第35話
文字数 2,080文字
「歩が元気なのは……でも、仕方がないですよね。先生……」
「そんなにも、悲観的だと治った後が大変では? 大丈夫ですよお母さん」
村田先生のテープレコーダーのような声は至って元気よく話していた。
窓の外は雨雲が覆っているけど、村田診療所の立派な広い庭には小さい花を咲かせた花壇が幾つもあった。ぼくはそれらを見て、不思議に思ったことがある。
ここは、御三増町の外れにあって、ぼくの家から遠く離れていた。
裏の畑からもかなり離れているし、犯人はどこから来るのだろう?
目の前の村田先生とあの人形のような声の男性。
御三増町に本当にそんな異様な人たちが住んでいるのだろうか?
「歩君は、これから大きな病院へ行くんだ。すぐに良くなるからね。今は安静にしているんだよ」
村田先生はぼくに向かってニッコリと笑う。
こんな善良そうな人が殺人事件の犯人たちの仲間?
考えられないけれども、それが紛れもない現実なのだと思う。
羽良野先生から負った傷がなくなったり、ぼくの周辺で人々がおかしくなったりと、裏の畑でのバラバラにされても生きている子供たち。一体どういう事件なのだろうか?
「そろそろ、村田先生。予約した患者さんたちが来ますよ」
どこかいそいそとしているが、優しそうな看護婦の声に村田先生は少し項垂れ、真夜中に聞いた悲しそうなテープレコーダーのような音を発した。
「先生?」
周囲にいる看護婦たちの顔を見回して村田先生は、悲しそうなテープレコーダーのような声で言った。
「歩君。不死があるんだ……。この町には……」
ぼくはニッコリと笑った顔が、凍りついた。
不死……?
死なない人たち……?
午前の診療時間には多くの人たちがこの病院へと集まる。強い太陽光と生暖かい風を受けながら、汗ばんだ母さんの手に握られて、父さんの白い車に乗った。
昔、父さんはこの車は4輪駆動なんだと自慢していた。その車でドライブをした記憶が真新しい。大きな店で一番高い値段で買い取った中古車さ。と言っていた。村田診療所の広い駐車スペースを見回すと、一台だけ駐車が下手くそな自動車があった。黄色い軽自動車の前輪がそっぽを向いていた。
父さんと母さんは深刻な話を極力しないようにしているみたいだ。夜中の電話では詳しく話せなかったはずなのに、二人はお互いに意志を汲み取っているのだろう。診療所の屋根にはカラスが数羽鳴いていた。
ぼくはあれから、色々とこれからのことを考えた。バラバラにされても生きている子供たちの体は農薬とオニワライタケの力などで、生きていたんだ。ぼくは何をしようとしているのか解らない。決して治らない体にされた子供たちの仇を取ろうとしているのだろうか?或いは子供たちを病院へ連れて行くとお医者さんが、バラバラの部位を繋げて治すのだろうか?ここまで考えてみて、そんな思いが過る。
これから総合病院へ行って、治るのならバラバラにされても生きている子供たちを救えるはず。
でも、まずは犯人たちの居場所だ。
そこに子供たちはいる。
ここ御三増町はなかなか広いはずなのに、連絡を取り合って犯人たちは普通にそれぞれ潜んでいる? というのは、どうかな?
連絡方法は多分電話か何かだし気にしないことにして、犯人たちはどんな場所にもいて。どんな人でもある。田中さんや、佐々木さんに大家族の田中さん、藤堂君や篠原君の父さんと母さん。学校の先生たち。等々、幸助おじさんも危険かも知れない。
ぼくはそこで思うんだ。村田先生や幸助おじさんのように、ぼくを助けてくれる人は犯人側の人たちでも味方だと信じよう。
この町に不死がある?
どういう意味だろう?
警察の内田や斉藤は、味方だろうか?
こんな事件の話をしても意味はあるのかな?
信じてもらえるのかは、ぼくにもさっぱり解らない。
やっぱりかなり不思議なことだし、話す訳にはいかないはず。
そこまで考えていると、ふと思った。羽良野先生はどうしたのだろうか?
学校で用務員のおじさんを殺害して、ぼくに酷い怪我を負わしたんだ。警官は嫌でも捕まえるはずだ。
さて、どうやって父さんと母さんに聞こうかな?
車窓からの陽光がクーラーの効いた車内に、落ち着きを与える。何とはなしに聞いてみた。
「ねえ、父さん。羽良野先生はどうしたの?」
父さんは前方を向きながら、母さんとしばらく沈黙を保った。
停止した時間。
ぼくは緊張していた。
「あの後、田中さんから聞いたんだけれど。どこにもいなかったんだそうだよ……でも、歩。すぐに捕まるから安心してね。警察の人たちが今、大勢で探しているから大丈夫」
父さんの優しい言葉がぼくの耳にゆっくりと入り出すと、逆にぼくは怖くて冷や汗を掻いていた。心臓がまたバクバクと鳴りだした。
「歩。大丈夫さ。警察の人たちに任せなさい」
「そうよ。子供は親や大人といれば大丈夫なのだから」
父さんと母さんは落ち着いていた。
多分、普通の事件だと思ったんじゃないかな?
