第23話

文字数 1,219文字

 ぼくは学校から少し離れると、羽良野先生たちを見て、こっちを向いていないのを確かめると、藤堂君と篠原君と亜由美に言った。
「ごめん。大事な本が教室にあったんだ。今、取って来るよ。亜由美は先に帰っていてくれ」
 亜由美は興味なさそうにこくんと頷いた。 
 藤堂君と篠原君も少し滲むような涙目で頷く。
 僕はすぐに学校の方へと引き返して、薄暗い杉林の中に隠れた。実は杉林からは楽に校舎の中へと入れるのだ。
 木々や葉っぱに引っ掛からないように音に注意して進む。
 ただ、下駄箱のある昇降口にも先生が見張っているはずだから、僕は一番手薄そうな体育館のガラス窓から入った。
 古い木の匂いと広さの中で、僕はステージに上がってガランとした体育館全体を見つめた。僕はあの裏の畑での事件以来、一人ぼっちなんだなと思った。
 誰も助けてはくれない。
 でも、生きているけどバラバラの子供たちを助けるためには、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
 さて、これからどうしようか。
 一人で学校中を何かあるかと探し回る訳にもいかない。
 警察の人や先生にバレるとかなり困る。
 そうだ。
 まずは用務員室へ行こう。
 きっと、何かの手掛かりがあるはずだ。
 人気のない校舎を目立たないように、ゆっくりと歩いた。足音を消しているつもりだけど、効果があるのかは解らない。
 用務員室は学校の西側に位置し、体育館の反対だ。
 窓の外を見ると、警察のパトカーの赤いランプが点滅している。
 広いグランドいっぱいにパトカーが数台停まっていた。
 心臓がバクバクする。
 でも、何故かどこか楽しい時間だ。
 僕の空想でも、こんなことは一度も考えたことはなかった。
 
 学校とは連絡通路で繋がっている用務員室には、警察の人たちがたくさんいた。僕は真っ青になって、ひょっとしたら殺人事件が起きたのだろうかと思った。
 身を低くして、廊下の窓から覗いていた。
 ブルーシートは張ってない。
 テレビと違うのかなと思っていると、後ろ側の西側階段から先生たちが来たみたいだ。大人の大きい足音がしてきた。
 僕はすぐ近くの教室に音もなく。といっても、最初からドアが開いていた。教壇の中へと隠れると、先生たちの会話が聞こえて来た。
「置田先生。警察の方たちもいるんで……。あまり言いたくないですけど……。用務員室に大量の血痕があって、壁中に人形の手足があったなんて……。松田さん(用務員のおじさん)はどこへ行ったのでしょう。あの松田さんのことだから、どこかへほっつき歩いているかも知れません。まさか、殺されているなんて、絶対考えたくはないですよね」
 話の内容はともかく、声は真壁先生の声だ。
「…………」
 しばらく、沈黙の後に、羽良野先生の声が聞こえて来た。
「村の方ではなくて、何故ここなんでしょう?」
「それは、解りません」
 今度の声は校長先生だ。
「これじゃあ、一昔前と同じですが皆さん気をしっかり持ってください」 
 校長先生が咳払いした。
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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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