第140話 敵をだますには ~腹黒の骨頂~ Bパート

文字数 8,210文字


 ほんの少しの間、無言での食事中、雪野さんが口を開く。
「そのお弁当本当に岡本先輩が作ったんですか? 本当はご両親に作ってもらったんじゃないんですか?」
 その言葉の中身も、あくまで私は料理が出来ないと思っている事を前面に押し出して。
「自分で作ったに決まっているじゃない。大体なんでお母さんが作ってくれたお弁当を、雪野さんに食べさせないといけないの?」
 ただですら私の家は少し事情が違うから、中々お弁当を作ってもらえないのに。
「食べさせる? 食べさせるって何ですか? ワタシそんな約束までした覚えはありません」
 何を言っているのか。私と蒼ちゃんのお弁当の中身が違ったのだから、こっちは何が何でも食べてもらうに決まっている。
「何言ってんの? 私と蒼ちゃんのお弁当の中身が違うじゃない」
 そうじゃないと雪野さんの優希君への気持ちをへし折れないし、この可愛くない後輩を黙らせることも出来ない。
「ワタシ、岡本先輩みたいに大食いじゃないですし、そちらのご友人くらいのお弁当なら食べる事は出来ますけど、岡本先輩のは無理です。それに食べるにしても自分で食べます」
 ……そう言う事か。何で可愛くない後輩のために私が、食べさせないといけないのか。それくらいは自分で食べろっての……優希君相手にならいつかはしてみたいけれど。
 それをさておいたとしても、この可愛くない後輩の失礼な事。何が私は大食いなんだか。雪野さんに分ける分多めに作って来た事くらいは分かると思うのだけれど、ただ私のお弁当を食べたくない口実なだけじゃないのか。
 まあ実際の所、蒼ちゃんはお菓子を作るくらいの実力があるのは間違いないのだから、そこに関しては百歩譲って私からは文句は言わない。
 ただし、私がさも大食いみたいな言い方の訂正と、雪野さんの心をへし折るために私のおかず二品は雪野さんに口にしてもらわないと話にならない。
 そう思いながらお弁当のフタにおかずを取り分けていると、
「雪野さんだっけ。確かに雪野さんのお弁当も美味しそうだけど、愛ちゃんのもかなり美味しいよ。だから雪野さんも敵情視察って事で、一回食べてみらたどうかな」
 親友であるはずの蒼ちゃんの口からまさかの敵情視察発言。蒼ちゃんは私と優希君の仲を今朝の件も含めて心配してくれていたんじゃなかったのか。
「まあ、岡本先輩のご友人がそう仰るなら」
 しかも雪野さんまで蒼ちゃんの言う事なら素直に聞いているし。本当にこの目の前の後輩はどこまで可愛くないのか。
 そう言えば蒼ちゃんの事なら慶も何でも聞くのか……慶と雪野さんがお付き合いを始めたら、私は名実ともに雪野さんの義姉さんになるのか。そうしたら徹底的に言う事を聞かせられるかもしれない……でも二人共蒼ちゃんに懐いてしまう事も考えられるのか。そうなったら逆に私の義姉としての……そう考えると増々やるせなくなってくるから、しょうもない事を考えるのは辞めにする。
「ならとてもじゃないですけど、岡本先輩ほども食べれませんからワタシの分も食べて下さい」
「分かった。じゃあ私も敵情視察のつもりで食べさせてもらうから」
 私への敵情視察も取り消さない、私の大食いって言うのも訂正しない。私はこのままハイハイと引き下がれるわけもなく、雪野さんに受けて立つ旨を伝えると、何故か蒼ちゃんから呆れられてしまうけれど、何で蒼ちゃんはまた雪野さんの味方をするのか。
 今殺伐としているお昼も実は蒼ちゃんが原因だったりするんじゃないのか。今学期に入ってから楽しくお昼をした記憶そのものが無い気がする。
「……」
 しかも、雪野さんから貰った里芋みたいな煮つけ、隠し味みたいなのが入っているのか、なんか普通に美味しいし。
 半分くらいは冷食だと思っていた雪野さんのお弁当の中を盗み見て、その予想自体も外れてしまう。この、お弁当だと折り込んで、初めから食感を求めるような食べ物は入っていない。しかもお弁当の色どりも優珠希ちゃんほどではないけれどちゃんと考えられている事も分かる。
