第8話 占い Ⅰ

文字数 657文字

部屋の窓を開け放して外気を入れてある。水晶玉は覆いを取って外気と太陽に晒されていた。

直系20センチ。重さは11キロ程度。持ち上げるとかなり重い。
天然石の水晶。
無色透明なそれを覗き見る。
庭の木々が逆さに映る。

占いはいつも午後から行う。
午前中は水晶玉や部屋を外気に当てる。
午後から窓を閉めて部屋の準備をする。

今日のお客様は何処の誰でどんな事を占って欲しいかなどは一切聞かない。
母が紹介状と相談者の身元のみを確認する。
紹介者は必ず必要である。

今日のクロスは深い紺。
クロスの色はその日の気分で選ぶ。

蘇芳は手元にあるハーブをブレンドしたお茶の香りを嗅いでみる。
カモミールの香りが心を和らげる。
耳に繋いだイヤホンからはクリスタルボウルの音が流れている。その倍音が脳のどこかにある日常とは異質な領域のスイッチを入れる。

うねり、響き、重なり、伸び、強め合い、減衰する。
互いに干渉する音が聴覚を通して脳に染み渡る。その内、ひとつ購入してみようかとも思う。波動を体で感じてみたい。

もう一度水晶玉を覗き込む。
ほんの僅かな内包物が時に美しい銀河の星に見える。
蘇芳はそれに見惚れる。

結晶はその内部に時間も閉じ込めるのだろうか。
それが生成され、存在する、気の遠くなる程の時間。
それともそこに時間は存在しないのだろうか。
ふとそんな事を思う。

ドアがノックされる。蘇芳は返事をする。
今日の相談者が入って来た。
蘇芳は耳からイヤホンを外すと、相手の顔を見る。
上品なスーツ姿の初老の婦人だ。
蘇芳は軽く会釈をして相手に椅子を薦める。
占いはもう始まっている。


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