第141話 断ち切れない鎖 終 ~抵抗・約束~ Aパート

文字数 8,609文字


「ちょっと待って下さい!『健康診断』は四日だって言ってたじゃないですか!」
 イチ早く状況を把握したのか、女子2グループから先生に対する強い抗議が上がる。
 その一方で私の方もとにかく逃げられない様にと、悪意の的にならない様にと蒼ちゃんの元まで駆け寄って、少しでも私たちの想いが届くようにと、その手をしっかりと強く握る。
「そんな事を言ったってもう決まってしまったものはしょうがないだろ。検診をしてくれる相手の都合もあるんだ。それとも今日実施すると何か困る事でもあるのか?」
「……愛ちゃんは今日の事知ってたんだ」
 先生の問いかけの中で、腕の事を知りたがっていた私を、蒼ちゃんが真っ先に疑って来る。
 一方先生の方も、あの腹黒からも学校側からも本当に蒼ちゃんの事は知らされていないのか。それとも純粋に『健康診断』の役に私たちを選んだだけと言うのか、はたまた選ばされたのを見る限り本当は知らされているのか。先生のその表情からは読み解こうにも分からない。
「違う。私は本当に知らなかった。これだけは信じて欲しい!」
「困るに決まってるじゃないですか! 私たち体操服を持ってきてないんですよ?! まさか先生は校内で私たちに下着姿になれって言うんですか! もしそうならあたし、学校をセクハラで訴えます!」
 腕の事を知りたいし、ちゃんと目にしたいのは本当だけれど、無理矢理とかだまし討ちのようにとか、そう言うのが嫌だから、私の家に泊ってくれた時も朱先輩の助けを貰いながら、袖を捲るのを我慢したのだ。
 そして咲夜さんメンバーの一人が『健康診断』を本気で止めよう、辞めさせようとしているのか話を大きくしようとする。
 それに対して一部の男子が色気づいているけれど、今そんな事を気にしている余裕は私にはない。
 咲夜さんグループに囲まれた咲夜さん自身も、これ以上まだ何かを要求されているのかしきりにせっつかれているし、実祝さんに至っては何かを言おうとする度に、女子グループに止められているから声すら上げられていない。
 その中で、私は今までの会話の中に何かヒントがないかを、状況が把握できない中で必死に記憶を手繰り寄せる。
「昨日の『健康診断』のメンバーの選定と言い、今日の抜き打ちと言い、あまりにも都合が良すぎるよ」
 そうまでして私に腕を見せたくない蒼ちゃん。
「訴えるってな。そのために男子から先に実施して帰らせるんだぞ? その上で保健室内、女子だけで実施するんだぞ? 俺は男だからお前ら女子の気持ちを理解するのは無理かもしれないけど、女子だけの部屋の中の上、鍵だって内側からちゃんとかかるのに、さすがにそれは自意識過剰すぎるだろ」
「そこまでして蒼ちゃんが嫌がる事は私、したくないよ」
 だからこそ、蒼ちゃんが嫌がる事を平然とやってのけるあの保健の先生を、最後まで信用出来なかったわけだし。
「……」
 私の事を疑わし気に見つめる蒼ちゃん。それでも手を離さないのはやっぱり心の奥では私を信じてくれているからと私は信じる事にする。
 一方女生徒の抗議を受けた先生は男だからなのか、やっぱり女子の何たるかを分かってはいない。同性同志でも気になる数字はあるし、聞かれたくない数字もある。
 だからこそ、せめてもの抵抗で朝ご飯を抜いたりとか、少しでも気になる数字の見栄えを良くするための方策なんてのもあるのだ。
 その上、今日は体操服を持って来ていないのだから、下着姿になるのに同性同志でも抵抗のある人もいる。
 更に少し恥ずかしいけれど、女の子の期間だってあるのだ。それこそ前もって準備をしていなかったら惨事になる事だってあるかもしれないのだ。
「口ではそんな事言ったって、先生だって私たちのあられもない姿に興味があるんじゃないんですか?」
 そこに女生徒Aが更に加勢するけれど、こいつはまた学校の先生に向かってなんて事を言い出すのか。先生も確かに男性だけれど、そこまで節操なしじゃない。ちゃんと私の前で気になる女子だけって言っているのだ。すぐ隣に蒼ちゃんがいたとしても、私にだけ視線を向けてくる先生なのだ。
 それなのに先生に対して失礼極まりない言葉を口にする女生徒A。そこまで必死にならなければならない程のアザを蒼ちゃんに付けているのか。そこまでして蒼ちゃんに『健康診断』を受けて欲しくないのか。
 とても進学校の最高学年の口にする言葉とは思えない。

