第22話

文字数 1,362文字

 目の前のちょっと変わった田中のおじさんなのか。今のぼくにはまだわからない。昨日の熊笹商店街の裏路地で、やっぱり田中さんは大根の辛味を水によって、抜いていたようだ。大根が辛くなる?
 この畑ではない場所では、辛くない大根を売っているはず。
 熊笹商店街の八百屋の大根は辛くないのでは?
「歩―!! ご飯だよー!!」
 家の方からおじいちゃんの大声が響いた。
 ぼくは貰った大根のお礼を再度言ってから家に向かった。
 
 酒屋の前で亜由美と並んで藤堂君と篠原君を待った。
 また、野菜を食べれなかった。
 僕はあの日から、野菜をまったく食べていなかった。
 家族には気が付かれていない。
 僕は野菜を食べ残していても、自分の分の食器を自分で洗うから、誤魔化しようは幾らでもあった。
 例えば洗い場にあるくず入れに入れてしまったり、最後は口に含んで後で自分の部屋で捨てたり。おじいちゃんには気が付かれてしまいそうで、怖かった。
 自動販売機の日陰で待っていると、藤堂君と篠原君が走って来た。
 僕たちは学校へと向かった。
 生暖かい南風を受けてスクールゾーンと書かれた道路を歩いていると、パトカーが数台走り過ぎていった。
 学校の方だ。
 何か起きたのかな?
 僕は嫌な気持ちを隠して、汗を拭いていると、亜由美が僕のほうへ振り返ってA4ノートを引っ張り出した。
 サラサラと大人並の綺麗な字で書いて、ぼくに渡した。
(学校に入って行った)
 と書かれてあった。
 亜由美はすごく目がいい。ここから、一キロ先の薄暗い学校の校門にパトカーが入ったことを見ていたみたいだ。
(校門の傍には羽良野先生と校長先生たちがいるわ)
 亜由美はすぐに校舎に入ったパトカーへの興味をなくして、黙々と歩いて行った。
 亜由美には怖いものがないのだろうか?
 ぼくがそう考えていると、藤堂君と篠原君も気が付いたようだ。
「学校にパトカーが入ったよ」
 藤堂君が深海魚のように呟いた。
「本当だ」
 篠原君は額の汗を拭っていたが、その顔は少しだけ陰りのある顔だった。
 二人とも何か事件が起きたというより、嫌なことが起きたと考えているのだろう。ぼくは一連の事件が関係していると踏んだ。
 校門に着くと、子供たちが回れ右して帰っている。
 校長先生と羽良野先生。胸元のホイッスルを子供たちが帰るようにと、急かすようにリズムカルに吹いている真壁先生がいた。置田先生は時折手で赤くなった目元を隠した素振りをしている。
 篠原君も藤堂君も震え上がる。
「何か起きたんですか?」
 ぼくは涼しい顔と子供の顔を張り付けて、羽良野先生に聞いた。
「なんでもないです。今日は警察の人たちに学校を調べてもらっているから。悪いけど今日は全校生徒は自宅で待機。すぐに帰りなさい」
 羽良野先生は口調はいつも通りだが青い顔をしていた。
 亜由美は校門から昇降口の方をしばらく見つめていた。
 藤堂君と篠原君は震え上がって、口も聞けないで回れ右して帰る。僕はすぐに作戦を考えた。何故って、一連の事件に関係しているのなら、ぼくが知らないと後で大変だ。
 裏の畑でバラバラにされても生きている子供たちを見つけたのは、ぼくしかいないし、そのことを誰か(恐らく犯人)に見られたからだ。
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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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