第142話 断ち切れない鎖 完 ~独白~ Aパート

文字数 4,558文字

※表紙のタグには入れていませんが、下記タグを意識して頂けると、残り3話。
 多少読みやすいと思います。
いじめ防止対策推進法(基本方針・努力義務・付帯決議) 私立学校法 
学校教育法 (改正)児童福祉法

【注意】この話から非常に厳しい話が【転】の最後まで続きます。もししんどければ、最後の幕間で少しだけダイジェストを入れますので、そちらに目を通して頂いても良いかもしれません。

もう一つ。前書きにも書きましたが、ここから先に書いている内容は一歩間違えなくても犯罪になり得ます。ですのでくれぐれも真似する事の無いように、模倣する事の無いようにお願いいたします。

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 ブラウスの前ボタンを外した蒼ちゃんが、私の方を見て一瞬ためらった後、何と中の肌着と合わせてブラウスを脱いで――
「――え?!」
「ちょっと何よこれ!」
「……」
 目に映った蒼ちゃんの姿に絶句すると同時に、咲夜さんが声を上げて涙する。
「愛ちゃん。これが今の蒼依の姿なの。こんな汚れた蒼依『そんな汚れているなんてっ!』の姿、愛ちゃんに隠すのも、お父さんやお母さんに見られる訳にいかなくて今まで隠すの大変だったんだよ」
 目から汚れを知らない涙をこぼしながら、周りに心配をかけないようにと気を使い続けた、一人誰にも言えなくてひた隠しにして来た蒼ちゃんが、上半身下着姿を私に見せる。
 そう、上半身なのだ。腕だけでなく上半身全体に広がる、皮肉にも色とりどり、大小様々なアザ。その一つ一つが凄絶さを語るかのように、本当に色鮮やかに咲き誇る。その場所は腕だけにとどまらず腹部や胸、挙句の果てにはブラの裏側、いわゆる乳房の方にもそのアザの片鱗が目に映る。酷い……本当にひどいとしか言いようのない程のアザ。
 この痣一つですら私は何も知らなかった。蒼ちゃんの親友だって豪語していたのにもかかわらず、私は何も知らなかった。
「ねぇ蒼ちゃん、いつから? いつから私は蒼ちゃんの事に気付けていなかったの?」
 あまりにも痛々しくて見ている事が出来なかった私は、再び蒼ちゃんを抱きしめる。当然その背中にも凄絶さを語るように広がる色とりどりのアザ。
「……愛ちゃんが公園で蒼依と話をした時には……かな」 (24話)
 あの初学期の公園の時にはもうその状態だったのか。そんなにも長い期間私は気づけずに厚顔無恥にも親友面をしていたのか。
「でも愛ちゃんが責任を感じる事じゃないよ。蒼依だって愛ちゃんにバレない様に細心の注意も払っていたし、頑なに口を開けなかったのも蒼依だから」
「でもそんなの言い訳に出来ないよ! 私の親友がこんな事になってる言い訳になんか、どんな言葉を並べ立てても出来るわけ無いよっ!」
 そんな私は関係ないみたいな言い方ですらも、寂しくて聞き届ける事なんて出来る訳が無かった。
「そんな事ないよ。蒼依、実は愛ちゃんに言ってない事もあって、愛ちゃんに対して“どうして蒼依ばっかりがこんな目に遭うの?”とか、空木君と仲良くしてるのを見る度に“愛ちゃんも蒼衣と同じ目に遭えば良いのに”って思った事もあるんだよ。それに愛ちゃんが優希君と喧嘩した時、胸が空くような思いもした事もあるんだよ。だから愛ちゃんだけがそんなに責めなくても良いんだよ」 (57話・他)
 私の自責にかまう事なく蒼ちゃんがその綺麗な涙をぽろぽろとこぼしながら、私に偽りない濁った部分の心を見せてくれる。