 ただ一つ分かるのは、ここで私が押し切ったら間違いなくこいつらの望まない結果になると言う事と、私の知りたかった事が分かると言う事くらいは理解できる。
 だったらまずは分からないなりに、今の状況を打破するために、私は先生に加勢する事にする。
「先生! このまま押し問答をしていて時間だけが過ぎていくと、どんどん遅くなるので先に男子だけでも始めてもらったらどうですか?」
 私の発言と共に、やっぱり私への疑い自体は払しょくできていなかったのか、深い疑いの目を向けられるけれど、もう立ち止まらないし迷わない。本当に今日の機会を逃して衣替えの季節を迎えて、長袖に違和感が無くなってしまう季節まで進んでしまったら、全ての真実が葬られてしまうかもしれないのだ。
「じゃあ男子! 保健室で養護教諭が待ってるから先に行ってくれー! それから昨日手伝いを申し出てくれた生徒は養護教諭に伝えてあるから、向こうで先生の指示に従ってくれ」
 先生が養護教諭の名前を出した途端に大人しく移動を始める男子。
 本当ならその下心に呆れたいところではあるのだけれど、こっちはそれどころじゃない。
「ちょっと先生! 岡本さんの言う事ならやっぱりすんなりと聞くんじゃないですか! そこまでして岡本さんの体に興味があるんですか?!」
 何とかして今日の健康診断を止めるための必死の言葉だったのだろう。その中で出た一歩間違えれば大問題になりそうな一言を口にする女生徒A。まさかとは思うけれど、先生の私に対する想いがバレてしまっているのか。その最悪の事態が頭をよぎる。ただ今回反応したのは私では無くて、
「おい! 天城! 今の発言はどう言う意味だ!」
 先生が今まで聞いた事もないような厳しい声で女生徒Aの名前を呼ぶ。そうか、こいつ天城って呼ぶのか。
 こんなしょうもない奴の名前なんて本当に覚える気が無かったから、今まで全く気にもかけて来なかった。
「……」
 そして先生が皆の前で厳しい声を出すと思っていなかったのか、びっくりして声も出ない女生徒A改め天城さん。
「ちょっと先生! あたしたち女子の事も知りもしないのにそんな言い方は無いんじゃないですか?!」
「お前らの事を知りもしないでってな、お前らこそ言われた岡本がどんな気持ちになるかも分かってないだろ!」
「それだって先生が日ごろから、岡本さんばっかり気にかけてるからじゃないですか!」
 もう破れかぶれなのか、なりふり構わず何とか健康診断を中止にしたい、その一念が執念にまでなっている気がする。
 私も参戦したかったのだけれど、私の方も蒼ちゃんの様子と、いまだに頭の中が整理できていない事も相まって、そっちにまで頭も口も回らない。
「でも先生だって岡本さんの体の事一切否定してないじゃないですか!」
 その中で女生徒A……じゃなかった。天城さんが目に涙を浮かべながらも必死の形相で再度の抵抗を見せて、
「おい! 咲夜も何か言えよ。今日限りで友達を辞める、何も言わないって言うんなら、咲夜も(つつみ)と一緒に帰れ!」
 それに無理矢理巻き込もうとする咲夜さんグループ。そうはさせるかっ。
「咲夜さん

! 今日は手伝ってもらうって私が頼んだんだから、勝手に帰ったりしたら怒るよ!!」
 そっちから咲夜さんを解放するって言うんなら、これを千載一遇としてやる。
 向こうがその気なら私だって、今は傷ついている場合じゃない。このチャンス絶対にものにしてやる。