でも、これは誰もが犠牲になってしまい。関わると決して後戻りできない。そんな大きくて不思議な事件なんだ。
「そんなにも、悲観的だと治った後が大変では? 大丈夫ですよお母さん」
村田先生のテープレコーダーのような声は至って元気よく話していた。
窓の外は雨雲が覆っているけど、村田診療所の立派な広い庭には小さい花を咲かせた花壇が幾つもあった。ぼくはそれらを見て、不思議に思ったことがある。
ここは、御三増町の外れにあって、ぼくの家から遠く離れていた。
裏の畑からもかなり離れているし、犯人はどこから来るのだろう?
目の前の村田先生とあの人形のような声の男性。
御三増町に本当にそんな異様な人たちが住んでいるのだろうか?
「歩君は、これから大きな病院へ行くんだ。すぐに良くなるからね。今は安静にしているんだよ」
村田先生はぼくに向かってニッコリと笑う。
こんな善良そうな人が殺人事件の犯人たちの仲間?
考えられないけれども、それが紛れもない現実なのだと思う。
羽良野先生から負った傷がなくなったり、ぼくの周辺で人々がおかしくなったりと、裏の畑でのバラバラにされても生きている子供たち。一体どういう事件なのだろうか?
「そろそろ、村田先生。予約した患者さんたちが来ますよ」
どこかいそいそとしているが、優しそうな看護婦の声に村田先生は少し項垂れ、真夜中に聞いた悲しそうなテープレコーダーのような音を発した。
「先生?」
周囲にいる看護婦たちの顔を見回して村田先生は、悲しそうなテープレコーダーのような声で言った。
「歩君。不死があるんだ……。この町には……」
ぼくはニッコリと笑った顔が、凍りついた。
不死……?
死なない人たち……?
午前の診療時間には多くの人たちがこの病院へと集まる。強い太陽光と生暖かい風を受けながら、汗ばんだ母さんの手に握られて、父さんの白い車に乗った。
昔、父さんはこの車は4輪駆動なんだと自慢していた。その車でドライブをした記憶が真新しい。大きな店で一番高い値段で買い取った中古車さ。と言っていた。村田診療所の広い駐車スペースを見回すと、一台だけ駐車が下手くそな自動車があった。黄色い軽自動車の前輪がそっぽを向いていた。
父さんと母さんは深刻な話を極力しないようにしているみたいだ。夜中の電話では詳しく話せなかったはずなのに、二人はお互いに意志を汲み取っているのだろう。診療所の屋根にはカラスが数羽鳴いていた。
ぼくはあれから、色々とこれからのことを考えた。バラバラにされても生きている子供たちの体は農薬とオニワライタケの力などで、生きていたんだ。ぼくは何をしようとしているのか解らない。決して治らない体にされた子供たちの仇を取ろうとしているのだろうか?或いは子供たちを病院へ連れて行くとお医者さんが、バラバラの部位を繋げて治すのだろうか?ここまで考えてみて、そんな思いが過る。
これから総合病院へ行って、治るのならバラバラにされても生きている子供たちを救えるはず。
でも、まずは犯人たちの居場所だ。
そこに子供たちはいる。
ここ御三増町はなかなか広いはずなのに、連絡を取り合って犯人たちは普通にそれぞれ潜んでいる? というのは、どうかな?
連絡方法は多分電話か何かだし気にしないことにして、犯人たちはどんな場所にもいて。どんな人でもある。田中さんや、佐々木さんに大家族の田中さん、藤堂君や篠原君の父さんと母さん。学校の先生たち。等々、幸助おじさんも危険かも知れない。
ぼくはそこで思うんだ。村田先生や幸助おじさんのように、ぼくを助けてくれる人は犯人側の人たちでも味方だと信じよう。
この町に不死がある?
どういう意味だろう?
警察の内田や斉藤は、味方だろうか?
こんな事件の話をしても意味はあるのかな?
信じてもらえるのかは、ぼくにもさっぱり解らない。
やっぱりかなり不思議なことだし、話す訳にはいかないはず。
そこまで考えていると、ふと思った。羽良野先生はどうしたのだろうか?
学校で用務員のおじさんを殺害して、ぼくに酷い怪我を負わしたんだ。警官は嫌でも捕まえるはずだ。
さて、どうやって父さんと母さんに聞こうかな?
車窓からの陽光がクーラーの効いた車内に、落ち着きを与える。何とはなしに聞いてみた。
「ねえ、父さん。羽良野先生はどうしたの?」
父さんは前方を向きながら、母さんとしばらく沈黙を保った。
停止した時間。
ぼくは緊張していた。
「あの後、田中さんから聞いたんだけれど。どこにもいなかったんだそうだよ……でも、歩。すぐに捕まるから安心してね。警察の人たちが今、大勢で探しているから大丈夫」
父さんの優しい言葉がぼくの耳にゆっくりと入り出すと、逆にぼくは怖くて冷や汗を掻いていた。心臓がまたバクバクと鳴りだした。
「歩。大丈夫さ。警察の人たちに任せなさい」
「そうよ。子供は親や大人といれば大丈夫なのだから」
父さんと母さんは落ち着いていた。
多分、普通の事件だと思ったんじゃないかな?
でも、これは誰もが犠牲になってしまい。関わると決して後戻りできない。そんな大きくて不思議な事件なんだ。