第24話

文字数 1,710文字

 僕は一通り話を聞いていると、先生たちが用務員室へ向かったので、教室の反対側から足音をたてないように歩いて行った。
 見つかるわけにはいかないから、ある程度急いで学校を抜け出さないと、そう思ってじりじりして廊下を歩いていると、いつの間にか1年3組の教室のドアが開いているのに気が付いた。
 あれ? 確かに閉まっていると思ったのに。そういえば、ほとんどの教室のドアが開きっぱなしだ。
 僕は興味が湧いて、ちょっとだけ教室内を覗いた。
「わ?!」
 教壇の上に口を開閉している用務員のおじさんの顔があった。
 首から下はない。
 僕は心臓がバクバク鳴りだして、吐き気が緩やかに喉元まで漂ってきたけど。ぐっと抑えて、その首へと近づいた。
 用務員のおじさんは目はしっかりと開いている。
 口を開閉しているけれど、何も言わなかった。
 その目は僕を見てはいない。
 そう、視界に入っていないみたいだ。
「大丈夫?」
 そう呼びかけても用務員のおじさんは、口を開閉しているだけで、視線もあらぬところを見ていた。
 そうだ。この首を持って、警察の人のところへ行こう。
 多分、ちょっと怒られるくらいで済むだろう。
 僕は用務員のおじさんの首を持った。
 それは想像以上に重かったが、ぐらつきながら両手で抱えて持ち上げた。
 辺りを見回しても、他の体の部位は見当たらない。

 そんなことより、早く持って行かないと、この人が死んでしまうかもしれない。
 
 校舎の廊下を足早に靴音を立てて、歩いていると、前方にゴクリ。という何かを飲み込む音がした。
 なんだか不気味な音だった。
 僕は立ち止まって、静かにしていた。
 開いている窓の外からは、生暖かい空気が風とともに吹いている。太陽は相変わらずさんさんとしていたが、雲に隠れてしまった。
 心臓がこれ以上ないほどバクバク鳴っていた。
 呼吸も忙しくなって、苦しくなってきた。
 僕は静かに立ち止まる。
 前方の教室から現れたのは羽良野先生だった。
 顔が真っ青で今にも倒れそうに見える。
「歩君。きみは何故こんなところにいるの?」
 羽良野先生は少し優しげだが、詰問気味に言った。
「先生? 僕はただみんなに内緒で何が起きたのかと、学校に侵入しちゃっただけです。この首を見てください。生きている。このままだと死んじゃう。早くみんなに知らせて病院に持って行かないと」
 僕は羽良野先生が犯人だと確信した。
 何故って、さっきは先生たちと用務員室へと行ったのだ。引き返す理由はどこにもない。その先生が現れた教室は1年1組だ。まったく、関係ないはず。
 多分、用務員のおじさんの他の部位を隠しに来たはずなんだ。
 後はこれからどうするかが、一番の問題だと思う。
 僕が殺されては、裏の畑でのバラバラ生き事件と用務員のおじさんの事件の犯人は、見つからなくて終わってしまう。
 助ける人が一人もいなくなってしまう。
「首? 何を言っているの? それは人形よ。歩君。こっちへ来なさい。家まで送るわ」
 僕は首を地面に置くと、回れ右して全速力で走った。

 後ろから羽良野先生の物凄い足音が追ってくる。
 階段を急いで降りるような音に近かった。
 僕は全速力で元来た体育館へと向かった。そのまま学校へ入って来たガラスの引き戸へと体をねじ込む。
 何かが飛んできた。
 体育館の壁に突き刺さった。
 僕は怖くてそれを見もしないで、引き戸から外へと出た。
 杉林の起伏を死んでしまうくらいに息を切らせて、走り出した。
 滅茶苦茶に家まで走っていると、顔を出した強い太陽光のために、汗が滝のように湧き出て洋服がびしょびしょになっていた。まだ、足がガクガクと震えて宙に浮いている感じがしていた。いままで必死に走って来たから呼吸もかなり苦しかった。
 家の玄関を開けると、驚いているキッチンの母さんと亜由美を気にせずに、すぐに自室へと向かった。
 机で顔を伏せて考えた。
 これからどうしよう。
 そう考えていた。
 もう学校へは怖くて行けない。
 何とか学校に行かないですむ休む理由はないだろうか……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み