第139話 応援か嫉妬か ~親友と私~ Aパート

文字数 6,469文字


 結局腹黒教師とは実りのある会話が出来るわけもなく、何が〖努力義務〗なのかも、判然としないまま保健室を後にする。
 その上、明後日の『健康診断』に対する配慮の事も中途半端にしか聞く事が出来なかった。
 中途半端な気持ちを抱えたまま下駄箱まで来た時、以前優珠希ちゃんからの歪な六角折りされた手紙を彷彿とさせる、今度は綺麗な星形に折られた手紙が入っていた。
「ってちょっと?! 今度は誰からよ?」
 明らかに優珠希ちゃんからでは無いと分かる綺麗な星形に折られた手紙。
 しかも余分な折り目もない事から、折り損なった折り目も無いって事で皴も寄れも見当たらない。
 ……まさかと思うけれど、これ以上私に変な男の人を持って来るのは辞めて欲しい。そう言うのは全部あの女生徒Aを始め、二つのグループの女子の所に集まってくれたら一番丸く収まると思う。

 素敵な人だったらいいとかそう言う事を言っている訳じゃ無いよ! 優希君以外の男の人は必要ないって言う意味だからねっ!

 この差出人が女の子なら良いのにと思いながら、男の人だったらすぐに優希君に打ち明けようと、誤って破ってしまわない様に、丁寧に広げながら手紙の中身に目を移す。

 突然の手紙を失礼します。突然で驚かれたと思いますが、どうしてもウチらから感謝の気持ちを伝えたいので、この手紙を目にしたら近くの公園へ寄って下さい。
                                  御国佳奈

 と、そこには今回はちゃんと楷書な字で差出人の名前が入っていたから今度は悩む事も何の気兼ねをしなくても済みそうだ。
 ある事を思いついた私は、開いた手紙を可能な限り元通りに戻してから、私は家へ帰るのを改め二人が待っている公園へと足を向けなおす。


