第136話 近くて遠い距離 6 ~自滅・交渉~ Aパート

文字数 7,686文字


 私たちが帰った後何をしていたのか、女生徒Aが戻ってきたのは、午後の授業を始める為に担当教科の先生が入ってくるのとほぼ同時だった。
 当然先生に小言を言われるけれど、私は当然として、咲夜さんグループを含めた誰もかばいも同情もしない。その中で迎えた終礼。午後の授業初っぱなの事を担当教科の先生から耳にしていたのか、
「午後の授業にも少し遅れたそうじゃないか。課題の事と言い、中学期初っぱなから弛みすぎじゃないのか? それとも岡本とそれだけの話が出来たって事で良いのか?」
 先生が私の方を少しだけ見てくるけれど、伝わるかどうかは分からないけれど、ほんの数舜目をつむって否定の意を伝える。
 その最中(さいちゅう)にも、昼休みからこっち、私たちの質問に加えて先生からの質問にも答えない女生徒A。
 先生は一つためいきをついて、
「放課後にゆっくりという話だったから、今はこれで辞めるけど、岡本との話も含めて、この後ゆっくりと話をしような」
 私の意図が伝わったのかどうかは判断しにくいけれど、みんなの前と言う事もあってか、それ以上の追求は取りやめる先生。
 そして改めて終礼での連絡事項を伝える。
「朝にも言ったが課題の最終提出日は、週末4日の金曜日までだからな。金曜日

の意味くらいは自分で考えろよ。後は明日の実力テストに関しては中学期の成績に反映するから、国公立を考えている奴はまじめに取り組まないと取り返しがつかなくなるぞ。それと最後に岡本、今日統括会あるからなー。以上、解散!」
 その内容も朝聞いた話だから、そのほとんどを聞き流すのだけれど、朝の時とは違って蒼ちゃんと咲夜さんの様子が明らかにおかしい。元気がなさ過ぎるのだ。
「……」
 その事を実祝さん自身も知らないから不安なのか、じっと咲夜さんの事だけを見つめているその姿がとても印象に残った。
 本当は先生に、両親と話した結果、公立の推薦を受けたいって事も伝えたかったのだけれど、女生徒Aの事もあるからと私は、全く元気なさそうな蒼ちゃんの方へと移動する。

「……愛ちゃんは先生に蒼依の腕の事言ったの?」
 私が何かを発するより先に、蒼ちゃんからの一言。
 一方実祝さんも頭を抱えている咲夜さんの方へ徒歩を寄せている。この連動したかのような二人。何を言われなくても何らかのつながりがある事は、もう形になってしまっていると言って良いと裏付けされてしまったようなものだ。
「言ってないよ! それに蒼ちゃんがその腕を見せたくない事も知っている。だから、見てもいない物に対して、憶測では私は、何も言えない」
 ただ念には念を入れて、あの腹黒教師に『配慮』をお願いしただけだ。
「ただ、蒼ちゃんが私の為だって言うなら、保健の先生に言っても良いって、保健室に行っても良いって、私に協力してくれるって言ってくれたから、保健の先生にだけは打ち明けたよ」
 そうでなくても、理由は違っても実祝さんとの放課後の時、あのテストの時の腹黒教師と蒼ちゃんのブラウスのやり取り……今となっては私のお願いを聞いてもらえたのかも分からないけれど、親友に嘘をつきたくなくてその全てをさらけ出す事にする。
 蒼ちゃん自身も自分で言った記憶があるからなのか、長袖のブラウスの袖口をつかんだまま無言になる。
「近いうちにあの女子が何かを言うよ。と言うか私が聞き出すよ」
 蒼ちゃんの腕にアザを付けたのが誰か。蒼ちゃんが一体誰に何から守られているのか。その全てを聞き出してやる。
「……もし。蒼依の腕についているアザを、あの人が付けたとしたら、愛ちゃんはどうするの?」
