第11話
文字数 1,557文字
だから、僕はとても優しい嘘を吐いた。
「きっと、裏の畑でスイカを割りすぎて、困ったことにカラスが増えたんじゃないかな」
裏の畑で割ったスイカたちは、近所の人たちが畑仕事がてらきちんと埋めていた。カラスがついばむことはあるかも知れないけれど、それなら割らなくても同じことだと思う。
「俺、知ってる。あそこでカカシの手足がたくさんでたんだってさ。母ちゃんと父ちゃんが話している時に、こっそり聞いたんだ」
篠原君は強がりな性格だった。
「へえ」
僕は事実が曲がっていることを良しとした。
それでも藤堂君はそれでも気味が悪いと思っているようだ。
「あんまり。スイカを割りすぎてカカシに怒られちゃったのかな?」
藤堂君は身震いした。
羽良野先生が体育館への入り口付近で、僕を心配そうな顔をして見つめていたが、目が合うと瞬時に優しく微笑んだ。僕はそのせいでざわざわした心を抑えて、嫌でも何かに備えて身構えた。
古い木の香りが充満する体育館へと入ると、羽良野先生はみんなにクラス順に整列したままの状態で、校長先生の話が始まるまで、僕たちに体育座りをしているようにと言った。
他のクラスの子供たちも不穏な空気を察しているようだ。
体育館のステージの中央に設置された教壇にいる校長先生と羽良野先生と痩せている女の先生が小声で話していた。
確か隣のクラスを担当している置田先生だ。
別のクラスの子供たちも体育館へと入ってきた。みんなが列を組んで体育座りをしていると、僕はその中に亜由美はいるかと、探したけれど、見つからなかった。
「おっほん! みんな静かにしていてくれ。これから、全校生徒全員は保護者の方々の迎えがくるまでこの場で待機となった。保護者の方々がくるまで、みんな慌てたり騒いだりしないように」
校長先生の言葉で、みんなが騒ぎ出した。
「何があったのかな?」
藤堂君は少し震える声を発している。
「裏の畑のことじゃないよね」
篠原君もさすがに怯えた目をして周囲を見回していた。
周りの子供たちはひそひそ話で留めているけれど、原因は知らないし、僕たちみたいに関係もしていないはず。
僕はまた優しい嘘を吐いた。
「きっと、大雨が降るんで、帰りが大変になるからじゃないかな? この季節だし」
藤堂君と篠原君は顔を見合わせているけれど、お互いその嘘にしがみつこうかと思案している表情だ。
僕は亜由美が心配だと嘘を吐いて、この列から離れることにした。
亜由美なら心配はしなくても大丈夫だ。きっと、こんな時にも体育館でみんなから少し離れて読書に没頭しているだろう。
確か亜由美は巌窟王やピーターパン。宝島などが好きだった。
僕は座っている子たちを避けて、屈み気味に体育館のステージの両脇の片方。横断幕が降りるところにいる校長先生と羽良野先生、他のクラスの先生たちが一丸となっているところの会話を盗み聞きすることにした。そのため一番近い1年1組のところへときた。
前の男の子は後ろの子とおしゃべりに夢中のようで、僕がその隣に涼しい顔で体育座りをしても気にしていない。体育館は杉林の覆うような日陰に対して弱い照明しかついていなかった。
学校の先生たちの言葉に耳を傾けていると、
「隣町の幼稚園の児童たちが、送迎バスで帰る途中にそのバスの中の全員が行方不明になったって……? 本当なんですかね」
置田先生は少し顎を引いて厳しい表情を作っていた。
「本当みたいよ。なんでも、帰りのバスが空っぽだったようで、運転手と保母さんもいなかったんですって。助かった他のバスの児童たちなんて、怖くていまだに泣いたりしていてみんな夜も眠れないみたいなんです」
「一昔前にもあったな。神隠しって、言われていたんだよ。その頃は」