 私が公園へと足を踏み入れた時、ピコリーノの内側で、いつも通り着崩した制服で今日は左右に髪を結って仁王立ちをしていた優珠希ちゃんから初っ端文句を吹っかけられる。
「ハレンチ女。アンタ毎回毎回お兄ちゃんだけに飽き足らずわたしや佳奈まで待たせて、何か思う事とかゆう事とかないの?」
 それにしても今日は左右で髪を結ってしまっているから、何の感謝かは全く分からないけれどせっかく感謝を伝えてくれると言うのに、その頭を撫でまわす事も出来ない。
「思う事って……そりゃ待たせて悪いなって思うけれど、私だって前回とは違って今回、綺麗に折られた手紙を見てから、すぐにこの場所へ来たよ」 (80話)
 その事を残念に思う一方で、優珠希ちゃんに対する皮肉も混ぜさせてもらう。
「嘘ばっか。何が待たせて悪いよ。どうせ今日もハレンチ女らしく相手の男がどうのとか――」
「――優珠ちゃん。ウチ放って岡本先輩にまた何言うとんのや?」
 また、私にあらぬ疑いをかけようとして、後ろから来た御国さんにたしなめられる優珠希ちゃん。
「どうして佳奈はいっつもこのハレ……愛美先輩『ははっ』――ハレンチ女の味方をするのよ」
 言い直そうとして、思わず上げてしまった私の笑い声で、再び言い戻す優珠希ちゃん。
 そんな私たちを見て、御国さんが一つ大きくため息をついた後、
「優珠ちゃんが岡本先輩の事をエライ気に入ってるんは分かってさかい、何も言わへんけど岡本先輩に、もう少しだけ素直にならんとあかんで」
 御国さんの中で、優珠希ちゃんの呼称については、私たちのじゃれ合いか何かと結論付けたみたいだ。
「ちょっと佳奈! お願いだからおかしな事ゆわないで。大体このハレンチ女がわたしや佳奈を待たせるから悪いに決まってるじゃない」
「はいはい。そう言う事にしといたるけど、これ以上岡本先輩に文句言うたら、待ってる間の優珠ちゃんの事、岡本先輩に話すさかいな」
「私の話?」
 ここで私の話……となると、
「優珠希ちゃん、ひょっとして私の事待っててくれたの?」
 いや、でもそうか。私が来た時公園入口のピコリーノの前でじっと待っててくれたのだから、早く来て欲しかったと、首を長くして待っててくれたと取れるのか。
「……アンタまさか、佳奈のゆう事、()に受けてるんじゃないでしょうね」
 ほんのりと色づいた頬で私の方を睨んでくる優珠希ちゃん。御国さんの一言が無かったら気付き落としていた優珠希ちゃんの本音。こういうところは本当にいじらしくて可愛いなって思う。
「私の事を文句言いながら待っていてくれてありがとうねっ」
「――ほら佳奈! このオンナが自分の都合の良いように解釈したじゃない」
「ちゃんと岡本先輩に気持ちが伝わって良かったな優珠ちゃん」
 明らかにかみ合っていない会話ではあったけれど、心ではしっかりと繋がっていた事は疑いようが無かったと思う。
「何が良かったよ。さっきの手紙の事もそうだけど、この腹黒女はわたしに対してはいつも自分の方が上だってゆってくるし、このわたしの事をバカにしてくるのよ。だから、わたしがお兄ちゃんに一言ゆえば、何とでもなるくらいでいないと、今みたいにすぐに調子乗って来るのよ」
 だけれど私の皮肉に気付いていた優珠希ちゃんが、それだけで収まるはずもなく。
「バカにしたつもりは無かったんだけれど、この前よりも折り方が綺麗だったから、優珠希ちゃん以外の誰かかなって思っただけだよ」
 だから私の方が、折り目から人物に当たりを付けた事を、御国さんに説明させてもらう。
「岡本先輩も優珠ちゃんイジルんが楽しいのは分かるけど、ヒネた性格しとるんやさかいそこは岡本先輩に理解して欲しいんですけど」
「ちょっと佳奈! 何でわたしがこんなハレンチ女にいじられないといけないのよ! それにヒネた女って、この腹黒の方がよっぽど酷いわよ!」
 たったそれだけなのに、随所に御国さんとの付き合いの深さ、理解の深さが垣間見えるのだから、本当に二人はただ仲が良いだけじゃなくて、お互いの事を信頼しているんだなって事くらいは分かる。
「あんな優珠ちゃん。優珠ちゃんが岡本先輩の事を気にいってるんはよう分かるし、岡本先輩が優珠ちゃんの事を少しずつでも理解してくれてはるんも分かるけど、あんま無茶苦茶な呼び方ばっかしとったらあかんで。今日はウチら二人で岡本先輩にお礼言うんやろ?」
 その上で御国さんがもう一回優珠希ちゃんを窘めるけれど、そう言えば手紙に感謝しているって書いてあったっけ。
「あのさ、今更なんだけれど私、何に感謝されているの?」
 この二人からの感謝と言えば園芸部の事なんだろうけれど、私一人が気まぐれでやっているだけだし、この二人はその事自体を知らないのだから、他に特にお礼を言われるような事は思い浮かばないのだけれど。
「ほら。このオンナは分かってないからゆわなくても良いって――」
「――ちゃうやろ優珠ちゃん。そう言うのを打算なく出来る岡本先輩やから、ウチだけやなくて優珠ちゃんもここにいるんやろ?」
 でも二人の言い方からして、私のしていた事は知っていたって言う事なのか。
「えっとごめん。あんまり話が見えていないんだけれど、あの園芸花壇の所に二人ともいたの? それとも知っていたって事?」
「そうなんです。さすがに毎日やって怪しまれたらあかんから、時々やってたんですけど、ウチらはあんまり目立たへん用品入れや、物置の方の整理とか掃除をしとったんです。そしたら盆明けくらいに花壇の雑草が酷い事になってへんことに気付いて、それからです。ウチら以外にもう一人協力してくれはる人がいる事に気付いたんは」
 そうか。当たり前の事だけれど、花壇だけが園芸部の全てじゃない。活動用具、植物のための道具や土なんかもそりゃあるに決まっている。
「それで優珠ちゃんが一株の花を植えたんですけど、その花の色、何色やったか覚えてます?」
 そうか。あの雑草の中で一株だけ綺麗な“青い花”が咲いていたっけ。
「青くて小さい花をいくつも咲かせていた花の事だよね」
 あれも優珠希ちゃんが植えてくれたんだ。あの暑い夏の日に一人で何をしているのかと分からなくなった事もあったけれど、あの綺麗に咲く一株の花を見て、折れかけていた私の心は持ち直したはずだ。
「青色……正解です。ホンマに全部優珠ちゃんの予想通りやったんですね」
「どう言う事?」
「その前にあの花の名前とか、花言葉って『ちょっと佳奈?!』知ってはりますか?」
「ううん知らない。可愛かったから調べようと思ったんだけれど、色や形だけで名前まで特定できなくて」
 しかもその言い方なら、優珠希ちゃんが私のために植えてくれたみたいにも聞こえる。
「あの花はカンパニュラ言うお花で、岡本先輩が見てくれはった通り青い花を咲かせます。んで開花時期は5月から9月くらいの暑い時期に咲いて、一回咲いたら1週間くらい咲き続けます。そして最後に花言葉なんですが……最後くらい自分で言うか? たまには素直にならな岡本先輩に伝わらへんで」
 御国さんの呼びかけに、さっきまでは頬を色づけていた優珠希ちゃんが、“素直”に耳まで真っ赤にして、
「何よ。わたしが何かしたら文句あるの?」
 私に対して恥ずかしさをごまかす。
 もうさっきの手紙と、花言葉で勿体づけた御国さんに、今の“素直”な優珠希ちゃん。当然私の中で勘は働くのだけれど、その勘には気づかなかった事にする。
 私にとっては“とっても可愛い後輩”二人が教えてくれるまで鈍感になって待つことにする。
「何で? 御国さんの言葉を借りるなら、優珠希ちゃんが私のためにって行動してくれた結果が、あの綺麗な花なんだよね。文句どころか嬉しかったよっ」
 あの花を見て頑張ろうと思えたのだから。
「なっ?!」
「……岡本先輩……」
 私が二人に自分の気持ちを返したら、二人共が頬を染め上げる……もっとも優珠希ちゃんの方は初めから赤かったけれど。
「……誠実、節操よ」
 私の笑顔に視線を逸らしながら、答えを言ってくれるけれど、
「そうなんだ……ありがとう」
 思っていた花言葉とは違ったけれど、いつも私の事をハレンチ女って言っていたからやっぱり恥ずかしかったのかも――
「――違うやろ優珠ちゃん。確かに嘘ちゃうけど岡本先輩、信じてしもうてるやんか」
 と思った瞬間、優珠希ちゃんの後頭部をはたいた御国さんがまさかの駄目出し。
「え?! 違うの?」
「合ってるんですけどもう一個あって――」
「――もう良いじゃない。このオンナは納得したんだから目的は達したわよ」
 そして私を置いて二人仲良く言い争いを始めてしまう……えぇっと。
「分かった。そんなヘンクツな事ばっかり言うんやったらウチが気持ち全部伝えるさかい――岡本先輩。ウチらは

