第47話
文字数 2,336文字
一本の何かがぼくへ向かって、飛んできた。
ぼくのお腹に突き刺さると、あばら家の奥から、異変を察知して起き出した村の人たちが、手に手に農具を取り出し這い出て来た。それと、農耕車の座席にあった子供たちの腕や顔や手が火炎の熱によって動き出し、ぼとぼとと地面に落ちて、それぞれの顔は口を開け。助けを求めるかのように声を発した。
「歩君! 大丈夫!」
羽良野先生の声を聞いたようだけど、ぼくの意識はどんどんと遠のいていった。
気が付くと、ぼくの体は走っている羽良野先生に抱えられ、雑木林を物凄いスピードで突進していた。
「ほれほれ。ほれほれ」
「ほれほれ。ほれほれ。ほれほれ」
「ほれほれ」
お腹から血が大量に出ている。
羽良野先生の肩から後ろに首をやっとのことで向けると、村の人たちが大勢追ってきていた。
幾つも飛んでくる農具が羽良野先生の体を傷つける。
それでも、羽良野先生は息を切らして、ぼくを抱えながら全速力で走ってくれた。
「ぐっ」
大原先生のくぐもった声が時折聞こえる。
見ると、羽良野先生の背中には幾つもの折れた錐が随分前から突き刺さっていたようだ。
村田先生も酷いけがで、それでも、逃げながら後方へ散弾銃を幾度も撃って援護していた。
暗闇と化した林はおいでおいでと踊り出す。
まるで、迷いだせ、迷え、迷うんだ、といっているかのようだった。
どうせ、ぼくは逃げおおせられるとは決して思わなかった。
ぼくはただ悲しい歌を歌い続けるだけだ。
再び、目を開けると、ぼくの目の前には羽良野先生が倒れていた。
背中から大量の血を流し、死んでいるかのようだった。
もう動けないんだろう。
ぼくは今度は口で悲しい歌を羽良野先生のために歌ってやった。
羽良野先生の破損している背中からは、心臓などの内臓が見え。もう、生命らしき活動できるエネルギーのようなものが宿っていない。
「残念ながら……。歩君。羽良野先生はもう動くことができなくなってしまった。でも、悲しむことはないんだよ……。もともと死んでいたんだ。200年前からね。私もだが……いや、この街全部だな……」
村田先生の悲しく鳴るテープレコーダーの声に、ぼくは悲しい歌を口ずさんで、その場を後にした。
真夏がこの世とも思えないような忌まわしい事件とともに過ぎ去ろうとしていた。
ぼくの心の中で口すさんだ悲しい歌も、もう歌うことは無いんだね。でも、父さんと母さんは、あそこにはいなかったのかな?
では、どこへいったのだろう?
杉林の獣道を歩いて、村田先生が吐血しながら話しだした。
「この街から出なければね。そう、遠くへと……」
「村田先生はどうやって、あの村へ来たの?」
「車だよ。看護婦長と一緒にね。看護婦長は君のお父さんとお母さんを乗せて、一足先に帰って行ったんだよ」
「え!?」
ぼくは驚いた拍子に、後ろへ転倒しそうになった。
空腹感は消えたけど、この体には生命という名のエネルギーはないに等しい。後ろへ倒れるとそのまま動けなくなってしまいそうだった。
「言うのが遅かったかね。でも、仕方ない。さて、この道を真っ直ぐ降りていけばいい」
そういうと、村田先生は散弾銃の弾込めをしながら、咳き込んだ。
べっ、と血を吐いたテープレコーダーのような声の村田先生は、どこか遠い目をしていた。
「君の心の旅ももう終わった。後は警察や大人に任せればいい。さんざんだったけど、これもこの街では起こりうることなのだよ」
「え? 真相? まだあるんだ」
枝葉が靴の隙間に入っていたけど、ぼくは気にしないで歩を進める。
じんわりと汗が時折、耳の中に入りもした。
夏の生暖かい風は、ぼくのお腹の出血を撫でる。。
「そう。まだ、終わっていないんだ。残念だけどね」
風が弱いながらも、汗の覆う顔を撫でた。
そういえば、三部木さんたちがいたんだ。
村の人たちは、帰る場所を失い。もう不死の儀を行うことはないはずだし、いくら不死な彼らでも永久腐敗? で消滅してしまうんだろう。