「その代わり今日で友達辞めるって言うんなら、今まで咲夜がして来た事、見て見ぬフリをして来た事、加担して来た事……全部ぶちまけてやるからな」

 私の言葉に反応した女子グループの一言で、咲夜さんを縛る最後の鎖が姿を現す。

 もう蒼ちゃんの言った通り、咲夜さんもまた加害者側、加圧側である動かない証拠と共に。そしてその固く冷たい鎖に負けるように、
「先生……女子には女子の準備もあるので、せめて女子だけでも明日に……して……下さい」
 私が張り倒した時にも変わらなかった咲夜さんの表情が、言葉尻を嗚咽に変えながら、あと一歩を踏み出すのを辞めてしまう。集団同調が形になって見えているにも拘らず、先生も見守ってくれているにもかかわらず、どうしてもその一歩が踏み出せない咲夜さん。
 一体咲夜さんはどれ程の強固で冷たい鎖で繋がれてしまっているのか。
 少し前に蒼ちゃんが私に聞いていた通り、咲夜さんが暴力を振るっていたのか。最後まで咲夜さんを信じたい私にはその何もかもが分からない。どうしても咲夜さんと暴力が繋がらない、繋げたくない。
「おい天城! いい加減早く答えろ! さっきの俺と岡本に対する発言は一体どういう意味なんだ! 俺も早く保健室に行かないといけなんだ! 何なら両親呼んでここ最近の天城の生活態度や言動を含めた今の話を、一緒に聞いてもらうか? どのみち夏季課題の提出がまだの事も含めて、ここ最近の成績も合わせてきっちりご両親と話をしないといけないと俺は思っていたから別に良いぞ」
 そして先生のダメ押しで泣き崩れる天城さん。
 一方繋がれた鎖にもがき涙する咲夜さん。
「じゃあ変な空気になったが、これ以上意見が無いのなら帰る用意の出来た者から保健室の方へ移動してくれ。俺も一度職員室に寄ってから保健室へ向かう」
 先生がさっきの天城さんの発言をノートに書き留めてからなのか、言い残して教室を後にする。

 そして残された私たちはみんな無言の中で、あの改修された保健室の方へと移動する。当然その道中でもまだ諦め切れないのか、二つのグループの残りの女子が私たちの方へ何かを言おうとしてくるけれどあの腹黒の手伝いをすると言う事で、蒼ちゃんには私が、涙している咲夜さんには実祝さんがつく形で四人固まっているのと、ここが廊下で他の生徒がいるからなのも助けてか、教室の中のように口も手も出して来ない。
 一方私と蒼ちゃんも手こそは離さないで繋ぎっぱなしだけれど、お互い視線を合わせなければ会話もない。蒼ちゃんが私を疑っているのは明らかだった。それでも抵抗なく私に付いて来てくれるのだから、今はそれ以上は望まない。

 そうした中で改修された保健室の前まで来た時、中から男子生徒の声が聞こえたからと、少しの間入り口の前でたむろしながら男子生徒が一人、また一人とその途中であのメガネに嫌な視線を向けられつつも、帰って行く男子を見るともなしに見送る。
 そして一通り男子が捌けて代わりに私たちが入ろうとしたところで、職員室から戻って来た先生がそのまま保健室に駆け足で入って行くのを見て、びっくりして足を止めるのと同時に一部のクラスメイト、女子グループから嫌な視線を感じるけれど、さっきの先生の対応の事が頭に残っているからか、わざわざ声に出すような生徒はいないし、私たち四人も、とてもじゃないけれどそんな雰囲気にも程遠い。
 ただ私たちがお互いを窺う前に、あの腹黒に何か用事があっただけなのか先生が保健室からすぐに出て来る。
「じゃあ岡本。さすがに俺が立ち会う訳にはいかんから、養護教諭と協力してくれな。それとさっきの教室での天城の言動、様子も伝えてあるから、今だけはあの先生を信じてみてくれ」
 そして驚いた事に、朱先輩に続いて、保健室での聞き取りの時にあの腹黒から私を守ってくれた巻本先生までが、あの腹黒を信じろと言い始める。
「……」
 先生の会話を真近くで聞いていた蒼ちゃんが、驚きでその息を呑む。
 でも当然私の方はいくら巻本先生の言う事だと言っても、今日の事も知らなかった私にはあの先生を信じるなんて事が出来るわけがない。だから私は先生への返事を見送ろうとしたのだけれど、今日初めて蒼ちゃんから私の手を強く握ってくれるのと、
「もしそれで岡本の気に障るような言動があったら俺に言ってくれ。俺がまた養護教諭に責任を持って抗議する」
 先生があの日の事を覚えている事を言外に含ませてくれる。
「……愛ちゃん?」
 それでやっと私が今回の事を知らなかったと言う事を信じてもらえたのか、蒼ちゃんの柔らかい声が私の耳朶に伝わる。
「……わかり、ました」
 だったら私一人のワガママでこれ以上健康診断を遅くする事は出来ない。何かあったら私が直接あの先生とやり合おうと心に決めて先生に返事をする。
「それと俺はこの後、天城と話をするけど、何かあれば養護教諭の許可をもらってからだが、ちゃんと駆けつけるからな」
 私の渋々の返事に対して、先生の小声が近くの生徒にも聞こえていたのか、一様に私の方を見て驚く……蒼ちゃんだけは私を責めるような目つきで見て来るけれど。
「駆けつけるって、まさか先生気付いてくれたんですか?」
 蒼ちゃんの腕についたアザに。
「いや流石に天城の暴言、それにお前ら同志のやり取りを見ていればある程度は予想出来るだろ。まあ、そう言う事だから、岡本は何も気にするな」
 そう言って私の頭をポンポンと撫でた後、私にあの視線を一瞬向けてから女子グループの方を見て、再び職員室へと戻る先生。その先生を見送った後改めて改修された保健室内へと足を踏み入れる。
 もちろん一時(ひととき)も蒼ちゃんの手を離すことなく。