「そう思って愛ちゃんを放ったままにした事もあるし、空木君と喧嘩して喜んだ蒼依もいたし、空木君と雪野さんでお昼しているのを見て、後ろ暗く喜んだ蒼依もいたんだよ。それくらいに蒼依は汚れてる。こんな蒼依が愛ちゃんの親友でごめんね――愛ちゃん?」
 そっか、私だけがうまく行くと思っていた親友に嫉妬してたわけじゃなかったんだ――
 蒼ちゃんの告白に対して初めに出て来た感想がそれだった。そう思ったら蒼ちゃんを逃がしたくない私は、私の側を離れようとする蒼ちゃんを阻止するように強く抱きしめるしか選択肢は無い。
「蒼ちゃんずるいよ。私の話もちゃんと聞いてよ。私もね、一度優希君には大切な女の人がいるからって断られた時に、すごく惨めに思えてしまった事があるんだ。どうして蒼ちゃんは初めての彼氏とうまく行って名前まで呼び合えるような仲になっているのに、私は駄目なのかなって。私と蒼ちゃんで何が違うのかなって。どうして私ばっかり不安で幸せじゃないのかなって。蒼ちゃんにはこの気持ちは分からないんだろうなって……しかもこれ、さっき蒼ちゃんがアザを作り始めたって言ってくれた時だよ? 本当に私って綺麗どころか最低の人間なんだよ」
 本当にひどいなって思う。自分から親友だって言い張るにもかかわらず、親友が追い込まれているにも拘らず、勝手な事ばかり考えていたんだから。
「でも愛ちゃんは何回も蒼依を助けてくれたし、アノ人たちから何回も助けてくれた。あの時も本当は安心出来たし空木君にも感謝だよ」 (51話)
「そんな事言ったらいつも私の気持ちを一番に考えてくれたし、優希君と喧嘩になる度に話も聞いてくれたし、私も蒼ちゃんからたくさん勇気を貰えていたんだよ」
 お互いがお互いを妬み、お互いがお互いの事を想う。私たち二人の性格は全く違うけれど、どこまでも似た者同士。
 私たちはどこまで行っても気の合う二人だ。そこだけは胸を張って言い切れる。それは性格とかそう言う言事では無くてもっと深い所の話で。
 そんな私たちの世界に割り込んで来る不協和音。先生の声。
「それでそのアザ、いったい誰がつけたの? さすがに独りじゃないわよね――っ!」
 その声を聞いた瞬間、私の怒りが吹き上がる。
「愛美!」
 私がその激情に任せて先生の頬を思いっきり殴る。
「おい腹黒! お前どこまで知ってた? 学校側はどこまで把握してた? 少なくとも私を軟禁した時には証拠証拠って言ってたよな!」
 私の殴る勢いが強かったのか、私がそう言う行動に出る事を予想していなかったのか、腹黒がそのまま床の上に倒れ込む。
 少なくともこいつがその時点でイジメや暴力があった事を知っていた事は間違いない。 (67・68話)
 それは鼎談の時で裏は取れている。しかもその時に蒼ちゃんの身に起こったいじめの話の一部はしているのだ。
「おい! 立てよ! 蒼依が受けた暴力はこんなものじゃないだろ」
 そう言ってこの腹黒の足を次は蹴る。
「ちょっと愛美! 辞めて」
 そのままだと再び私に蹴られ続けると感じたのか、痛がりながらも立ち上がる腹黒。
「どこまでも何も、何かがあるって事くらいで暴力の話なんて――」
 なのにまだシラを切る腹黒に、今度は手の甲でビンタを見舞う。
「そうやって匂わせるだけで鼎談の時みたいに、秘密にすんのは辞めろって。その結果がこれなんだろ! 次、ごまかそうとしたら“グー”で行くから」
 何でこっちは文字通り体張ってんのに、いまだにのらりくらりとごまかそうとしているのか。いつまでも躱そうとする腹黒が悔しくて、怒りで再三、目に涙が溜まる。
「ごまかす? この状態で何をごまかすって言うの? そこまで言うなら今後の事を話してあげるけど、これはもう学校だけの話じゃ済まないわよ。学校教育法と、いじめ防止対策推進法、それから傷害罪と暴行罪。私が今ざっと思い当たるだけでこれだけ出て来るのよ。