『感謝よ。夏の暑い中、活動出来ないわたし達の代わりに、使えなくなる前に手入れしてくれたお礼! 感謝! これで満足?』……」
 顔を真っ赤にした優珠希ちゃんが、私の方を半ば睨みつけるようにして“感謝”を口にする。一方で満面の笑顔の御国さん。
 ひょっとしたら御国さんは初めからそのつもりだったのかもしれない。でもそれは親友同士の二人だけが分かっていれば良いだけの事だ。
「優珠希ちゃん……ありがとうね」
「ちょっとアン……?! 愛美先輩……」
 そんな事よりも妹さんの気持ちが嬉しい。私の心が折れそうだったタイミングでの私への感謝の気持ち。これで私の心が温かくならない訳がない、嬉しくならない訳がない。
 私は優珠希ちゃんをそっと抱き寄せる。そして頭……を撫でる事は出来ないから、そっと後頭部に手を置くと、
「……ちょっと待って」
 私に断りを入れた優珠希ちゃんが、結わえていた髪飾りを解いてしまう。のを、御国さんが驚いている。
「……何よ。続きはしないの? もう終わりで良いのね」
 解いた優珠希ちゃんが不満そうに私を見て、私はそれに応える形で今度は頭の上から後頭部にかけて、金色の髪を梳くようにゆっくりと優しく頭を撫でた。