初老の校長先生は眉間の皺を増やして訝った表情をした。
「きっと、裏の畑でスイカを割りすぎて、困ったことにカラスが増えたんじゃないかな」
裏の畑で割ったスイカたちは、近所の人たちが畑仕事がてらきちんと埋めていた。カラスがついばむことはあるかも知れないけれど、それなら割らなくても同じことだと思う。
「俺、知ってる。あそこでカカシの手足がたくさんでたんだってさ。母ちゃんと父ちゃんが話している時に、こっそり聞いたんだ」
篠原君は強がりな性格だった。
「へえ」
僕は事実が曲がっていることを良しとした。
それでも藤堂君はそれでも気味が悪いと思っているようだ。
「あんまり。スイカを割りすぎてカカシに怒られちゃったのかな?」
藤堂君は身震いした。
羽良野先生が体育館への入り口付近で、僕を心配そうな顔をして見つめていたが、目が合うと瞬時に優しく微笑んだ。僕はそのせいでざわざわした心を抑えて、嫌でも何かに備えて身構えた。
古い木の香りが充満する体育館へと入ると、羽良野先生はみんなにクラス順に整列したままの状態で、校長先生の話が始まるまで、僕たちに体育座りをしているようにと言った。
他のクラスの子供たちも不穏な空気を察しているようだ。
体育館のステージの中央に設置された教壇にいる校長先生と羽良野先生と痩せている女の先生が小声で話していた。
確か隣のクラスを担当している置田先生だ。
別のクラスの子供たちも体育館へと入ってきた。みんなが列を組んで体育座りをしていると、僕はその中に亜由美はいるかと、探したけれど、見つからなかった。
「おっほん! みんな静かにしていてくれ。これから、全校生徒全員は保護者の方々の迎えがくるまでこの場で待機となった。保護者の方々がくるまで、みんな慌てたり騒いだりしないように」
校長先生の言葉で、みんなが騒ぎ出した。
「何があったのかな?」
藤堂君は少し震える声を発している。
「裏の畑のことじゃないよね」
篠原君もさすがに怯えた目をして周囲を見回していた。
周りの子供たちはひそひそ話で留めているけれど、原因は知らないし、僕たちみたいに関係もしていないはず。
僕はまた優しい嘘を吐いた。
「きっと、大雨が降るんで、帰りが大変になるからじゃないかな? この季節だし」
藤堂君と篠原君は顔を見合わせているけれど、お互いその嘘にしがみつこうかと思案している表情だ。
僕は亜由美が心配だと嘘を吐いて、この列から離れることにした。
亜由美なら心配はしなくても大丈夫だ。きっと、こんな時にも体育館でみんなから少し離れて読書に没頭しているだろう。
確か亜由美は巌窟王やピーターパン。宝島などが好きだった。
僕は座っている子たちを避けて、屈み気味に体育館のステージの両脇の片方。横断幕が降りるところにいる校長先生と羽良野先生、他のクラスの先生たちが一丸となっているところの会話を盗み聞きすることにした。そのため一番近い1年1組のところへときた。
前の男の子は後ろの子とおしゃべりに夢中のようで、僕がその隣に涼しい顔で体育座りをしても気にしていない。体育館は杉林の覆うような日陰に対して弱い照明しかついていなかった。
学校の先生たちの言葉に耳を傾けていると、
「隣町の幼稚園の児童たちが、送迎バスで帰る途中にそのバスの中の全員が行方不明になったって……? 本当なんですかね」
置田先生は少し顎を引いて厳しい表情を作っていた。
「本当みたいよ。なんでも、帰りのバスが空っぽだったようで、運転手と保母さんもいなかったんですって。助かった他のバスの児童たちなんて、怖くていまだに泣いたりしていてみんな夜も眠れないみたいなんです」
「一昔前にもあったな。神隠しって、言われていたんだよ。その頃は」
初老の校長先生は眉間の皺を増やして訝った表情をした。