第12話

文字数 1,091文字

「先生。怖いこと言わないで下さい。昨日の夜に石井君の家の裏の畑に、とても精工な人形の手足がたくさん埋めてあったって、警察の人から電話がきたんですからね。すごく不気味だし。これで、もしものことが起きたら……」
 置田先生は肩を摩っているが、背筋は曲がっていない。
「校長先生。その話って? S町のあれですか? 昔もありましたね。子供の大勢の誘拐事件」
 もう一つの隣のクラスの男の奥村先生が言おうとしたら、体育館中に音量が壊れたみたいな大きな音でチャイムが突然鳴り響いた。
「誰が鳴らしているんだ!!」
 白髪頭の校長先生が耳を塞いで叫んだ。
「私……見てきます!!」
 耳を塞いでいた細い置田先生と奥村先生が、血相変えて校舎の方へと走って行った。行き先は三階の放送室だ。
「あ、私も行きます!」
 と、もう一人の女の先生が後を追った。
 僕は好奇心で先生の後を追おうとしたけれど、おじいちゃんの言葉を思い出した。その場でことの成り行きを神様に祈って見守るしかなかった。
 僕はチャイムがなんで鳴ったかを気にしていない。
 三階の放送室に生徒が残っていて、悪戯をしたのなら、その生徒が裏の畑に精工な人形を埋めたのかもしれない。けれど、僕は子供たちをバラバラにして埋めた人はやっぱり大人だと思う。
 子供では無理だからではなくて、大人の方が都合がいい。
 何故なら裏の畑で遊ぶ子供たちは、僕と藤堂君と篠原君だけなんだ。そして、その近辺の子供たちは学校帰りに遊ぶとしたら、裏の畑ではなくて家でゲームをしているかアニメを観ている普通の子供たちばかりだ。でも、大人なら毎日裏の畑で作物の手入れをしているし、食料の調達だとするとどんな時間帯でもいられる。
 逆に子供だとすると、目立ちすぎてしまうからだ。

 しばらくすると、羽良野先生たちが放送室から戻ってきた。
 どうやら、誰もいなかったようだ。
 でも、みんな真っ青な顔をして、顔を見合わせている。校長先生に話すときには、なんとか落ち着く努力を精一杯してるみたいだった。
「ちょっと、冗談にしてほしいですけど、誰もいなかったんです……。本当に……。それに、こんな物が置いてあったんですよ。校長先生」
 置田先生が一つの人形の手のようなものを校長先生に渡していた。
 僕の心にまたざわざわした靄が発生した。
「血のりもついているし、こんな不気味なことをする子供がいるなんて」
 校長先生は人形のなにかを手でつまんで、しげしげと見つめながら訝しんだ。
 よく見ると、それは人形の手のような一部だった。恐らく赤黒い血のりがついているのだろう。
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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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