第4話   蘇芳と史有 Ⅱ

文字数 1,303文字

「夏休みが終わって、二学期から編入という事になっているわ」
蘇芳が説明する。

「編入手続きは高階の方でやってくれたから、由瑞は何もしなくてもいいのよ。制服とか書類とか全て高階がやるから。」
「大阪は?」
「大阪は無理よ」
「父さんがいるじゃないか」
「お父様はお父様で忙しいから史有の面倒は見て居られないわ。大体、お父様なんて無理に決まっているでしょう。あの人が人の面倒を見ると思う?今回一生分の面倒を見たから、もう見ないわね。死ぬまで」


「彼は本来なら自分の面倒すら見られていない人なのよ。
お母様もそんな長く家から離れられないわ。私は無理よ。畑が有るから。
それに由瑞は史有の面倒をよく見ていたじゃない。史有も由瑞なら言う事を聞くわよ。
ねっ、史有」
史有は上目遣いでちらりと由瑞を見る。
「言う事を聞くとか、そういう問題じゃない」
由瑞は憮然として史有を見る。


外の音はほとんど入って来ない。
蘇芳はスマホを見ている。
史有はアップルパイを眺める。
由瑞は史有を眺める。
また、沈黙が流れる。


由瑞が口を開いた。
「史有はどうしたいんだ?こっちへ来てやれるのか?自分の事は自分でやらなくちゃならないぞ。洗濯も食事も掃除も全部自分でやるんだ。田舎と違うからお手伝いさんはいないからな。俺だって忙しいからお前の面倒は見ては居られない。それに騒ぎなんか起こしたら、もう俺はお前を見捨てるからな。どうだ?できるのか?」

史有は暫く考えていたが、顔を上げて頷いた。
「うん。俺、兄さんと一緒に暮らす。俺、ちゃんとやるから。兄さんに迷惑を掛けない様にするから」

由瑞はその顔をじっと見ていた。
「よし。分かった。いいか、今、言った事を忘れるなよ。約束だからな。」
史有は頷いた。
「大丈夫。由瑞に迷惑を掛けたら、私が史有のご飯に毒を盛るから。ねっ。史有」
蘇芳がにこにこと笑ってそう言った。

「ああ良かった。これで由瑞に断られたらどうしようかと思ったわよ。・・・・一応、今月の末に新しい高校に面談に行って欲しいの。保護者代理として。(笑)
あなた保護者よ。由瑞。びっくりね。
何かあった時の連絡先よ。・・・それまでは史有は家で過ごすわ。私達の手伝いをしながら」
蘇芳が続ける。

「引っ越しはどうするの?」
由瑞は聞いた。
「そんなの本人がやるわよ。大した荷物も無いし。ふふふ。残念ね。由瑞。もう女の子を連れ込む事は出来なくなるわよ」
蘇芳が面白そうに笑う。
由瑞はちらりと蘇芳を見て言う。
「何、くだらない事を言っているんだ」
蘇芳はあはははと笑った。

「さてと・・じゃあ私は久し振りに都会に出て来たからお買い物でもして帰るわ。史有も一緒に行きましょう。お洋服買ってあげるわよ。・・じゃあね。由瑞。また今度。・・・その内また連絡するわ」
蘇芳がそう言うと由瑞は驚いて返した。
「・・何を言ってるの?まだ、本人の話を聞いていないじゃないか。史有は一緒に帰らない。俺と話があるから」

蘇芳は少し考える。
「じゃあ・・待ち合わせね。駅で。話が終わったら、電話して。由瑞が駅まで連れて来るのよ。
お父様から必ず一緒に連れて帰って来いって言われているのよ」

「・・・史有。お前、全く信用がないな」
由瑞は苦笑した。

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