聞いてもらおうと“お願い”する。
「俺が頼りになるって……岡本は俺に何をどうして欲しいんだ?」
 しかめた先生の表情が、だんだんとひきつって来る。
「本格的に園芸部活動再開の交渉をお願いしたいんです。大体学校側だって進学率を上げたいはずなんですから、進学の際の内申に影響するような園芸部の活動記録、活動内容だってあった方が良いんじゃないんですか? 本当にこのまま来年度まで放っておいたら、すぐに活動できなくなっちゃいますよ」
 当然先生からお願いするのだから、学校側の内情だけで話をしてもらわないといけない。だから先生に交渉してもらう時には、生徒側の話をしてもらうわけにはいかないはずなのだ。
「岡本……お前、どこで内申とか活動記録とかそんな事調べて来るんだ?」
 最後には先生がいつも通り嫌そうな表情を私に向けて来るけれど、植物好きの二人の後輩の事、植物も同じ命を預かる部活だと言う事を考えると、使えそうなカードは一枚でも多く温存しておくべきだと私は、思うのだ。
「どこでも何も私だって統括会のメンバーなんですから、倉本君だけに交渉を任せたりしませんよ」
「倉本って、あの習熟度テストの時に呼びに来た会長の事か?」
 ……驚いた。まさかそんなところまで覚えているなんて。そう言えばあの時、倉本君に向ける先生の雰囲気は少し違ったっけ。
 でもあの時、先生の方から私を倉本君に渡したんじゃなかったっけ。 
 だったら、ここで先生に私のお願いを本気で聞いてもらえるかもしれない。
「そうですよ。あの会長、あれでもかなりの交渉力を持っている事は先生もご存知ですよね。だったら私も同じ統括会のメンバーなんですから、倉本君を目標にするに決まっているじゃないですか」
 先生の私への気持ち、あの時見せた倉本君への嫉妬。だったら私はその男性としての先生を刺激させてもらうだけだ。
 もちろん私の答えも先生の気持ちも直接言葉にした訳じゃ無い。だからこれはあくまで私の“勝手な”想像でしかない。
 ただ先生の態度と、今の雰囲気から私が勝手に想像しただけだ。
「倉本の交渉って、まだまだ学生でそこまで場数を踏んだわけじゃないだろ?」
「それでも、私たちでは及びもしなかった答えも出してくれていますし、実際あの教頭先生から単身で、色んな情報を引き出してくれているのも事実ですよ」
 まあ、倉本君のすごい所は実際目にしているし、優希君も嫉妬してくれるくらいには立派だとは思う。でも私は、それでは幸せになれないし、彩風さんがその倉本君を支えるべきだと思うのだ。
 でもそこまでの話もまた、今は必要ないわけで。
「……」
 私の言葉を先生が真剣な顔をして吟味している。
 本当に男の人のこう言うのって分かりやすいなって思う。
 いい加減こっちもあの可愛さが無くなりつつある後輩二人を叱りに行かないといけないのだから、先生の男性の部分を後少しだけ刺激させてもらう。
「先生は、私にとって頼りになる先生って信じても良いんですよね?」
「……はぁ。まあ聞くだけは聞いてやるし、俺になりに統括会よりも内情を知ってる分、しっかり話はしてやるけど、過度な期待だけはするなよ」
 ため息を一つついた先生が何となく嫌な表情から、自信をのぞかせた表情に変わる。
 だったら私なりに、頼りになる先生を応援、激励するだけだ。
「じゃあ先生の事、頼りにしていますから、“今度こそ”私を笑顔にしてくださいね。先生っ」
「……分かった。どうせ岡本の事だから、夕摘の期待の応えられなかった分、園芸部の方で頼りにしたい。統括会の倉本とか言う会長と俺を比べたいとかそう言う事なんだろ」
 驚いた。私の裏の気持ちまでバレている。これじゃあ私が本当に腹黒女みたいだ。
「ありがとうございますっ! じゃあ今度こそ先生の頼りになるところを私に見せて下さいね!」
 うまく行かない事も多いけれど、私の気持ちを分かってくれる人が増えて来るのは恥ずかしくも嬉しい。だから私は照れ隠しで、全部笑顔でごまかしてしまう。
「……本当に岡本は今でも十分にイイ女だな」
