第112話 実験実証反証

文字数 2,112文字

 最初は普通だった。俺でも上がれる可能性のある配牌であり、弓流や卯場が特別馬鹿勝ちしているようなこともなく、俺でも立ち回り次第では勝てると思わせた。それが勝負が続くに連れて牌パイはどんどん悪くなり、弓流や卯場が満貫が普通なくらいで上がり出す。
 どういうことだ? 
 今や配牌された時点でバラバラも良いところで、かといって国士を狙えないように一九字牌とそれ以外が半々くらいで来る。麻雀の入門書ならその局は勝負を捨てろと進めるような手だ。それでも腐らず諦めずにツモってもツモっても面白いように揃わない。逆にここまで揃わないと牌の種類は豊富なので、ちょっと推理力と洞察力を働かせれば危険牌を避けることは容易なので辛うじて振り込みだけはしていないのがせめてもの抵抗というか、それしか出来ない。
 こんな状況に追い込まれるのは俺が下手だからかと思えば、そこそこの腕はあるであろう店長も全く上がれず俺同様振り込みを避けるのがやっとの様子。
 俺と店長は勝負を完全にベタオリ状態で、勝負をしている弓流と卯場が互いに騙し引っ掛け振り込ませ互いに点棒を行き来させている。これだと俺と店長も食らい付いているように感じるが、実際には弓流や卯場がツモる度に俺と店長の点棒は減っていき、漸近線を描いて敗北点へと近付いていっている。
 このままでは何も出来ずに終わってしまう。しかも弓流と卯場を見極めようと五荘なんて長期戦を設定したのに、二人がガンガン交互に上がってくれるので、あっという間に二荘が終了してしまってもう中盤戦。何かしなければと焦る気持ちで、少ないチャンスで鳴いてツモ牌をずらしてやっても悉く裏目に出て弓流か卯場に良い牌が回る回ってしまう。
 俺が鳴くか鳴かないかなんて、弓流や卯場にとっては己の力が及ばない事象、運のはずなのに。つまり俺の起こす些細な漣など飲み干すほどに運の流れが大きいというのか
 人の力が及ばない事象が運なら全知全能の神に運は無い。
 つまり運の領域すら操る弓流や卯場は神に匹敵するということになる。
 そんな奴らにどうやって勝てば良いんだよ。
 もはや弓流と卯場の天上人の戦い、俺みたいな虫螻には一矢報いるどころか関わることすら出来ない。
 負けを認めるか、認めるしかないのか?
 勝つより負けて勝つ方法を模索するべきなのか?
 一応弓流とは同盟を結んでいるんだ、弓流が有利になるように差し込みくらいしてサポートした方が良いのか? 裏切られる可能性は高いが、それでも卯場が勝つよりかは挽回の目はある。幸い差し込みには困らないほど牌の種類は豊富。
 勝ち馬に乗る。勝ち馬に乗っておこぼれを頂く。
 それが賢いやり方、天に唾して全てを失うのは馬鹿のすること。
 己の力が及ばない事象が運。
 なのにその運すら左右するなんてチート過ぎるだろ、諦める合理的理由としては十分過ぎる、納得も出来る後で自分を騙せる諌められる、っん!!!
 もう一度定義を思い出せ。
 己の力が及ばない事象が運。
 この定義、何度再考しようが揺るぎないほどに正しい。
 だが弓流や卯場は何らかの方法で操っている。
 つまり論理的に帰結される答えは一つ。
 弓流にしろ卯場にしろ牌パイを操れるということは、それは運じゃない。
 何かしらの力だ。
 力が働くのなら運じゃない。
 全自動卓で配牌される牌に何らかの細工をしている。
 それは何だ? 決して運などというものじゃない。
 サイコキネキス。
 だが牌を自由に動かせても、どの牌か分からなければ意味が無い。
 クレアボヤンス。
 これなら、どれがどの牌か分かる。
 二人は二つの超能力を操る魔人どころか超能力者だったのか。
 この見えない全自動卓の中では壮絶な超能力合戦が行われている。
 荒唐無稽な話だがセクゼスや廻の力を目の当たりにしてきた俺はすんなりと納得出来る。
 だが今の俺は素直過ぎないか?
 元々は弓流が男の運を奪うサゲ○ンという話だったはず。
 素直に真実をあの雌狐が話すとは思えないが、全く関係ない力を話していたとは思えない。そんな嘘を話していれば、少しくらいは悪意の匂いを嗅ぎ取れたはず。だが全く嗅ぎ取れなかった。
 だからこそ今俺は麻雀なんて勝負をやっている。これは完全に俺のアドリブ、弓流と打ち合わせなんてしていない。違う方法で確かめようとしていればサイコキネシスもクレアボアンスも役に立たない可能性だってあった。例えば俺がもう少しスケベだったら、実際に抱かせてみろと言っていっていたかも知れない。
 もう少し自分を信じてみてもいいんじゃないか?
 俺は時雨さんなんかに比べれば凡人も良いところだが、これでも悪意溢れる人間社会を生き抜いてきた猛者だぜ。
 もう少し自分に自信を持って自分を信じる。
 ならば、超能力以外に配牌を操る方法はあるのか?
 一つ思い当たる能力がある。
 だがある意味この能力は超能力以上に非現実的だが不可能ではない。
 超能力以上に流れを操るという力に叶っている。
 ええい、もう三荘あまり時間は残されていない。
科学者なら、実験実証反証だ。
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