第32話
文字数 1,493文字
目を開けると、薬品と埃の匂いがする部屋だった。
ぼくはベットにいた。
病院?
ぼくは辺りを見回した。
あ、そうだ。
村外れの村田診療所だ。昔、大熱をだして心配した母さんに連れてこられたことがあるんだ。
ベットの隣には、丸っこい母さんが座った状態で眠りこけていた。
脇の時計を見ると、今は午後の11時だ。
「助かった!」
ぼくは自分でも解らないけど大声を張り上げていた。
空想が一部壊れてしまったからだろう。
ぼくは恐怖と戦うには空想しかないんだ。
でも、大丈夫。
まだまだ、空想はいっぱいある。
隣の母さんが起きた。
「まあ、起きたの歩! よかった! ……大変だったわね。父さんもおじいちゃんも感
心していたわ。羽良野先生から無事に逃げていたって田中さんから聞いて。犯人が羽良野先生だったって、みんな信じられないって大騒ぎしてたのよ。……あら、こんなこと子供に話してもいいのかしら? 田中さんに後で必ずお礼を言いなさいね」
これで、ぼくの冒険は進行しやすくなった。
羽良野先生に殺人未遂罪を着せられる。
後は裏の畑の子供たちを助けなきゃ。
「リンゴ剥く? それともご飯?」
母さんは優しくしてくれた。
「リンゴ」
丸っこい母さんはテキパキとリンゴを剥いてくれた。
「食べ終わったら、母さん。ちょっと、下へ行ってくるわね。父さんたちに電話で話さなくちゃ。ご飯はその冷蔵庫の中にお弁当があるわ。お腹空いているでしょ」
「うん」
ぼくはリンゴを口に頬張りながら、母さんがリュックに気が付いたのだろうかと、一瞬考えた。あのリュックの中身には止血剤とかがあるからだ。
見つかるとどうなるのだろう?
長い間、犯人の羽良野先生と戦っていたと思われるかも知れない。
勇気を褒められるかも知れないし。
無理はしちゃ駄目だと怒られるのかも知れない。
けれども、事件はまだちっとも終わっていない。
これからが、本当の調査なんだ。
ぼくは何気なく白い包帯を見つめていたけど、痛みどころか鉈の大きな傷による左手と右肩に血がまったくでてないことに気が付いた。
「あれ? ぼくの傷が治っている?」
点滴の血液がぼくに流されているかと思ったら、点滴には透明な液体が入っていた。
輸血しなくてもよかったのかな?
ぼくは興味本位で左手の傷を確認するために包帯を解いた。
何ともなっていない!
左手は傷がないばかりか痛みもまったくなかった。
あれだけ恐ろしかったことが夢?
そんなことはないはずだ。
だって、ここは病院だもの。
母さんに聞いてみよう。
丁度、母さんが階下から電話を終えて、戻って来た。
「あら、リンゴ一つじゃ足りないわよね。お弁当食べな。今、お茶を買ってくるわね」
「母さん。ぼくの傷や血は酷かった?」
母さんは真っ青な顔になって、それから不思議そうな声色になった。
「ええ。村田先生も驚いていたわ。血が急に止まったって、今は村田先生はその後に診察室に一人閉じこもっているの」
何かある!
きっと、これから必要になってくる知識のはずだ。
「母さん。頼みがあるんだ。隣の村田先生に聞いてきて、傷の様子が可笑しいんだ」
「まあ!」
ぼくは咄嗟に嘘をついた。
母さんは青い顔で村田先生がいる診察室へと走って行った。
しばらくすると、ぼくは慎重に起き出して病室を出て、母さんに気付かれないように後を追った。
点滴を押して薄暗い廊下を音を立てずに歩くと、階段があった。昔の記憶が正しければここは二階建で、診察室は一階にあるんだ。
ぼくはベットにいた。
病院?
ぼくは辺りを見回した。
あ、そうだ。
村外れの村田診療所だ。昔、大熱をだして心配した母さんに連れてこられたことがあるんだ。
ベットの隣には、丸っこい母さんが座った状態で眠りこけていた。
脇の時計を見ると、今は午後の11時だ。
「助かった!」
ぼくは自分でも解らないけど大声を張り上げていた。
空想が一部壊れてしまったからだろう。
ぼくは恐怖と戦うには空想しかないんだ。
でも、大丈夫。
まだまだ、空想はいっぱいある。
隣の母さんが起きた。
「まあ、起きたの歩! よかった! ……大変だったわね。父さんもおじいちゃんも感
心していたわ。羽良野先生から無事に逃げていたって田中さんから聞いて。犯人が羽良野先生だったって、みんな信じられないって大騒ぎしてたのよ。……あら、こんなこと子供に話してもいいのかしら? 田中さんに後で必ずお礼を言いなさいね」
これで、ぼくの冒険は進行しやすくなった。
羽良野先生に殺人未遂罪を着せられる。
後は裏の畑の子供たちを助けなきゃ。
「リンゴ剥く? それともご飯?」
母さんは優しくしてくれた。
「リンゴ」
丸っこい母さんはテキパキとリンゴを剥いてくれた。
「食べ終わったら、母さん。ちょっと、下へ行ってくるわね。父さんたちに電話で話さなくちゃ。ご飯はその冷蔵庫の中にお弁当があるわ。お腹空いているでしょ」
「うん」
ぼくはリンゴを口に頬張りながら、母さんがリュックに気が付いたのだろうかと、一瞬考えた。あのリュックの中身には止血剤とかがあるからだ。
見つかるとどうなるのだろう?
長い間、犯人の羽良野先生と戦っていたと思われるかも知れない。
勇気を褒められるかも知れないし。
無理はしちゃ駄目だと怒られるのかも知れない。
けれども、事件はまだちっとも終わっていない。
これからが、本当の調査なんだ。
ぼくは何気なく白い包帯を見つめていたけど、痛みどころか鉈の大きな傷による左手と右肩に血がまったくでてないことに気が付いた。
「あれ? ぼくの傷が治っている?」
点滴の血液がぼくに流されているかと思ったら、点滴には透明な液体が入っていた。
輸血しなくてもよかったのかな?
ぼくは興味本位で左手の傷を確認するために包帯を解いた。
何ともなっていない!
左手は傷がないばかりか痛みもまったくなかった。
あれだけ恐ろしかったことが夢?
そんなことはないはずだ。
だって、ここは病院だもの。
母さんに聞いてみよう。
丁度、母さんが階下から電話を終えて、戻って来た。
「あら、リンゴ一つじゃ足りないわよね。お弁当食べな。今、お茶を買ってくるわね」
「母さん。ぼくの傷や血は酷かった?」
母さんは真っ青な顔になって、それから不思議そうな声色になった。
「ええ。村田先生も驚いていたわ。血が急に止まったって、今は村田先生はその後に診察室に一人閉じこもっているの」
何かある!
きっと、これから必要になってくる知識のはずだ。
「母さん。頼みがあるんだ。隣の村田先生に聞いてきて、傷の様子が可笑しいんだ」
「まあ!」
ぼくは咄嗟に嘘をついた。
母さんは青い顔で村田先生がいる診察室へと走って行った。
しばらくすると、ぼくは慎重に起き出して病室を出て、母さんに気付かれないように後を追った。
点滴を押して薄暗い廊下を音を立てずに歩くと、階段があった。昔の記憶が正しければここは二階建で、診察室は一階にあるんだ。