「村田先生。永久腐敗って何?」
ぼくが、村田先生に顔を向けると、村田先生は大きく頷いて咳き込み。血が少量地面に落ちた。
「そうだねー。これはある種の悲劇でもあるし、とても自然なことだったんだ。約200年前から続いていた不死の儀。それは子供を食すことだけど、その当時はそれしか食べ物がなかったんだね。でも、不老不死になった彼らは……私もだけど、ある一つの悪夢が起きたんだよ。これは村の黒い歴史の話だね……」
ぼくは静かに聞いていた。
悲しいのは、もうこりごりだけど、聞かないと前に進めない。
「それは……腐食作用だったんだ。そう……食べないといけない。生きていくには……。子供たち以外を食べないのは、一種の伝統みたいなものだった。要するに子供を貪るアンデットになったんだよ。大人だと難しいからか、子供を食すことで、彼らは私も羽良野先生も、今まで街の人々も死ぬよりも苦痛な腐食を凌いでいたんだね。そう。真相はこの街にあるんだ。今も生きているんだね。真相自体がね」
やっとのことで、悪夢のような話と一緒に杉林を抜けた。
目の前の道路には、道路標識以外は、電柱と看護婦長が乗った黄色い普通自動車だった。ぼくは、すぐさま看護婦長に父さんと母さんのことを聞いていた。
自然な反応? 多分そうだ。
「安心して、何もなかったのよ」
看護婦長はケラケラと笑った。
「…………よかった……」
「さあ、出発しよう。今度はこの街からも逃げ出さなければね」
村田先生のテープレコーダーの声が辺りに響いた。
ぼくのお腹に突き刺さると、あばら家の奥から、異変を察知して起き出した村の人たちが、手に手に農具を取り出し這い出て来た。それと、農耕車の座席にあった子供たちの腕や顔や手が火炎の熱によって動き出し、ぼとぼとと地面に落ちて、それぞれの顔は口を開け。助けを求めるかのように声を発した。
「歩君! 大丈夫!」
羽良野先生の声を聞いたようだけど、ぼくの意識はどんどんと遠のいていった。
気が付くと、ぼくの体は走っている羽良野先生に抱えられ、雑木林を物凄いスピードで突進していた。
「ほれほれ。ほれほれ」
「ほれほれ。ほれほれ。ほれほれ」
「ほれほれ」
お腹から血が大量に出ている。
羽良野先生の肩から後ろに首をやっとのことで向けると、村の人たちが大勢追ってきていた。
幾つも飛んでくる農具が羽良野先生の体を傷つける。
それでも、羽良野先生は息を切らして、ぼくを抱えながら全速力で走ってくれた。
「ぐっ」
大原先生のくぐもった声が時折聞こえる。
見ると、羽良野先生の背中には幾つもの折れた錐が随分前から突き刺さっていたようだ。
村田先生も酷いけがで、それでも、逃げながら後方へ散弾銃を幾度も撃って援護していた。
暗闇と化した林はおいでおいでと踊り出す。
まるで、迷いだせ、迷え、迷うんだ、といっているかのようだった。
どうせ、ぼくは逃げおおせられるとは決して思わなかった。
ぼくはただ悲しい歌を歌い続けるだけだ。
再び、目を開けると、ぼくの目の前には羽良野先生が倒れていた。
背中から大量の血を流し、死んでいるかのようだった。
もう動けないんだろう。
ぼくは今度は口で悲しい歌を羽良野先生のために歌ってやった。
羽良野先生の破損している背中からは、心臓などの内臓が見え。もう、生命らしき活動できるエネルギーのようなものが宿っていない。
「残念ながら……。歩君。羽良野先生はもう動くことができなくなってしまった。でも、悲しむことはないんだよ……。もともと死んでいたんだ。200年前からね。私もだが……いや、この街全部だな……」
村田先生の悲しく鳴るテープレコーダーの声に、ぼくは悲しい歌を口ずさんで、その場を後にした。
真夏がこの世とも思えないような忌まわしい事件とともに過ぎ去ろうとしていた。
ぼくの心の中で口すさんだ悲しい歌も、もう歌うことは無いんだね。でも、父さんと母さんは、あそこにはいなかったのかな?