 この事からも十分に分かる通り、雪野さんは間違いなく家で料理をしているし、そこそこの腕も持ち合わせている事も分かる、伝わる。これだと私の料理の腕では雪野さんの心をへし折る事が出来ない。
 雪野さんの方もどう言うつもりかは分からない……事は無い。私も料理が出来ることを分かったのか、時折難しい表情をしながら私が差し出したおかずを全て平らげる。
「どう? 愛ちゃんの料理かなり美味しいでしょ? そして蒼依のも食べてみて」
 私が雪野さんに不満と言う感想を抱いていると、今度は蒼ちゃんが雪野さんとおかず交換を始めてしまう。
 蒼ちゃんが雪野さんの事を気に入って仲良くしてくれるのは、お互いの状況にとって良い事なんだから、本来なら喜ぶべきことなんだろうけれど、どうにも素直に喜べない自分がいる。
 出来る事ならこれを中条さんとか優珠希ちゃんとして欲しい。蒼ちゃんじゃなくても良いんじゃないかと思ってしまう自分がいる。
 しかも二人共がまた驚いているし。
「……雪野さんもお料理上手だねぇ」
 いや、さっきまで私の料理を褒めてくれていた蒼ちゃんの口からあっさり出てくる雪野さんへの誉め言葉。
「そんなの当たり前じゃないですか。好きな殿方に食べてもらうんですから、少しでも良い物を、ほんの少しでも美味しい物を食べてもらいたいに決まってるじゃないですか」
 その上、私の前で優希君には良い物を食べてもらいたいと言い切る雪野さん……に、さすがに面食らう蒼ちゃん。
 それにしても優希君は、この雪野さんの手料理と言うか、お弁当を口にしたのか。私が蒼ちゃんを優先したとしても、どうにもこうにも心が納得しない。いや、そう言えば雪野さんの弁当を食べると、優珠希ちゃんが大変な事になるからって言って、食べずにそのまま優珠希ちゃんに、中身が全く減っていないお弁当箱ごと渡していたんだっけ……いやそれもまたどうかと思うけれど。
 私の女としての気持ちと、人としての気持ちがせめぎ合う。ただ、雪野さんのお弁当もかなり美味しいのだから、すごく努力したんだと思う。……雪野さんの努力をこんな形で目の当たりにしてしまうと、食べない、そのまま人に渡してしまうって言うのは人として駄目だと思う。
 ただ、今だけは私の女としての気持ちを優先させてもらう。
「悪いけれど、今後は雪野さんのお弁当を優希君が食べる事は無いよ」
 少なくとも私は食べて欲しくないし、それを省いたとしても間違いなく優珠希ちゃんが、そんな事を許さないと思う。
 それに優希君にあのメガネの事、男の人の事は任せてくれと言ってくれたのだから、私は約束通り雪野さんの事、女の子の事をどうにかする覚悟で口にする。
「岡本先輩は好きな殿方の食べる自由まで束縛するんですね」
 なのに雪野さんと優珠希ちゃんを仲良くさせないといけない、優珠希ちゃんの反応を知らない雪野さんが、私を目の敵にするように睨みつけて、正論をぶつけて来る。
「束縛って……私の彼氏が、他の女の子の手料理を美味しそうに、楽しそうに食べるのを見て何とも思わないなんて事、ある訳ないじゃない。まあ本気じゃ無かったらそう言うのは気にならないのかも知れないけれどね」
 だら私も負けじと雪野さんに言い返す。でも、雪野さんの本気度合いを私は肌で何度も感じているから、どうしても語尾が弱くなってしまう。
 こういう姿を何度も見ているから、可愛くない後輩だったとしてもどうしても嫌いになれないのだ。その心がまっすぐだから何とかしてあげたいって偽善者になりたくなってしまうのだ。
 私の苦しい反撃にため息をつく音と言うのか、声が聞こえる。
 ただ雪野さんの方も、蒼ちゃんの反応を気にする事なく、負けるもんかと言う気迫と共に私だけを見返してくる。

 それに合わせる形で私も優希君の事だけは負けたくないと、雪野さんの視線を逸らさずに正面から受け止めていたのだけれど、
「そう言えば、霧ちゃんと校則違は……中条さんを仕向けたのは岡本先輩なんですよね」
