第二十七話 何の面白味の無い話し

文字数 1,461文字

「どうぞ、狭いところですが」
 そう言って案内された部屋は1LDK、ピンク系の色で統一されなかなか綺麗に整頓された部屋だ。部屋の奥にはベット、ちゃぶ台があり、その上にはノートパソコンやらが置いてある。
「お邪魔します」
 俺は靴を脱ぐと揃えてから部屋に上がっていく。初めて女性の部屋に入ることになるが、それが色めく話で無く仕事というところが如何にも俺らしい。
「今お茶を入れますから寛いでいて下さい」
 ここで手伝うよと言えるほど親しくも俺に対人スキルがあるわけでなく、取り敢えず言われたとおりに部屋の中央に置いてあるちゃぶ台のところに行く。ノートパソコンが置いてある反対側に取り敢えず座る。座ったがいいが手持ち無沙汰、カバンから文庫を出して読むことにした。
「どうぞ」
 気が付けばお茶の用意が終わった大友がちゃぶ台の上にマグカップを置いている。熊さんのマークが入った可愛いマグカップにはいい香りのするコーヒーが入っていた。
「インスタントじゃないのか」
「はい。私コーヒーが好きで近くの店で挽いたのを買ってきているんです」
 大友は緊張がほぐれたような顔で答える。やはり、俺が部屋にいるのは相当のストレスなのだろうな。もう少し話しかけた方がいいのだろうか。
「そうか」
「おいしいですか」
「ああ。凝っているだけの価値はある」
「ありがとう。由井なんかインスタントと違いが分からないとか言うんですよ」
「それは人生損しているな」
 二人してコーヒーを啜る。無言で啜る。
 会話が途切れてしまった。つくづく俺は用がある会話しか出来ない男だな。時雨さんと付き合うことになったんだ、ここは改善する必要があるな。馬鹿にしていた脳みその入らない軽いトーク、どこかに入門書とか無いかな。
 兎に角今は何かしゃべろう。俺はいいとして彼女が沈黙に耐えられないだろ。
「まあ、なんだ。俺なんかと一晩過ごすのは嫌だろうけど我慢してくれ」
「そっそんな。私の方こそ巻き込んでしまってすいません」
 大友は俺に向かって頭を下げる。別に俺は謝って欲しかったわけじゃ無いのだが、つくづく俺は駄目な男だ。もう諦めよう。
「まあ、ここはあんたの部屋だ。なるべく邪魔にならないようにしているから、俺のことは気にせず自由にしていてくれ」
「はい。それじゃあ、夕飯の支度をしますけど、何か食べられないものとかあります?」
「うまければ大丈夫だ」
「ははっそれじゃ腕によりを掛けないといけませんね。
 コーヒーのおかわりが欲しいとき入って下さいね」
「そうさせて貰う」
 彼女はキッチンに行き俺は一人本を読み出す、無心に読む。このまま読み疲れて寝てしまうのが一番安全だな。
「そう言えば果無さん、先にシャワーとか浴びます」
 幾らも読まないうちに話しかけられた。
「いや。シャワーを浴びている最中に何かあったら対応が遅れる」
 俺は彼女の部屋に来た彼氏じゃ無いんだ。護衛だ。考えすぎかも知れないか、用心に越したことは無い。もっとも怪異が出たら俺にはどうすることも出来ないけどな。精々彼女を連れて逃げるくらいだ。
「そうですか」
「言っておくが逆はいいぞ。あんたは自由にシャワーを浴びてくれ」
「すいません。私は浴びさせて貰いますね。一応女の子なので」
「覗かないから安心してくれ」
「は~い」
 その後も色々と話しかけられほとんど読み進めないうちにご飯を食べ。なんとなく一緒にテレビを見て。
 遅くなって二人とも寝た、勿論別々に。
 何の面白みも無い話だ。
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