 そして久々に先生から貰えた“イイ女”発言。優希君にもいつか言ってもらえたらなって思いながら、私は先生を見送る。
 そして気分が良いまま、改めて二人の後輩を説教するために二年の教室へと向かう。


 先生と園芸部の話をしていたからか、少し遅くなった分だけ二年の廊下や教室にはもう生徒はまばら程しかいなかった。
 その中で以前顔をのぞかせた同じ教室を訪ねると、
「愛先輩……」
「久しぶりです愛先輩」
 二人共が私の来るのを待ってくれていたけれど、明らかに彩風さんの方は不満顔だ。
「中条さんとは初学期以来だよね」
「確かに。今日の昼休み副会長が来て愛先輩とは仲良くやってるって聞いて、あーし安心しました」
 だからそのままの雰囲気でお説教を始めようかと思ったのに、まさかの話に私の方がコケそうになる。まさか優希君、昨日あれだけきつくって言ったのに、ちゃんと話をしてくれていないのか。
「中条さんが私と優希君の仲を心配してくれるのはとっても嬉しいんだけれど、今日なんで私がここに来たのか優希君か彩風さんからちゃんと聞いてくれている?」
 不満顔の彩風さんもちゃんと伝えてくれていないのか。
「……まぁ、聞いてはいますし副会長からも言われましたけど、あーしらも雪野ばっかりにかまってられませんって」
 気まずそうな表情をしながら、あらかじめ用意していたと分かる言い訳をいっぱしにしてくる中条さん。
「雪野さんばっかりにって、昨日一日だけとかあの半日の登校日だけでもそう負担に感じたの?」
 一か月毎日つきっきりだって言うのなら、中条さんの言い訳も分からなくはない。
 雪野さんとしても二人とも違うクラスだろうし、彩風さんや中条さんにも自分のクラスの事とか、久しぶりに会う友だちの事もあるだろうから、無茶は言えないし言う気もない。だけれど登校日だった日は授業も無かったし、わずか半日も無かったはずなのだ。
 それに昨日も授業に関しては半日しかなかったし、トイレで休み時間を過ごさないといけなくなるほどって言うのは、ちょっと度が過ぎているんじゃないのか。
「愛先輩の言いたい事は分かりますけど、たまに教室をのぞいても雪野の姿が無いんじゃどうしようもないじゃないですか。それに昨日の昼は、愛先輩と彩風に手を出した停学の明けたサッカー部男子と昼食ってたって言うじゃないですか」
 なのにまた他の生徒と同じように口をそろえる中条さん。もう語るに落ちていると言う事にも気が付いていないみたいだ。
 初学期の最終日にみんなでしたあのお茶会は一体何だったのか。
「その事と雪野さんのフォローをしない事と何か関係があるの? 私との約束を守ってくれない事と何か関係があるの?」
 手や足を出したのはサッカー部男子の方で、雪野さん自身はその事を全く知らされていなかった『善意の第三者』である事は彩風さんに電話で説明して、中条さんも理解してくれたんじゃないのか。
「関係って、昼してた愛先輩にも、あの日迷惑をかけたじゃないですか」
「あの時も雪野さんは関係なかったよね。なのに何で雪野さんが主犯みたいになってんの?」
 あれだけ念押ししていたにもかかわらず、どうして何もかもを飛び越して“雪野さんが悪い”みたいな風潮が出来上がった上、みんなして流されているのか。特に今、目の前にいる二人にはその流れを止める側に立っていてくれないといけないはずなのに。
「主犯って、そりゃ愛先輩を泣かせて、あれだけ自分勝手な振る舞いばかりしてるんですから、仕方ないじゃないですか。だいたいあーしら、雪野から謝ってもらってないんですよ? なのにあんな男とつるんでるんですから、これ以上フォローのしようはありませんって」
 それって、私がお願いしたフォローはしていないって事なんじゃないのか。私の事を慕ってくれていると思っていた可愛い後輩の言い訳に思わずため息がついて出てしまう。
「……今ため息つかれた気がするんですけど、あーし何かおかしいですか?」
 さすがにムッとしたのか、中条さんの声と雰囲気が少し変わる。
 これで先輩って便利だって私の前で言い切った雪野さんに、今この場を見せたら何て言うのか少し聞いてみたい。