 昨日の私からの説教で、二人共が動いてくれた事は分かったけれどあの二人の前でそんな言い方をしたらどうなるのか……これも想像するのを辞めてしまう。
「仕向けたって……一日(ついたち)の統括会で倉本君が、雪野さんには交代させるほどの瑕疵は無いって話していたよね」
「え? そんな話になってるの?」
 私の返事に驚く蒼ちゃん。その蒼ちゃんに教頭先生との話で、交代自体は白紙になった事だけを伏せてあらましを話してしまう。
 とは言っても私たちとちょくちょく同席している蒼ちゃんに、今更話すような事はそんなにないけれど。
「でもワタシは自分から降りるって言いましたし、あのお二人も本当に今更何のつもりなんですか?」
 ただそれ以上に驚いたのが、今の雪野さんの言い方からして二年役員二人の信頼「関係」が崩壊している事だ。
「ちょっと待って。今更って初学期の時は仲良かったんじゃないの?」
 あの彩風さんの態度は夏休み登校中、中学期から流された同調圧力の話じゃないのか。
「初学期の時って、霧ちゃんがワタシに文句を言いに来る時以外は口を利いていません」
 そう思っていただけに雪野さんの口から出て来た言葉に衝撃が走る。これだと仲直り以前の話からしないといけなくなってしまって、ただですら足りない時間がもうどうやりくりしても無理にしか思えなくなってしまう。
「でも雪野さんは今みたいに霧ちゃんって、彩ちゃんを呼んでるんだよね」
 これは同じように驚いた蒼ちゃんからの質問だったりする。
「……それは一年の終学期(しゅうがっき)からの話で、今はお互いに惰性で呼んでいるだけだと思います」
 おかしい。そんな訳は無いはずなのだ。仮に一年の時の呼び方がそのままだと言うのなら、お互い二年になって疎遠になったと言うのなら、あの鼎談の後の彩風さんの言葉
 ――同じ仲間の、友達の悪い話を聞くのって、結構シンドイんですよ―― (83・88話)
 この言葉が浮きすぎるのだ。
 でも一方で雪野さんから聞いた彩風さんの行動にも、確かに嘘も偽りも混じっていない。香水の時は、彩風さんからクラスの女子と揉めた“らしい”。(62話)
 そして御国さんのバイトの件は、雪野さんの教室にわざわざ“向かって”騒ぎを起こしている。 (97話)
 私たち三年の視点だけじゃなくて、二年の視点から見たらその行動の特異性と言うか、言動の不一致が浮き彫りになる (50-136点在)
 まさか三年と二年、この《視点の違い》だけで、こんなにも大きな落とし穴がらるとは思ってもいなかった。
 お互いを名前で呼び合うと言う目くらましに完全に出し抜かれた感が強い。
「ちなみに彩風さんと疎遠になる理由って言うか、心当たりみたいな理由はあるの?」
「ある事はありますが、岡本先輩にだけは絶対言いたくありません」
 いかにもその理由に思い当たる事もある上に、私にだけはまた言いたくないとか即答するこの可愛くない後輩。
 こっちはこっちで、雪野さんと残り4人のメンバー全員の仲直りが課題だって言うのに、こんなにも困難が連続すると言うのはどう言う事なのか。もう私に受験は諦めろと言わんばかりの難易度にしか思えなくなってきた。
 どう考えても教頭に無理だと分かった上で乗せられてしまった感が強い。しかも失敗した時の話はナシだと初めに釘を刺されてもいるから、退路も断たれてしまっている……本当にこの学校の教師はみんなどうなっているのか。
 腹黒いにも程があるとは思わないのか。
「愛ちゃんだけにはって、その話って愛ちゃんにも関係あるの?」
 私が頭を抱えたところで、蒼ちゃんが確認してくれるけれど確かにそう取れるのか。
「そちらのご友人には関係ありませんよね」
 私が喜びかけた瞬間に、にべもなく口を閉ざす雪野さん。
 しかも口調だけは丁寧なのと、そのつんけんした態度は私にも同じだって事で、文句を言うにも言い辛い。
「じゃあ彩ちゃんに聞いてもその心当たりはあるかもしれないって事だね」
 私が落ち込んでいても、蒼ちゃんが次々に私の可能性を雪野さんに聞いてくれるけれど、雪野さんの方は当然無反応だ。
