第二十四話 スキンコレクター

文字数 1,549文字

日は落ち、月すら輝かない闇の夜。
それでも人が作り出した輝きは足下を照らしていた。
虫の如くそんな光に導かれるように一人の少女がガラス戸を開けた。光に入って輪郭を表す少女は顔付きは可愛らしく体付きは少女から女へと脱皮していく過程で少女と女の蛹のようである。そんな少女が入った部屋の蛍光灯が照らし出すのは白壁に沿って隙間無く並び圧迫してくる洗濯機である。
「誰もいないのか」
 深夜と言うほどでは無いが月すら輝かない夜の無人のコインランドリーに、どこかモルグを連想させられる。
ぶるっと少女は振るえ、ポケットからスマフォを取り出すと友達から連絡が来ていた。
『由井。今 どこ?』
 友達からの連絡に『コインランドリー』と返すと
『私も用意したら行く』と来た。
 ちょっと心強くなった少女はここに来た目的を果たすべく動き出す。
「先に始めてますか」
 由井は出来るだけ節約する為に貯めるだけ貯めた洗濯物をどばどば洗濯機に放り込むとスイッチを入れた。
 ザーと水が入っていく音がして暫く立つが動き出さない。
「はれ動かない入れすぎたかな?」
 由井は洗濯機の中に手を入れて洗濯物を少し出そうとする。
 ぎゅっと鷲掴みされるかの如く洗濯物が由井の腕に絡みついた。
「何?」
 洗濯機が動き出す。
 ぎゅぎゅぎゅうう、腕に絡みついた洗濯物ごと腕が回転する。
 バキバキボキ、肘の関節が砕け腕が回転する。
「・・・・・。」
 あまりの痛みに声も出せない由井。
 ピー。
 ランプが前洗いから、排水に切り替わる。
 回転が止まり、排水と同時に今度は腕が吸い込まれていく。
はっ早く止めなきゃ、痛みで意識が朦朧としてしまっているが、むしろ良く気絶しなかったと褒められる精神力。由井の生存本能が意識を繋ぎ止め、もう片方の手をスイッチに伸ばさす。
しかし手が届く前に。
 じゃあああああーと勢いを増す排水にどんどん吸い込まれて、足が床から浮いてしい一気に上半身が洗濯槽に吸い込まれた。
 ピー。
 ランプが本洗浄に切り替わる。
 水が再び注ぎ込まれていく。
「グボガバガ」
 由井の顔に遠慮無く水がぶっかけられ、鼻から口から水を吸い込んでしまい噎せてしまう。
 ぐるんぶるん。
 洗浄層が回転を始める。
 洗濯機から飛び出ている白い足2本がくるくる回る。
 くるくる、くるくる。
白い足が回る。
まるでシンクロナイトで踊っているように、逆さになった足がくるくる回る。
 ランプが洗浄から排水に変わる。
 じゃあああああと排水が始まり、飛び出ていた白い足も吸い込まれていく。
 それでも、
「ガハゴボ」
 由井はまだ生きていた。窒息寸前で排水がされ、貪るように呼吸を行っている。
美しい女体に纏わり付く汚れとばかりに衣服は剥ぎ取られ一糸纏わぬ素肌を晒して洗濯槽の底に蹲っている。
生きてはいるが逃げようとはしない。今やぐるぐる回され三半規管は狂い。脳はシェイクされ思考がまとまらないのだ。
(はしゃきゃべ、ぎゅぎゅ?)
 目は焦点が合って無く、舌がだらしなく垂れている。
 もはや理性ある人間としての尊厳など微塵も無い姿を晒している。
 それでも辛うじて生きている。
 ピッ。
 脱水のランプに切り替わる。
 ガーーーーーー。
 洗濯機の高速回転が始まる。
 遠心分離器を越える高速回転が始まり、由井の体が潰れていく。
 骨が砕けて粉になっていき。
 内臓が汚物と共に肛門から飛び出ていく。
 頭蓋が砕け眼球が飛び出し、脳髄がその穴から溢れていく。
 少女の内部にある全てが飛び出ていく。
 そしてすすぎ洗浄脱水をもう一度繰り返し、ピーーーーと終了のブザーが鳴る。
 洗濯機の中には、少女の綺麗な皮だけが残されていた。
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