第19話

文字数 1,365文字

 昼休みに僕は亜由美のいる4年3組に来た。
 教室は本を読んでいる亜由美以外は騒がしかった。僕は亜由美の机のところまで行くと、勢いよく話し掛けた。
「亜由美。お願いがあるんだけど。昨日の体育館にみんなが集まった時に、花壇に落ちてきた人って誰?」
 亜由美はA4ノートを勢いよく引っ張り出し、迷惑そうに走り書きをし、すぐに本に目線を戻した。
 僕はA4ノートを恐る恐る除くと。
「羽良野先生」
 と書いてあった。
「え?」
 (なんだって!!)僕はまた叫びたい気持ちを必死に抑えた。
 目が白黒したけど、目の前の亜由美は一人読書に没頭していた。
「それ、本当なの?」
 亜由美は迷惑そうな顔を上げて、こっくりと頷いた。
 一体どういう事なのだろう?
 確かに羽良野先生は体育館から他の先生たちと、放送室へと走って行ったはず。
 そして、普通に戻ってきたはずだ。
 羽良野先生が犯人?
 そんなはずはないはずだ。
 だって、裏の畑には近寄っていないはずだし。
 僕が考えていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 下校時間になるまで、胸の動悸を隠しながら羽良野先生を観察していたけど、いつもと同じで何も変わったところがない。亜由美の見間違いなのかな?
 そうだとすると、羽良野先生と同じ体格の女性が花壇に落ちてきたということだ。
 やっぱり、外からの侵入者なのだろう。
 そうでなくては、辻褄が合わない気がする。
 その日は、学校が早めに終わって僕は篠原君と藤堂君に待ってもらって、花壇を調べたが足跡はなかった。
 犯人に何かで繋がっているのは用務員さんだろう。
 僕は決心した。
 その後、亜由美も連れて藤堂君と篠原君と一緒に帰った。熊笹商店街で主婦などの通行人が多い時間帯だった。
 大きな入道雲は僕たちに巨大な影を与えている。
 つい、後ろを振り返って学校の場所を見てしまう。胸の動悸は未だに激しい。大きな混乱は、僕全体を揺さぶった。
 真夏の容赦のない熱線の投射で、スクールゾーンと書かれた道路から湯気が立っていた。
 僕たちは汗を掻いていた。
「ねえ、どうしてだと思う?」
 篠原君が強がって僕に聞いてきた。
「何?」
「真夏の雨は凄いけれど、なんでか僕たちは親の送り迎えがあったり、なかったり」
 篠原君はタイガースの帽子を被り直して、顔は強張っている。
「うーん。雨じゃなきゃいけない?」
「確かにいけなくない」
 篠原君はタイガースの帽子を目深に被って、不安な気持ちを抑えているようだ。
「じゃあ、何かあるかも知れないものを上げてみよう」
 藤堂君は震えた声を出した。
「まず、裏の畑でカカシの手足がまたでて、外の砂利道に溢れてきた……」
 そこまで藤堂君がいうと、篠原君は震えだして、
「やめてよ!!」
 訳も分からずに叫び声を発した。
 僕は本当はそれどこじゃないけど、優しい嘘をついてあげた。
「雨が降ると、御三増町の全部の川が溢れるからだよ。学校の先生が陰で言っていたんだから、本当だよ」
 藤堂君が俯き加減で聞いてきた。
「本当?」
「ああ、でも学校の先生には秘密。だって、陰で言っていたから」
 篠原君は強がって、大きく頷いた。
 学校の先生は拙い。
 僕が目立つといいことはないはずだ。
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登場人物紹介

石井 歩。


周囲からは賢い子と言われているが、空想好きな小学生。

石井 歩のおじいちゃん。 ずる賢いようでいつも歩と亜由美を見守っている。

羽良野(はらの)先生。 石井 歩の通う学校の担任。石井 歩を色々と気遣う反面……。

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