 改めて決意した矢先、蒼ちゃんからのとても重い一言。咲夜さんが同調圧力に苦しみ始めて、放課後に何回か蒼ちゃんを見かけて……お喋りがしたい、仲良くしたいだけなのにと涙ながらに口にしてくれた蒼ちゃんが咲夜さんの事を

と呼ぶようになって。
 その一つ一つは突飛で意味も現実味もないのに、その一つ一つの行動をつなげると一貫していて、ものすごく現実味を帯び始める。
「……優しい愛ちゃんには答えられないし、疑いたくないもんね。だから、最後にもう一回だけ言うね。蒼依の腕の事は良いから、

に夕摘さんを任せるんじゃなくて、愛ちゃん自身が夕摘さんと仲良くなって」
 ――月森さん気をつけた方が良いよ
 ……迷う私に蒼ちゃんの言葉。そしてあの時のクラスメイトの女子の言葉が不意に頭に出てくる。
「……私は蒼ちゃんの言う事を信じるし、もし本当にそうだったら咲夜さんの事は許さない。だけれど、私はまだ咲夜さんの事を諦めたくは無い!」
 気付けば放課後の教室内。明日はテストだからなのか、教室内には少し離れたところで、咲夜さんのそばにいる実祝さんだけだ。
「……もしそうだったらって。蒼依の言う事は信じてくれないの?」
 辛そうな蒼ちゃんの表情。その言葉を言わせているのは私だと思うと私もどうにかなりそうだ。でも、ここで立ち止まる訳にはいかない。もうこの一連の会話で蒼ちゃんの腕にまだアザがある事は確定してしまっている。
「信じる。疑うわけがないよ。ただ、蒼ちゃんの言葉を全部信じた上で、私の気持ちを親友である蒼ちゃんにだけは知っておいて欲しいだけだよ」
 この窓。蒼ちゃんとの私の意見が真っ向からぶつかって……でも、お互いがお互いの事を信頼しきっている。この中で開く窓はなんていう名前なのか。
 咲夜さんの方も軋む心と懊悩と向き合いながら、私に何度も助けを求めてきてくれた事も知っている。その姿を幾度となく見てきている。優希君とのことも、本当に心が潰れそうになっていたのも目の当たりにしている。
「……蒼依は、愛ちゃんの性格をよく知ってる。だから今愛ちゃんが苦しんでる、迷ってる事も知ってる。だから、愛ちゃんには、そのままでいて欲しいんだよ」
「……そのままでいて欲しいって……私こんなに心配しているのに、どうして言ってくれないの? どうして私の気持ちを分かってくれないの?!」
 恩着せがましたわけじゃない。ただ、行き場がないのなら、誰にも言えないのなら私だけは蒼ちゃんの親友として、一人の人間として力になりたいだけなのに。
「……じゃあ、交渉決裂だね」
 私の方を諦めた表情で見てくる蒼ちゃん。
「蒼ちゃん? 交渉って? 決裂って?」
 短い言葉の中で、並べ立てられた不穏な言葉の数々。その蒼ちゃんの雰囲気と相まって言いようのない不安を感じた私は蒼ちゃんの手を取るも、
「先生が『健康診断』って3~4人で良いって言ってたよね。じゃあ蒼依はこのまま(よし)君の所に行くね」
 私の手を抜き取るようにして教室を出て行ってしまう。
「ちょっと待って蒼ちゃん! そんな不安になるような言い方しないで、ちゃんと言ってよぉ」
 やっぱり他とは違う。明らかに不安の波の大きさが違うのだ。それだけ蒼ちゃんの存在は私の中で大きい。これは誰がどうとかの問題とは明らかに違う。それだけの付き合いを蒼ちゃんとはずっとしてきていると私は、思っている。
「ごめん。蒼依が悪かったよ。4日の『健康診断』は休むって言う事だけだよ」
 思わず涙声になりそうだった私に、一つため息をついて種明かしをしてくれるけれど、それもまた新たな不安を生んだだけだった。
「休むって……私と一緒は嫌? 私のしようとしている事は蒼ちゃんからしたら迷惑だったの?」
 こんな状態の気持ちで、蒼ちゃんを離す事なんて出来るわけがない。私はもう少し強い力で蒼ちゃんにしがみつく。
