第18話   居酒屋 Ⅱ

文字数 1,558文字

11月に入って樹と涼子は融の店に出掛けた。

カウンターの向こう側で融が調理をしているのが見えた。
カウンター近くの席に案内された。
10席程あるカウンター席は女性客で埋まっていた。

店員さんが水とメニューを持ってくる。二人でメニューを覗き込む。

融がやって来た。
「結構、席が埋まっていますね。樹に予約してもらって良かったわ」
涼子が言った。
融は周囲を見渡して「土曜日は大体こんな感じ。週末だからね」と答えた。
融は白のシャツに黒のパンツ、黒のエプロンをしている。
「融君。エプロン姿が似合うね」
樹が言った。融は笑った。
「有難う。で、ご注文はお決まりですか?」
「まずは生で」
二人は答えた。

厨房とカウンターを行き来していた大柄な男がこちらを見ている。
「何?融の彼女?」
にやにやしながら近寄って来た。
「すぐに、それ言うよね。セクハラだよ。それ。違うから。友達」
融が言った。
「こちら江田さん。ここのオーナーです。俺の大学時代の先輩」
「初めまして」
涼子と樹は頭を下げた。
「お嬢さん達。席、予約して置いて良かったよ。こいつが手伝いに来る日は融目当てで来る女性客もいるからさ。いや、ほんと。他の日と全く違うんだ。・・いいよなあ。イケメンは」
オーナーが融の肩を叩いてそう言った。
涼子が言った。
「すごく分かります」

「嘘だから。本気にしないで。単に週末なだけ。・・・はい。これ」
融は小鉢を二人の前に置く。
小鉢の中には茹でたアスパラと茄子。トマト、それにスモークサーモンが入っていた。そこにバジルソースとオリーブオイル。
「俺が作ったの。俺、お通し担当なんだ」
「彩りが綺麗ね」
「いや、ただ食材を並べただけ」
「バジルのいい香りがする」
「そうだろう?結構さあ。こいつ料理上手いんだよ。」
江田さんがまた融の肩を叩く。
「・・・一体、何なの。今日は。そんな無理な売り込みしないでくれる?ここで無駄口叩いてると綾さんに叱られるよ」
そう言った矢先に厨房から「オーナー」という声がする。
江田さんは「おっとと」と言って厨房に入って行く。
融は「ほら」と言って笑う。

「融君。モテるんだな」
樹は感心した。

カウンター内に戻った融は黙々と仕事をする。
そして時々ちらりとこちらを見る。
涼子はそんな彼を時々盗み見る。そして意味ありげに樹を見てにやりと笑う。
「なに?」
「いや。別に・・」
二人は美味い酒と料理をお伴に楽しくおしゃべりをする。

「あっ、涼子。もうすぐ2時間。そろそろ行こう」
樹が言った。
「そうね。そろそろ時間」
二人は席を立つ。
融は帰り支度をする二人に気付く。

「帰るの?じゃあ、レジにお願いします。有り難う御座いました。」
タオルで手を拭きながら出て来た融の後に付いてレジに向かう。
会計を済ませると、涼子は融に言った。
「ねえ。融さん。この後、私達オールでカラオケなの。仕事が終わったら参戦しない?もう一人お友達がいるのだけれど。彼女も彼氏と参戦するのよ。良かったら如何ですか?」
樹は慌てて言った。
「涼子。融君は彼女持ちだから。バリキャリの彼女」
涼子は残念そうに言った。
「ですよねー。当然ですよねー。トモダチの女共とのカラオケなんて無理ですよねー。」

融は樹と涼子の顔を交互に見た。
「いや。俺、今、彼女いない」
「えっ?だってこの前は彼女がいるって・・・」
樹はまじまじと融を見る。

「ねえ。そんな目で見ないでくれる?俺、結構傷付いているんだから」
融が苦笑いをしながら言った。
「ああ。御免」
樹が返す。

涼子が元気に言う。
「だったら。是非どうぞ。樹、場所を送ってあげて。じゃあ、傷心の融さんを慰める会という事で」
「融君。来るの?」
「ああ・・気分転換に行こうかな」
「うん。楽しもう。じゃあ、先に行ってるね。場所、送るね」
「きっと茂木ちゃんの彼も喜ぶと思う。男子一人だったから」
涼子が嬉しそうに言った。
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