「ハッキリ言っておかしいよ。まず一つ目。改めて聞くけれど、どうして雪野さんが主犯になってんの?」
 今日は二人を叱ると決めたのだから、腕を組んで少し大きめの態度で挑ませてもらう。
「雪野が愛先輩を泣かせて、その雪野の友達もまた愛先輩と彩風に手を出してるじゃないですか。あの時、あーしら怖かったんですから」
「怖かったのはあのサッカー部男子で、雪野さん相手じゃ無いよね。それに中条さんはあのサッカー部男子からも、私を守るのは優希君の役目だし、雪野さんに浮気したのも優希君が悪いんだって言って、私の彼氏を“グー”で殴ったって優希君から聞いているんだけれど? それでさらに雪野さんが悪いって、それだと中条さんもちょっと勝手すぎるんじゃない?」
「そんなの浮気した男も、浮気を誘った女も悪いに決まってるじゃないですか」
 中条さんの初めの時から変わらない、とにかく男の人が悪い。その考え方までは否定する気はないけれど、でも当事者である私と優希君で、もう話自体は付いているのだ。どころかもう優希君とは口付けまでする関係になって、本当の初めても私だった事まで分かっている。
「でも私は彩風さんに、浮気された私にも落ち度があって、お互いに話をして納得したってちゃんと言ったけれど」
「そうやって惚れた弱みでいつも女が無き寝入りをしないと駄目なんだじゃないですか」
 私の事を考えてくれるのは分かるけれど、それは私と優希君の本意的な考え方じゃない。
「じゃああの初学期の最後に私と優希君の仲を応援してくれるって言ってくれたのは嘘だって事? それとも許せないと思いながら、応援するって口先だけの言葉を私にかけたって事? だったらせっかくの可愛い後輩なのに、私は残念だよ」
 それに中条さん自身の態度にも一貫性があまり感じられない。応援してくれるのか優希君を許せないのか、雪野さんとの話と言うか感情がごっちゃになっているのが丸分かりだ。
 その自分の一貫性を欠いた中条さんの発言にがっかりする。
「それは嘘じゃないですし、ただあーしは愛先輩が心配だっただけで」
 私が言った“嘘”と言う言葉にショックを受けたのか、真っ先に否定するけれどその言葉尻は弱い。
 私は中条さんに目を眇めながら、もう一つ付け加えさせてもらう。
「それと関連してもう一つ。私、優希君がした事を分かった上で、仲直りをした事、その上で雪野さんのフォローをお願いしたはずなんだけれど、最終的には私のお願いに快諾してくれたんじゃなかったの?」
「……確かに全部愛先輩の言う通りですけど、肝心の雪野がいないんじゃどうしようもないじゃないですか」
 あ。今、言い訳を探した。彩風さんだけじゃなくて、中条さんまで私に反抗的な態度を取るとは思っていなかった。
「中条さん。今回中条さんを叱るのは初めてだから一回だけチャンスをあげるけれど、今の言葉を撤回するなら、今の内だよ」
 私の宣言に一度それっぽい経験があるからだろうか、彩風さんが止めに入る。 (89話)
「撤回って何ですか? 大体彩風も雪野がいない事は知ってますって」
 甲斐もなく中条さんが言い切るのを受けて、彩風さんが諦めてしまう。
「中条さん。いくら可愛い後輩でもその言い訳は駄目だ『言い訳って! あーし、ちゃんと愛先輩との約束を守ろうとしてるじゃないですか! なのにその言い方はいくら愛先輩だからって酷くないですか?』――酷い? 何でよ。中条さんも納得してくれたはずの私との約束を守ってくれていないじゃない」
 また先輩とか言い出すし。この先輩がそんなにも便利に見えるのか。今の私は先輩と言う言葉に振り回されているだけにしか思えないんだけれど。
「愛先輩。その言い方はさすがに――」
「――約束約束って、中条さんは雪野さんのフォローしてくれた? 話を聞く限り言い訳ばかり作ってフォローしているようには聞こえないんだけれど? それに私は、雪野さんと四六時中一緒にいろだなんて一言も言ってないよ。なんで私と優希君の仲を二年で訂正してくれていた二人共が、雪野さんの良い所の一つでも挙げて周りに伝えてくれないの? 私との時と、私がお願いした雪野さんの時と、何がそんなに違うの? それなのになんでみんなと一緒になって今、サッカー部の男子とお昼していたと言ったみたいに、みんなに“同調”しているの?」