では、どこへいったのだろう?
杉林の獣道を歩いて、村田先生が吐血しながら話しだした。
「この街から出なければね。そう、遠くへと……」
「村田先生はどうやって、あの村へ来たの?」
「車だよ。看護婦長と一緒にね。看護婦長は君のお父さんとお母さんを乗せて、一足先に帰って行ったんだよ」
「え!?」
ぼくは驚いた拍子に、後ろへ転倒しそうになった。
空腹感は消えたけど、この体には生命という名のエネルギーはないに等しい。後ろへ倒れるとそのまま動けなくなってしまいそうだった。
「言うのが遅かったかね。でも、仕方ない。さて、この道を真っ直ぐ降りていけばいい」
そういうと、村田先生は散弾銃の弾込めをしながら、咳き込んだ。
べっ、と血を吐いたテープレコーダーのような声の村田先生は、どこか遠い目をしていた。
「君の心の旅ももう終わった。後は警察や大人に任せればいい。さんざんだったけど、これもこの街では起こりうることなのだよ」
「え? 真相? まだあるんだ」
枝葉が靴の隙間に入っていたけど、ぼくは気にしないで歩を進める。
じんわりと汗が時折、耳の中に入りもした。
夏の生暖かい風は、ぼくのお腹の出血を撫でる。。
「そう。まだ、終わっていないんだ。残念だけどね」
風が弱いながらも、汗の覆う顔を撫でた。
そういえば、三部木さんたちがいたんだ。
村の人たちは、帰る場所を失い。もう不死の儀を行うことはないはずだし、いくら不死な彼らでも永久腐敗? で消滅してしまうんだろう。
「村田先生。永久腐敗って何?」
ぼくが、村田先生に顔を向けると、村田先生は大きく頷いて咳き込み。血が少量地面に落ちた。
「そうだねー。これはある種の悲劇でもあるし、とても自然なことだったんだ。約200年前から続いていた不死の儀。それは子供を食すことだけど、その当時はそれしか食べ物がなかったんだね。でも、不老不死になった彼らは……私もだけど、ある一つの悪夢が起きたんだよ。これは村の黒い歴史の話だね……」
ぼくは静かに聞いていた。
悲しいのは、もうこりごりだけど、聞かないと前に進めない。
「それは……腐食作用だったんだ。そう……食べないといけない。生きていくには……。子供たち以外を食べないのは、一種の伝統みたいなものだった。要するに子供を貪るアンデットになったんだよ。大人だと難しいからか、子供を食すことで、彼らは私も羽良野先生も、今まで街の人々も死ぬよりも苦痛な腐食を凌いでいたんだね。そう。真相はこの街にあるんだ。今も生きているんだね。真相自体がね」
やっとのことで、悪夢のような話と一緒に杉林を抜けた。
目の前の道路には、道路標識以外は、電柱と看護婦長が乗った黄色い普通自動車だった。ぼくは、すぐさま看護婦長に父さんと母さんのことを聞いていた。
自然な反応? 多分そうだ。
「安心して、何もなかったのよ」
看護婦長はケラケラと笑った。
「…………よかった……」
「さあ、出発しよう。今度はこの街からも逃げ出さなければね」
村田先生のテープレコーダーの声が辺りに響いた。