第31話

文字数 682文字

 でも、道路へ出るのは問題がある。
 羽良野先生に見つかりやすいし、追い詰められたらさすがに殺されてしまう。
 車が走って来てくれればいいんだけど、そこはぼくの幸運を一滴残らず絞らないと……。
 雑木林の外は小降りの雨からどしゃ降りとなっていた。
 道路の真ん中まで歩いて、苦しい呼吸で車を待っていると、ぼくは今になってフラフラになっていることに気が付いた。
 そうだ!
 左手と右肩!?
 見ると、血で洋服が真っ赤に染まっていた。
 すぐに、道路の雑木林から反対側の電信柱に身を潜めて、緊張しながらヨモギやドクダミなど、ガムテープで応急処置をした。
 車が一台。向こうから走って来た。
 ぼくの幸運を一滴残らず絞ったかいがあった!
 電信柱の陰から急いで走行中の車の前に行って大きく手を振った。黄色の車を停めると窓から大家族の方じゃない田中さんが顔をだした。
「ぼく! どうしたんだ? 怪我しているじゃないか?!」
 その時、雑木林から羽良野先生が現れた。
 その恐ろしい形相と凶器を見て、田中さんは真っ青になった。助手席のドアを開けて叫んだ。
「早く乗って! 早く乗って!」
 田中さんはぼくを乗せて車を急発進した。
 羽良野先生が走って追いかけてくる。
「なんだ! なんだ! あ、ぼく! 掴まって!」
 のっぺりとした丸顔が恐怖で歪む。
 田中さんは焦ってアクセルを全開にした。
「追いかけてくる! 追いかけてくる!」
 ぼくはこれ以上ないほど眠くなってきた。隣の田中さんが何か必死に前方を見つめて叫んでいたけど、ぼくは泥沼のような眠りに沈んでしまった。

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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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