 しばらくの間、優珠希ちゃんを堪能した後、御国さんの家の手伝いがあるからと言う事で解散となる。
 優珠希ちゃんのまさかのサプライズに気分を良くした私は、バタついた今朝の事を思い出して、明日の雪野さんへのお弁当のおかずと合わせてスーパーに寄ってから家へと帰る。
 その後、今朝寝坊したからだと思うけれど慶が普段中々心配しない私を心配したりと言う一幕もあったけれど、私が慶の好きなハンバーグを作っている間に先にお風呂に入れて、慶からの余計な気遣いを躱す。
 そして今朝のお詫びにと作ったハンバーグを見て慶が大喜びする中、夕食も終える。
 そして朝以来喋れていなかった蒼ちゃんに電話しようとした矢先に優希君からの電話。
『お待たせ優希君。珍しいね。どうしたの?』
 彼氏からの電話だけは慶に聞かれるわけにはいかないからと、部屋の鍵を閉めた上で改めて電話に出る。
『遅かった? また明日の方がいい?』
『ううん大丈夫。私も優希君の声が聞けて嬉しいよ』
 あの雪野さん事件解決の日以来、学校内でも私と優希君の希望通り、優希君と一緒の時間は明らかに増えた。ただ、その一方で夜の電話は少し減ったかもしれない。
『ありがとう。今日は愛美さんが優珠に良くしてくれたって、家に帰ってからこっち、ずっと言ってたから声が聞きたくなったのとお礼が言いたくなって』
 でも、それを寂しく感じないくらいにはお互いの気持ちは通じ合っているし、それでも寂しかったり声が聞きたくなれば今みたいに気軽に電話をし合えば良いだけの話だ。
『言ってたって……今電話して妹さんは大丈夫なの?』
 あの優珠希ちゃんの事だから、辛辣な照れ隠しが始まるんだろうけれど。
『うん。今は優珠がお風呂入ってるからその隙に』
 そう言う言い方をすると、なんだかイケナイ事をしている気分になってしまう。
『それで、あんなに喜んでる優珠を見るのは久しぶりなんだけど何があったの?』
 間違いなく今の優希君はお兄ちゃんの顔をしているんだろうなって想像できる。
『ごめんね。間違いなく優珠希ちゃんが恥ずかしがるだろうから、私からは言わないよ』
 優希君にはそう返したけれどもちろんこれだけが理由じゃない。優珠希ちゃんだけじゃなく私も園芸部に顔を出していたって優希君にバレるのが、何となく気恥ずかしいのだ。
『ううん。そう言う事なら。優珠の事、本当に大切にしてくれてありがとう。それから今日の夕摘さんのテストどうだった?』
 私の気持ちを汲んでくれたのか、それともやっぱり妹さん優先なのか深く立ち入るような事はせずに、今度は私の友達の事を気にかけてくれる優希君。
『例の女子とも少しあったけど、その件は先生も気を付けてくれているからこっちも大丈夫そうだよ』
 この辺りは決定的に倉本君と違う。私の友達も蔑ろにはせずに大切にしてくれる。それが分かるからこそ、私も安心して不安や悩みを優希君に打ち明けられるのだ。
『良かった。僕でもちゃんと愛美さんの役に立てたんだ』
 僕でもって……雪野さんの事を意識してくれているのかは分からないけれど
『私、最近優希君にずっと甘えっぱなしだよ。だから私の彼氏だってもっと自信を持ってくれたら嬉しいな』
 可愛いくない後輩二人の事は私がキツくお説教をしたのだから、これ以上優希君には言わない。ただ時折優希君から聞く“自信が無くなる”と言う言葉。その優希君に私は甘えているのだから、その辺りは自信につなげてもらえたらなって思う。
 ――良い男にしてやるのも良い女の務めだからね―― (84・102話)
『ありがとう愛美さん。本当に愛美さんが僕の彼女になってくれて良かった。そろそろ優珠が上がるかもしれないからまた明日』
『うん分かった。今日は電話をありがとう』
 その後妹さんが上がるからって事で通話を終えてしまう。
 その後二日続けての寝坊は出来ないからと

題名:明日も一緒に登校したい
本文:明日も公園で待ってる

蒼ちゃんにメッセージだけ送って明日のお弁当のため、今日は早いめに布団に入る。

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