「迷惑なんてあるわけないよ。すごく嬉しいし、ずっと一緒にいたいよ。愛ちゃんは蒼依にとって本当に大切な親友だから。だからこそ愛ちゃんには幸せになって欲しいし、蒼依が愛ちゃんを嫌いになる事はないから。本当なら愛ちゃんを涙させた空木君に任せるのは嫌なくらいなんだから……だからこそ、愛ちゃんのその優しさは蒼依には……辛いんだよ」
 私の今の精神状態を分かってくれた蒼ちゃんが、私の正面に向き直って抱きしめ返してくれる。
「私、どんな理由があっても、どんな事があっても、蒼ちゃんと離れるのだけは嫌だよ」
 それでも“決裂”と言う言葉が頭から離れない。
「……もう。本当に愛ちゃんは甘えん坊さんなんだから。社会人になってからも、蒼依が結婚した後も愛ちゃんとはずっと付き合っていくつもりだから、そんな心配はしなくて大丈夫」
 それだけを言うと私の背中を大きく叩いた後、戸塚君の所へ行くと言ってそのまま教室を出て行ってしまう。
 蒼ちゃんのおかげで大きな不安はなくなったけれど、安心感は全く得られないまま蒼ちゃんを見送る。
 本当ならさっきの蒼ちゃんの話と、今の普通じゃない咲夜さんの状態も気になるけれど、こっちはこっちで統括会・雪野さんの残留、私宛の課題などやるべきことが多いと、後ろ髪を引かれる思いで、部活棟3階へと足を運ぶ。


 何とも言えない宙ぶらりんな気持ちで役員室に入った時、
「愛先輩お疲れ様です。何かあったんですか?」
 いつも通り彩風さんが私に声をかけてくれるけれど、こっちはこっちで何か空気感がおかしい気がする。
 やっぱり一番気になるのは、元気のない雪野さんなのだ。その隙にお昼のお礼と共に優希君にあいさつを交わす。
 ただ習熟度テストの時以来、私の方が倉本君を避けているからか、倉本君からのあいさつはない。彩風さんの顔を見て思い出したのだけれど、結局今日は中条さんの顔を見ていない。
「……それじゃ中学期最初の統括会を始める」
 そして空気感のおかしい原因を見つけられないまま、統括会が始まる。
「……早速なんだが、俺のお願いをみんなに聞いてもらえないだろうか。4日の定期統括会の時に、俺と霧華でもう一度雪野残留の話がしたいんだ」
 今度は二人連名にしての倉本君のお願い。それと同時に優希君には雪野さんの気持ちというのか、疎外感を理解しているのだろう、雪野さんの背中を優しくあやすように叩く。
 もちろん言いたい事も思う事もあるけれど、優しくするだけなら後で私のわがままを聞いてもらうだけだ。
「俺としてはどう考えても、間違ってもいない雪野を降ろすのも交代させるのも間違ってると思うし、雪野に入れてくれた、生徒たちの信任票を無かった事にはしたくないんだ。もちろん一年と言う任期の中で上下の変動はあるだろうし、一過性のもので不人気になる事もあるとは思うが、それも雪野一人に押し付ける事じゃないと思うんだ。それに、雪野自身が新任演説の時に口にした想いに嘘もないと俺は信じたい。それは雪野自身の行動を見てればよくわかる。だから同調に流されることもなく、しっかりと対応してもらってる部分も多い」
 倉本君の意見を聞く、好きな人の協力、力になると言う事を実行してくれているのか、確かに雪野さんへのキツイ態度や辛辣な物言いは消えている。
「それに雪野だけに責任を押し付ける学校側のやり方には賛成していない。もちろん以前岡本さんや霧華にも言われたが、俺だけが悪いなんて言うつもりはない。でもその責任自体は雪野だけじゃなくて、俺たち全員で負うものだと俺は思うんだ」
 この原因不明の空気感の震源を探っている間に、今日初めて倉本君と視線が合う。まあ、言っている事の中に今までのみんなの意見も入っているからと、雪野さんをあやし続けている優希君を横目に首肯だけする。もちろん笑顔は無しで。