 改めて入った保健室内。一番初めに感じたのはこの先生を信用するのか。何か新しい情報でも掴んでいるのか、その穂高先生が今までに見た事が無いくらい緊張した表情で、私をじっと見てくる腹黒への感想だった。
 次いで先日訪れた時とはまた保健室内が変わっていると言う感想だ。
 まず真っ白なレースのカーテンはそのままだけれど、真ん中にその存在感を主張していた大きなテーブルは退かされ、代わりに保健室内大半を使って健康診断で使われそうな機材が並べられている。それにもかかわらず、保健室内には十分な広さが確保されている。
 当然先日確認したパーティションで区切られた三床のベッドはそのままだし、その隅の方にあるそこだけ異彩を放っている全体的に暗い色で統一された仕切り内もそのままだ。ただこの前は目についたぬいぐるみだとか、文庫本、コミックなどの娯楽アメニティは全て片付けられている。
 それにしてもこの保健室ってここまで広かったっけと、内心で疑問を抱きながら見渡していると、
「それじゃ改めて説明させてもらうけれど、今日は身長・体重・座高・視力・聴力・レントゲンに問診だから。その中で私が聴力と視力検査を担当するから、身長・体重・座高を四人で分担してね。ちなみにどの機材もデジタルの数字で表示されるから、それを読み上げて記入してくれたら良いから。それと体重を測る時だけはスカートはかまわないけどブラウスだけは脱いでもらうから。まあ、女子なら脱ぎたくなる人もいるんでしょうけど、脱ぐのはブラウスだけで中に着ている肌着までは脱がなくても良いわよ。ただし暑いからって中に肌着を着ていない子は上半身下着姿になるけど、そこは女子しかいない上に、鍵までかけたから今だけは我慢しなさいね」
 何が女子なら脱ぎたくなるなのか。そんな女子なんているわけ無いってのに。だからこの腹黒は信用出来ないって言うのがどうして分かんないのか。
 まあ先生がそう言う趣味を持ち合わせているんなら、私がとやかく言う事ではないけれど、それをさも当たり前のように私たちに言うのは辞めて欲しい。
「それと最後のレントゲンと問診は隣の保健用具室の中に女医さんが控えているから。そのレントゲンの注意事項はその場でまた説明してくれるけど、ブラホックの金属も駄目だから、専用の浴衣に着替えてもらうつもりはしておいてね。それと最後出る時に尿検査キットを置いておくから、明日の朝一に出しに来てね」
 先生が一通りの流れと、注意事項の説明を終えたところで、
「先生。校内で服を脱げって、例え同性同志だったとしてもそれはセクハラになるんじゃないんですか?」
 驚いた事にまだ抵抗する女子グループ達。でもこの先生相手に中途半端な知識と思い付きで発言するとどうなるのか、こいつらは覚えていないのか、気付いていないのかこの怖い物知らず。
「健康診断も測定基準も国で定められているから、セクハラにはならないわよ。それに鍵のかかる保健室内で、男子は隣の“女”医さんも含めてどこにもいないから、貴方たちが何かを言ってもどうにもならないわよ。何なら試しに今叫んでみる?」
「じゃあ、あたし達の中に生理中の人がいたらどうするんですか!」
 珍しくあの腹黒が優しく言い含めているのに、どうしても健康診断をして欲しくない女子グループが驚く程粘る。
「生理中の人がいたらって、上のブラウスを脱ぐだけなのに何か関係があるの? 私はスカートは脱がなくても良いって言ったわよね。それとも学生風情で人には見せられない下着を付けているのかしら?」
 だから先生の腹黒い挑発が始まる。
「先生。今の発言は明らかにセクハラですよね、あたし知ってるんですよ。例え同性同志でもセクハラは成立するって。この事あたしが学校側に言ったら先生の立場はどうなるんでしょうね」
 それに対して正面から乗っかる怖い物知らず。
「じゃあ貴方だけ健康診断を辞めたら? 別に私はかまわないわよ。ただ進学先に健康診断の結果が無いって分かったら合格取り消しとかもあるけど、それとも虚偽報告で文書偽造する? 別にかまわないのならだけどね」
 その先生がそのまま黙っているわけもなく更なる挑発をけしかける。
「それでも先生は否定しないんですね」
「もちろんよ。だって私が否定する理由なんて何もないもの。私、何か否定しないといけない事言った?」
 女子グループの挑発に、余裕そうに返す先生。それに応えるような他の生徒の無反応さ。
 そして、周りの空気に対して何も言えなくなる女子グループ。結局中途半端な知識で挑発するから、本当かどうかも分からない倍返しみたいな目に遭うのだ。
「ちなみに今の会話も後で先生に報告はするわよ。まあその時に先生にしっかりと分かって貰えればいいんじゃない?」
 ……この余裕。絶対にまだ腹黒い先生の事だから、まだ何か隠し玉を持っている気がする。結局倍返しどころか手痛いしっぺ返しを食らう女子グループ。
「他に