 それから養護教諭としてこの後校長に話をして、それから役所、都道府県知事に話を上げて、更には警察と各教育機関いわゆる教育委員会に話を持って行く。分かる? この話の大きさと事の重大性が、岡本さんに分かるの? これで何をごまかすって言うのよ!」
【※いじめ防止対策推進法 第17条及び第23条 全項・第31条】 
※学校教育法11条 及び35条第1項は 停学の方で⇒159話
「ちょっと待てって。お前の話を聞いてたらまるで蒼ちゃんが悪いみたいに聞こえてものすごく不愉快なんだけど。それにこうなるまで知っていて放置したのはそっちだろ! それをこっちのせいにすんな」
 あの時の話すらも聞かなかった事にでもするつもりなのか、あくまで今初めて知ったかのような話し方をする腹黒。
「放置って、防さんが悪いって……そんな訳ないじゃない! 先生が一度でも被害者が悪いなんて言った事あった? 私、岡本さんにはイジメの裁判で加害者が被害者ぶって無罪になる“馬鹿げた”裁判例もあるってちゃんと言ったわよね!」
 だからってさっきの言い方が認められる訳があるかっ。 
 (68話) ※大津いじめ事件 (旭川いじめ事件)
「話を変えんな。気分が悪いから蒼ちゃんのせいにすんなって言ってんの。謝れよ」
「私が謝って済むならいくらでも謝るわよ! 防さん、ごめんなさい」
 そう言って形だけ謝る腹黒。
「なにそれ。その謝り方で私も蒼依も納得すると思ってんの? そんなんで蒼ちゃんの傷が無くなんのかよっ!」
「愛美さん辞めてよっ!」
 当然そんなので納得するわけがなかった私が、この腹黒に蹴り入れようと足を振りかぶった瞬間、咲夜さんが涙ながらに叫ぶ。
「この先生だけが悪いわけじゃないじゃん! あたしだって十分加害者じゃん! だったらあたしも殴ってよ!」
「咲夜……」
「愛ちゃんなら分かってると思うけど、こんな偽善者に手を上げる価値なんて無いよ。ただ自分に対する免罪符が欲しいだけだよ」
 それに対してどこまでも冷酷な蒼ちゃん。でもそれもまた、私にこれ以上の暴力を振るわせないための蒼ちゃんの方便も入っている事くらいは分かる。だったら私は咲夜さんが泣こうが、苦しもうが蒼ちゃんの言う事を聞く。
「……それにこうなってしまうと別の問題も出て来るんだけど、これから何回か今までにされた事を防さんが言わないといけないのよ」
 腹黒が私たちのやり取りに、今日何度目になるのか目を見張った後、私に殴られたところを気にする事なく、私に厳しい目を向けて来るけれど、この腹黒はどこまで何を寝ぼけたことを言い出すのか。何で辛い事を何度も思い出しながら喋らないといけないのか。
「はぁ? ただ謝れば良いとだけ

上に、腹黒が放置してた責任をこっちに押し付けた挙句、何で蒼ちゃんが何回も喋らないといけないの? 寝言は寝て言えって」
 それじゃあ本当にセカンドレイプと何も変わらない。同性だろうが異性だろうが当事者である蒼ちゃんの心の傷に塩を塗る行為だって事が分からないのか。
「だから一回でも少なくするために、私たちだけしかいない保健室の中で防さんの話を聞かせて欲しいの」
 ただ腹黒の方もここだけは真剣なのか、私の怒りにかまう事なく、さっきの私を止めるためにしがみついたままの蒼ちゃんに頭を下げる。
「蒼依さんごめんなさい……先生。あたしが喋ります。みんなと友達を続けられなくても良い。今日あたしに声を掛けてくれた愛美さんの気持ちに、最後くらい応えたい」
 そして涙で顔をくしゃくしゃにしたまま、くずおれていた咲夜さんが立ち上がり、鼻声のまま咲夜さんが

に全貌を語り始める。

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