「だから俺としては、今回の学校側の処分に関しては断固反対の立場で挑みたい。そこで雪野に聞きたいんだが、今日久しぶりの学校はどうだった? 先生から言われてる事とかないか?」 
 その上で今回は該当者である雪野さんの話までちゃんと耳を傾けようとする。こういう姿を目にしてしまうと、やっぱり倉本君とは距離を取った方が良いのかもしれないと思えてならない。
「……会長。残りの期間ワタシを抜きにした四人での活動は出来ないんですか? ワタシにはやっぱり続けることはできません。この状態ならまだ、責められ続けた方がマシなんです」
 私に対する気持ちで彩風さんを見ない。私中心の話でどうしてもおかしくなっていたところに、少し前の私の友達に対する暴言。それからを思うと、今日はちゃんと彩風さんの名前も入った連名での話。その上でしっかりと雪野さんの事にも気を配っている。
 倉本君のそのあきらめない心、まっすぐに取り組む姿勢。教頭先生からの厳しい課題にも自力で回答までたどり着ける倉本君。私が倉本君から距離を取った方が輝いているのは確かだし、倉本君の良いところがしっかりと自分で出せている点もそうだ。
 今となっては、私が倉本君になびく事はもうないけれど、倉本君はもっともっと頼りになって、しっかりと男らしく頼もしくもなると思う。
「雪野。四人でって言うけどな、来月以降は俺たちも入試やら校外学力テストも入って来るから、下手したら霧華と雪野の二人だけで年末まで回さないといけない日も出てくるぞ?」
 その上、雪野さんの弱気にも一つずつ話を聞いて言葉を重ねていけるのだから、後は倉本君の理解者が一人だけ現れれば倉本君はやっていけると思うのだ。もちろんその理解者は私じゃない。
「それに雪野さん。初学期の最後に交代は認めない、続けてもらうって私もさんざん言って来たよ」
 そう。その役割はやっぱり倉本君の事を理解している彩風さんであるべきだと私は、思えて仕方がないのだ。
 それにそもそも学校側にも降ろそうという意思はほとんどなさそうで、二年には雪野さんを責める人がいないって言う話のはずなのに、どうして雪野さんはこんなに弱気なのか。 (122話:派生)
 まあ、あの全校集会の感じだと気持ちがしんどいのは分かるけれど。
「ねぇ。彩風さん。今日の二年の雰囲気ってどうだったの?」
 今回は静かな彩風さんに話を振っても、
「どうもこうも冬ちゃんの話題なんて出てませんよ。それよりも今日はみんな夏休みの課題でもちきりでしたし。あ、そう言えば今日のお昼に、サッカー部の人とご飯食べてたって聞きましたけど」 ※他圧と勘違いされている
 夏休みの登校の日と、そう変わりはないかと思ったのだけれど、
「サッカー部?」
「はい。多分初学期で停学になったサッカー部です」
 そうか。そういえば二人は友達だから知り合いだったか。これ以上変な悪意にさらされなければ良いんだけれど。
 一応私の方でも警戒はしておいた方が良いのかもしれない。
「ちょっと待って! 雪野さん。前の登校日の時と、今日の登校日で、そのサッカー部の人以外誰かと喋った?」
 サッカー部の話になった瞬間、雪野さんが顔をうつむけてしまう。
 その雪野さんの態度に優希君が何かに思い至ったのか、突然強い緊張のはらんだ声に変わる。
「な?!」
 その瞬間、見上げた雪野さんの瞳から涙が一筋伝う。
「ちなみにそのサッカー部男子と雪野さんはどんなこと喋った?」
 優希君が雪野さんの真隣に椅子をくっつける。そして遅れて私もこの空気感の原因に気づくと同時に体中に悪寒が走る。
「彩風さん。お願いしていた雪野さんのフォローは?」
「フォローも何も冬ちゃん休み時間のたびに、どこに行ったか分からないんです。もちろんアタシも中条さんも冬ちゃんの悪口なんて言ってませんし、清くんの言う通り冬ちゃんの事はちゃんと見てます。ただクラスは違うので、教室の中までは分かりません」