「だいたいそちらのお二人は、ワタシに霧ちゃんを仕向けて今更どうしたいんですか?」
「どうしたいもこうしたいも、同じ統括会メンバーなんだから二人仲良く協力して欲しいって何回も言ってるじゃない」
「そんなの無理だってワタシ達二人を見て分かりませんか?」
 そんな事はうんざりするくらい分かってるっての。だけれどこっちだって仲直りをしてもらわないといけない事情もたくさんあるんだってのに。
「じゃあ私や倉本君の言っている事は雪野さんにはなんて――」
「――だからワタシは降りるって言ってるんです」
 固い固いとは思っていたけれど、本当に信じられないくらい頭の固い雪野さん。私が時間をかけて何回も雪野さんの本心では続けたいと思っている事を紐解いたはずなのに、どうしてこんなに固いのか。 (84・101・116話)
「じゃあ優希君が続けて欲しいと言ってくれた事も、優希君が雪野さんが辞めなくても良いようにって回りを見て、頭も使ってくれている事は雪野さんにとってはどうでも良いって言う事? そう言う意味に取っても良いって事?」
 理屈で話しても駄目。彩風さんみたいに感情に訴えかけても駄目。時間をかけても駄目。これだけ頭の固い雪野さん相手にどうしたら説得が出来るようになるのか。
 優希君の言葉も借りて逆に言い返すと、雪野さんの頭が柔軟だったら優希君の隣に立てていたのは私じゃなかった可能性がかなり高い。そのくらい雪野さんの頭は固い。
 優希君から聞いた雪野さんの苦手な所って、その頭の固さと人の話をに耳を傾けない程の押しの強さ以外には聞いた事が無いのだ。
「話になりません。今日はもう教室に帰ります」
 その上お昼を済ませた雪野さんが、そのまま自分の教室へと戻る。
「ってちょっと待って! 明日もお昼は一緒にするからね」
 その前に伝えるべき事は伝えるようにしておく。でないとあの固い雪野さんなら間違いなく“昨日はそんな事聞いてません。てっきり昨日で話は終わりかと思ってました”なんて言いかねない。
 本当に優珠希ちゃんの頭の構造も見てみたいけれど、いったい何を詰め込んだらあそこまで固くなるのか、雪野さんの頭の中もまた見てみないと気が済まなくなって来た。
「これは彩ちゃんにも聞いてみないとだけど、愛ちゃんも大変だねぇ」
 いや本当に蒼ちゃんの言う通り過ぎて、泣く事も笑う事も出来ない。これだけ好き勝手先輩相手に言って、どこに先輩は便利だと思える要素があるのか。この不満をどこにぶつければ良いのか。
 その上私はいつになったらお昼を楽しく食べる事が出来るようになるのか。少なくとも全員の仲直りが終わるまではどう考えても平穏なんて来ない気がする。
 もう少しだけお昼の時間はあったのだけれど、休み時間なのに疲れた私たちも一度教室へ引き上げる事にする。


 二人で溜息をつきながら教室へ戻って来た時、早々に教室を出ていたはずの実祝さんには女子グループが、咲夜さんには女生徒Aを含む咲夜さんグループが、それぞれ取り囲んでいるのが目に入る。
 ただ向こうも私が早く帰って来るとは思っていなかったのか、その囲みを慌てて崩す2グループ。相変わらずそう言う行動をとるからやましい事をしていたと私に教えているのだと気づかないまま。
 それと同時に
「ちょっと咲夜!」
 実祝さんが、女子グループに机を蹴られるのも厭わず咲夜さんを呼び掛けるにもかかわらず、切羽詰まった表情を浮かべながらこっちへ来る咲夜さんに、嫌な予感を覚えた私は素早く蒼ちゃんの盾になれるようにその立ち位置を変える。
「蒼ちゃんに用事があるなら、私も聞くよ」
 その上でこっちから話を仕向けた形をとる。
「……ごめん愛美さん――(つつみ)さん。明日休んでくれないかな」
 そして咲夜さんの口からとても信じられない言葉が飛び出す。
 ひょっとしたら今が、前に咲夜さんと約束をした“限度を超えたら叱る”を果たす(とき)なのかもしれない。 (☆67話☆)
「蒼依はもちろんその『咲夜さん。今の言葉は冗談? 本気?』――」