のある生徒はいないの? いないなら早速始めようと思うけど、天城さん。先生が待ってるって言ってたから先に済ませてしまうわね」
 さっきの先生はその事をこの腹黒に伝えに来たのかも知れない。それにしてもわざわざ女生徒Aの精神を削るような言い方をするけれど、腹黒教師に不満そうな表情を向けるだけで、何も言い返せない女生徒A……天城とさっきまでかばうような素振りを見せていた女子グループ。
「じゃあ天城さんのご両親をあまりお待たせるのもアレだから、すぐに始めるわよ」
 ……精神を削るどころかダメを押すように小出しにしながら、私と蒼ちゃんで身長と座高、そして実祝さんと咲夜さんで体重を測って記録する事に。
 私たちも初めてだからと言う事もあって、腹黒から機械の使い方の手ほどきを受けながら、私が測って蒼ちゃんが記録、実祝さんが測って咲夜さんが記入……の時に、女子の体重だから気を使って小声で言ったのを聞き咎めたのか、はたまた実祝さん相手だからって腹黒の分を当たろうとしたのか、
「ちょっと夕摘! 声が小さくて何言ってんのか全然聞こえないんだけど」
 私の声の時には何も言わなかったくせに、言い易い、言い返せない実祝さん相手にだけ噛みつく女生徒A。あまりにもあんまりな女生徒Aに噛みつこうとした私が、声を上げようとした時、
「じゃあ先生がちゃんと聞こえるように大き目の声で読み上げるわね。体重は64.2㎏」
 遠慮のない先生が、保健室内にいた女生徒全員に聞こえるくらいの声で読み上げる。それを聞いた女子たちが各々その体重そのものが理由なのか、遠慮くなく読み上げた腹黒になのか少しだけどよめく。さっきからこの腹黒にやられているはずなのに、どうしてこの女生徒Aも同じ事を繰り返すのか。何度も思った事ではあるけれど、いくら何でも少し頭が悪すぎる気がする。
 まあかくいう私も、天城との身長差は確かにあったとしても、私の体重よりも20㎏とまではいかないけれど、そんなにも差がある事に驚きはしたけれど。まあ人の体格やその他の事に関してはいくら何でも、口にするもではないのだからこれ以上は言わないけれど、弱い者だけに的を絞ってこうなったのだから、私には情けをかける程の優しさは持ち合わせてはいない。
 ……まあいけないとは思いつつも、私も女子だから、今の自分の体重に関して安心した気持ちがあるのは本当だけれど。
 一方体重をみんなに聞こえるように読み上げられた天城は、完全に意気消沈してそのまま視力、聴力の方へと行ってしまう。

―――――――――――――――――Bパートへ――――――――――――――――

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み