 彩風さんの表情を見る限りまだ何かありそうだけれど、そんな事を言っている場合じゃない。先に雪野さんの方だ。
「雪野さんは今日の休み時間を、どこで過ごしてたの?」
「トイレか職員室で過ごしました」
「職員室で何してるの?」
「先生と喋ったり、ご飯食べたりしました」
 想像よりも悪い、ともすれば最悪に近い形になっている。
 本当ならまだ何かありそうな彩風さんと、今日は一度も顔を見ていない中条さんに、快諾してくれた私からお願いしたフォローに関して問い詰めたかったのだけれど、そんな事を言っている場合じゃない。
 優希君は気を遣って聞かなかったのだろうけれど、トイレで休み時間を過ごさないといけないのは統括会に身を置かなかったとしても、言語道断だ。
「雪野さん。明日からは私と一緒に食べるよ。いいね? 異論も文句も認めないから」
 今回ばかりは強制させてもらう。
「それから優希君も参加してくれたら嬉しい。ただ明日だけは彩風さんと中条さんの二人からちゃんと話を聞いてほしい。その時に私がカンカンになって怒っている事も合わせて伝えておいてほしい」
 優希君なら何気ない会話からでも、今の雪野さんのSOSに気づけたように、また何かに気づけるかもしれないから。
「愛先輩……」
 目の前で私の怒りを聞いたからだろう、体全体を縮こませる彩風さん。
「明日の放課後二人にはお説教ね。今回はかなりキツく行くからそのつもりはしときなよ。言っとくけれど、今回は本気で叱るよ――それから雪野さん。明日のお昼の返事は?」
 二人が同調圧力に流されてどうするのか。特に彩風さんは同じ統括会メンバーで、倉本君の話を聞く、理解する、協力する……これは明日でいいのか。
 ただ蒼ちゃんを含めた四人でのお茶会の時には、普通に自分たちの意見をちゃんと持っていたんじゃないのか。
 私はかなりきつめの視線を彩風さんに送る。
「雪野さんが返事をしてくれないんだったら、こっちから二年の教室に行く――」 (そして雪野さんが来るまで待つからね)
「――分かりました。ワタシから岡本先輩の教室に伺いますから」
 私の押し込みに対して、渋々と言った感じで雪野さんとの約束を取り付けたところで、
「悪い岡本さん、空木。ちょっと三人で話をさせてもらって良いか?」
 倉本君が額に手を当てながら、席を外してほしいという。
 この後私も教頭先生との課題があるからと、渡りに船ではあったけれど、
「何があっても怒鳴らない、彩風さんを泣かせないって約束して」
「愛先輩……」
「……明日私が彩風さんを涙させると思うから、倉本君はあくまで彩風さんに優しくしてあげると約束して」
「……」
「分かった約束する」
 倉本君からの約束と彩風さんの怖がった表情を確認したところで、
「優希君なら私の気持ちを分かってはくれているとは思うけれど、明日彩風さんに叱るとき、手加減したら駄目だよ。こういうことはきっちと言っておかないといけないから、ちゃんと厳しくしてよ? でないと優希君にまで私、叱らないといけなくなるよ?」
「分かったよ」
 私の念押しに、苦笑いを見せる優希君。いまいちどこまで分かってくれているのかは判りにくいけれど、この事はまた後日にでもちゃんと聞いた方が良いのかもしれない。
「それじゃあ倉本君。後はお願いね」
 そう言って今度は彩風さんの前で倉本君に、にっこりとほほ笑んでおく。
 倉本君の放心した表情を見て満足した私は、そのまま議事録を持ち帰るつもりでカバンの中に入れて役員室を後にする。

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