第128話 完全平等

文字数 2,712文字

 黒、全てを受け入れるか。
 白、全てを拒絶するか。
 ここは、全てを受け入れ拒絶する灰色の世界。
 家も家具も車も全てが灰色に染められている。
 そんな世界の教室だろうか、同じ机、同じ椅子が等間隔で並べられ学生が席に着いている。
 男は坊主、女も坊主。
 髪型は長い短い巻き髪癖髪ストレート色艶がいいに枝毛がある、更には髪自体がない者すらいると種々多彩な自己表現が可能な差別を増長する根源。
 よって排除します。
 制服は灰色のジャージ。
 青赤緑のカラーにウールポリエチレン綿の生地長い短いスカートズボン短パンの形状と種々多彩無限の自己表現が可能なだけでなく財力によっても左右されてしまう差別の象徴。
 よって排除します。
「ではこれが分かる人はいますか?」
 教師生徒との差別無く坊主に灰色のジャージを着た先生が生徒に問う。
 すると一斉に手が上がる中、一人だけ手を上げない者がいる。
「削除です削除です。この問題は削除です」
 先生は慌てて問題を消す。
 難しい問題やさしい問題引っ掛け問題、頭脳の出来を判断しランク付けする。頭のいい子と頭の悪い子頭が普通の子と振るいに掛ける差別の試験紙。
 よってこの問題は排除します。
 試験とは須く全員が出来るか須く全員が出来ないかであるべき。
 先生は黒板に更に程度を落とした一学年下で習うような公式を書く。
「これが分かる人はいますか?」
 一斉に手が上がる中やはり一人手を上げない。
 ざっと一斉に生徒達の首が回り手を上げなかった生徒を見る。
 そして一斉に指差し口を開く。
「排除」
「排除」
「排除」
「排除」
 排除、排除、排除、排除の大合唱。頭脳の優劣を付けてしまう者は排除。
きっとこの生徒はみんなが頑張って勉強をしているなかサボったのでしょう。
 問題にも限界があり、怠け者は差別を増長する。
 よって排除します。
 大合唱に紛れ教室に入ってきた者達により連れ去れてしまう。
 そして差別を増長してしまうものが消えると一斉に排除の合唱は収まる。
 すると今度は先生は先程の質問より難しい一学年上で習うような高度な問題を書く。
「これが分かる人はいるかな?」
 さっと上がる手は一人、後の者はそのまま。
 ざっと一斉に生徒達の首が回り手を上げた生徒を見る。
 そして一斉に指差し口を開く。
「排除」
「排除」
「排除」
「排除」
 排除、排除、排除、排除の大合唱。頭脳の優劣を付けてしまう者は排除。
 きっとこの生徒は影で頑張って勉強をしてしまったのでしょう。
 そんな影の努力は差別を増長する。
 よって排除します。
 大合唱に紛れ教室に入ってきた者達により連れ去れてしまう。
 こうして頭脳と努力の均一化が行われ、いつしか差別が無くなる。
 同志諸君差別を無くすため邁進有るのみ。

 お昼は給食。
 これは学校の昼だけのことじゃない。この世界において三食全てが配給される。
 金持ちはいい物を食え貧乏人は食べれない。これは成長にも影響を与え差別を育て上げていく根本原因。
 だから食の自由を禁止して三食全て配給。
 足りなくても補給無く、残すなんて許されない。
 みんな同じものを同じ量食べる。
 これにより成長は均一化される。
 同志諸君差別を無くすため邁進有るのみ。

「みんな進路希望は書いてきましたか?
 忘れた人はいないようですね、なら後ろから回して前に集めて下さい」
 生徒達は白紙の用紙を回していく。
 間違ってもアイドルになりたいなんて書く者はいない。書くような差別主義者はいないし、そもそもアイドルなどという一人羨望を集めるなどという差別の偶像はとっくに廃止されている。
 プロスポーツ選手などと言う才能の差を見せ付ける職業も廃止され。
 生活圏を維持するのに必要な職業だけが選別され残っている。
 そして選ばれた職業のどれに付くかは、スーパーコンピューターにより設定された完全乱数の出目により決定される。
 本来ならこんな事をしないで全ての職業も同じにすべきだが、未だその理想には到達していない。
 同志諸君差別を無くすため更なる鋭意努力を求める。
 
「はい、では授業は終わりです。休憩時間です」
 休憩時間席を立って娯楽を楽しむ者はいない。
 当然だが楽しめない者と楽しめる者を生み出す娯楽のたぐいは一切廃し禁止されている。
 将棋マンガアニメ小説ゴルフテニス、一切合切が禁止され関係書籍も焚書されている。
 人は生きているだけで楽しいのです。
 楽しいと思えなくてはならないのです。
 大丈夫です。人は素晴らしい、その内ほとんどの者が悟りの境地に到ります。
 隠れて未だこの理想が浸透していない外の世界からいい食べ物や娯楽を手に入れたりするものが出てこないかって?
 大丈夫、この世界においては金はとっくに廃止されています。
 金は自由を生み出し金は貧富という差別を増長する根源。
 よって排除され全ての物資は国から管理支給される。

 こうして小さいことから大きな事までこつこつと差別を生み出すものは排除されていく。
 ここは自分を嫉妬し続け濃縮されていき到達した嫉妬の究極「完全平等」が生み出した世界。
 嫉妬とは醜い感情じゃない、それは依怙贔屓、富の独占、縁故社会などの人間集団を脅かす腫瘍を切り落とすための平等の剣。
 もし嫉妬がなければ。
 可愛いというだけで能力がない者が贔屓され出世していっても。
 金持ちの子というだけで苦労もなく生活しても。
 親に弟だけが愛されても。
 何の不満を抱くことなく、社会は歪なままに成長をしてしまう。
 嫉妬は社会の悪を切り裂く公平の剣。
 嫉妬は不平等を許さない。
 嫉妬は不正を許さない。
 嫉妬は平等な社会を生み出す原動力。
 そしていつしか嫉妬する必要すら無い、全てが平等の完全平等が到来する。
 完全平等だけが人類に永遠の平和と真の平等をもたらすのです。

 今はまだ生まれの才能の差があるが、それもいずれ極端に低い者の間引き。極端に優れた者の間引きを進め。更には遺伝子工学の力を用いればいずれ解決される。
 仕事も絞ったとはいえまだ種類がある。だがこれも人類の叡智がいずれ克服するでしょう。
 さあ同志諸君、完全平等を目指し邁進しよう。
 この世界に虐めなど無い。
 それは特定を選別してしまう行為だから。
 この世界なら変わり者と弾かれる者もなく平等に扱って貰える。
「平等」
「平等」
「平等」
「平等」
「平等」
 まあ同志諸君完全平等に向かって邁進、邁進。

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