 あの放課後の時のように、私の腕を強く握る蒼ちゃん。その腕伝いに蒼ちゃんの震えも伝わる。今、蒼ちゃんの中にどんな気持ちが渦巻いているのか、私には分からない。
 だけれど、蒼ちゃんのわずかに震える腕と、私と実祝さんとの仲直りをずっと言い続けてくれていた蒼ちゃんなら、目の前で私たち二人の仲直りを見たいと思っている事は“予想”がつく。だったら、ここは私がしっかりと頑張らないといけない。みんなの気持ちを繋げるために、心を鬼にしないといけない。
「ごめん。本当にごめん。でも今回ばかりは本気な――っ」
 咲夜さんの返答を聞いた私は、今回は遠慮なく全力で頬を張り倒す。
「おい! 何人のダチ殴ってんだよ!」
 当然それに合わせて咲夜さんグループが気色ばむけれど、外野なんてどうだっていい。
「咲夜さん。何で私があの“約束”通り叱っているのかは分かってくれているんだよね」
 今はそれよりも深刻そうなのが、私が約束を果たしたのにもかかわらず、咲夜さんの表情が全く変わらない事だ。
「分かるよ。でも明日1日だけで良いから休んで欲しいの」
「悪いけれどそのお願いは聞けない。蒼ちゃんと咲夜さんの間に、私には言えない関係があろうがなかろうが、明日4人で『健康診断』のお手伝いをするって先生と決めたのだから、それは聞けない」
 だから確信する。明日の『健康診断』で全てが明るみになると。今も尚、蒼ちゃんの腕にはあざがついていると。
 そうなった時、私はどんな事があっても蒼ちゃんを一番に守ると決めているのだ。
「蒼ちゃん、行こう」
 だから咲夜さんの事は実祝さんに任せたと、二人の今の関係ならお任せできると信じて目線だけを実祝さんに送って席に着く。


 その後も私に対して雑言もあったけれど、明日には全てが分かると確信した私は、
「言っとくけれど、明日も蒼ちゃんを迎えに行くからね」
 その全てを聞き流して昼からの授業に備える。

 そして、ある意味受験生らしくない程浮足立った雰囲気の中、午後の授業も終わる。
 もちろんその間に、直接蒼ちゃんに明日は休むように念押ししようとしたであろう2つのグループの、いずれもを私がガードしたのは言うまでもなく。
 そして残るは明日の『健康診断』だけと言う時になって、先生が終礼のために入って来る。
「夏季課題は今日一杯、明日までだからなー。まだの奴は今日中に持って来ないと昨日の学力テスト全教科で得点無しになるからなー」
 この一言で腐っても受験生。教室内の空気がまた変わる。
「それよりも先生! 昼休みに岡本さんが月森さんを――」
 まあ、あれを黙っている女子グループでない事は分かってはいたけれど、私は先生ならちゃんと説明したら分かってくれると信じて黙っていようと――
「――それじゃあ今から『健康診断』を実施するから、男子から先に保健室に来いよー」
 その信じられない一言で、私も含めた教室内が大混乱になる。
「おいお前ら騒ぎ過ぎだぞー! 細かい連絡事項は明日まとめてするから、終わった奴から流れ解散にするからな―! それじゃあ帰る準備が整った男子から保健室へ移動してくれー。女子も待機場所があるから保健室の方へ来てくれよー」
 もちろん私も何が起こって、こんな話になっているか全く分からないまま。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
       「おい! 天城! 今の発言はどう言う意味だ!」
                失言と抵抗と
         「それでも先生は否定しないんですね」
         先生の瑕疵を何とかして探そうとする抵抗勢
    「――ごめん蒼依さん。あたし、もうこれ以上は耐えられない」
                壊れる人の心

     「うん困ってる。私、あの先生の腹黒さにいつも困ってた」
      友・親友と交わした約束を、貴方は覚えていますか?

         141話 断ち切れない鎖 終 ~抵抗・約束~  
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