第6話

文字数 1,212文字

 下校の時には僕は藤堂君と篠原君に亜由美を任せて、小走りで一人で帰った。
 裏の畑へと向かう途中、天気予報の言った通りに空がどんよりと暗くなっていた。ポツポツと小雨が降ってきて、すぐに夕立になりそうだった。僕は傘をさして、仕方なく歩いて裏の畑へと急いだ。
 杉林が覆っている場所の野菜を押しのけて、空からの水滴によって泥となっている畑の土を掘り起こすと、泥まみれの手が見つかった。空からの小雨と薄暗さでその手を確認した。動いていない。子供の手は冷たくなっていた。切断面は赤黒くなっているようで、真っ赤な焼けた鉄の棒を押し付けたような感じだ。  
 死んじゃったのかなと思っていると、別の生きている子供の部位を探そうとしたら、急に心臓に響くくらいの大きな音がして稲光が空を覆った。僕は今日のところは手だけを持って警察の人を探すことにした。
 東の方には小さい駅がある。
 御三増駅。
 昇降量は一日平均30名たらず、列車の本数も少ない。寂れた駅だけれど駅長だけは有名で昔、テレビに映ったことがあった。
 僕はその近くの交番に手を持ってきて、上気した顔で二人の警察の人に子供の手を渡した。
 最初、警察の人たちはびっくりしていた。
 小さな交番には二人のお巡りさんがいた。
 一人は四角い顔にメガネを掛けていて、書類が散乱した机で書き物をしていたけれど、僕の持つ子供の手を見つめていて、顔に厳しさと青白さが少し現れた。
 もう一人の人はカエルのような顔で大柄の人だった。子供の手を指紋がつかないようにと、泥を丁寧に拭きながら何も言わずにいたけど、子供の手の泥を拭きながら次第に顔が険しくなってきた。
「なんだね! ぼく! これは人形の手じゃないか?!」
 カエルのような人はハッとした僕の腕を掴んでいた。
 そのカエルのような人は険しい顔のままだ。きっと、重大な事件から性質の悪い悪戯か何かへと考えが傾いたようだ。
「違うかもしれないけど、こんな悪戯しちゃ駄目だよ!」
 語気を強くした声を聞いて。
 僕は確認をあまりしなかったことを悔やんだ。きっと、人形の手も子供たちと一緒に埋められていたんだ。
「ぼく、どこで見つけたんだい?」
 四角い顔の警察の人は優しい調子で話し出した。
 僕は決して悪戯をするような子じゃない。
「あのね……実は裏の畑で……」
 僕は顔を紅潮しながら意地を張って、警察の人に本当のことを言ってしまった。
 裏の畑でバラバラの子供たちを見つけたことと、それでも生きていることを。
「内田さん。子供の言うことですから……。それに、こんなに精工な人形の手なら、大人でも間違えるかも知れませんよ。それに、血のりもあって、何だか不気味ですね」
 四角い顔のお巡りさんが机の書類をどかしながら、目に微笑みを浮かばせていた。
「でも、何かの間違いなのかもしれないけれど、今後このようなことが起きるのは非常によくないですよ。斉藤さん」
 内田は厳しい表情を緩めなかった。
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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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