「それは……雪野があの男子と――」
「――ご飯を食べたらダメなの? 喋ったらダメなの? 一度向こうが失敗したらもうその人とは仲良くしたら駄目なの?」
「そりゃ当然――」
「――だって言うなら、私、優希君とも喋れないね」
「……っ!」
 反論しようとする中条さんの言葉を次々と摘み取っていく。
「優希君と二人で決めてしまった、服装チェックの時のあの期限の話も伝えていなかった私たちとも喋れないね。彩風さん」
「――っ」
 前にも思ったけれど、学生の間は出来る失敗も多いし“ごめんなさい”ですむ失敗や迷惑も多いはずなのだ。
 もちろんそこには限度もあるし、相手によって変えないといけない態度とか言葉遣いなんかもある“かも知れない”。
 でもそれらを全部無視して雪野さんだからと切ってしまうのなら、
「雪野さんが暴力を振るっていた噂が流れていた時のサッカー部男子と同じで、フォローをお願いしていた二人から、“友達だ”って言っていた彩風さんからもそれを止めるような声は一切聞こえてこなかったんだけれど。二人共があのサッカー部男子と同じ事をしているって私、とっても良いの?」 (83・89話)
「――っっ」
 私の改めての確認に、初めて私の言おうとしていた事が分かったのか驚く二人。
 その二人の返事を待つけれど、時折私の方を窺うように見ては来るけれど、その返事自体は無い。
「じゃあ中条さんはあのサッカー部と同じ事をしたって事で。それと、雪野さんが謝っていないって言ったけれど、それも私、統括会として謝るって言ったし、あの昼休みの話自体も無かった事にする、認めないって私、ちゃんと言ったよね。中条さんがそこまで私の話を聞いてくれていなかったのも分かって、本当に残念だったよ」
 全校集会で謝る事も、この二人にはしっかりと言い含めたつもりなのに、本当に同調圧力って言うのはどうしてこうも簡単に人を変えてしまうのか。
 別に謝って欲しい訳じゃ無い。ただ、集団同調に流されるって言うのがどう言う事なのか。それを止めるために、私は二人に言った事をしっかりと今一度思い出して欲しいのだ。
 その中条さんも自分では分かっているのか、不満顔を残しながらも言い訳は自体は無くなっている。
「分かった。じゃあ私の方も今から中条さんとはそのつもり――」
「――愛先輩ごめんなさい。あーしが間違ってました」
 私が

中条さんへの説教を終わらせようとしたところで、頭を下げて来る。
 この辺りは優珠希ちゃんや今も不満そうな表情を浮かべている彩風さんとは違って、素直で良い所だ。
 本来ならこのまま雪野さん本人にも謝らせたいけれど、二人を仲良くするのにそう言う感情の部分で強制すると言うのは、今日する“同調圧力・集団同調”の話と離れそうだからとここではしないでおく。
「じゃあ、明日からはもう一度雪野さんの事お願いできるの?」
 だから、あくまで私のお願いを聞いてくれるかどうかに話を留める。
 まあ、急がば回れとも言うし。
「もちろんですけど、何かあったら愛先輩にあーしから電話しても良いですか?」
「――っ!?」
「そう言う事なら良いよ。でも、次は無いからね。そこだけはハッキリ線引きするよ」
「分かりました。ありがとうございます」
 被圧側に立たされた人間からすると、本当にしんどいはずなのだ。それはもう蒼ちゃんや咲夜さんを見ていれば、分かる。
 いや分かるとは言ってはいけない。その気持ちは私には計り知れないほどの負荷と負担をかけるのだから。
 その同調圧力に二度も流されたのだから、気にならないと言えば嘘になるけれど、今からは何かあれば連絡が来るのだからと、可愛い後輩の事を後一回信用する事にする。

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