潮騒が揺らぐその間で 四話
文字数 1,935文字
一学期最後の登校日は、何事もなく終わった。
タカミが、一方的に確認を取りに来た。
「キャンプ、行くだろう。」
「オレ、バイト。」
ミチカは、相手にしなかった。
「受験勉強もあるし。」
「一日二日で変わるものかよ。」
タカミの正論が癇に障ったが、悟られないように鞄に持ち物を詰め込んだ。
「お前が行かないなら意味ないだろう。」
「だから、俺が必要か。」
そう言いながらミチカは、連休明けの軽い約束を後悔していた。マコに強請られたのか、ナミから強引に約束させられたのか憶えていなかった。
「ミナさんの運転、男前だからな。楽しみだ。」
タカミの気持ちは、先走っていた。
「バイクも巧いって知っていたか。」
喫茶店の裏に停めている大型バイクをミチカは、想い出した。物思いに耽るような様子が気になったのだろう。タカミが探りを入れた。
「まさか、告ったか? カノジョ、できたなら真っ先に報告しろよ。」
「どう思考を飛躍すれば、そうなるんだ。」
ミチカは、呆れて言い返した。
「お前こそ、あの女子の返事どうするんだよ。」
タカミが、下級生から手紙を貰った噂を小耳にはさんでいた。
「今どき、手紙を書ける女子は貴重だと思う。それに、可愛い。」
「なんで知っているんだよ。人のことだと思って、無責任だな。」
タカミの慌てる姿にミチカは、忠告した。
「お祖母ちゃんの遺言を進呈するよ。断るなら紳士的に相手を傷つけないように。」
「お前の祖母ちゃん、生きてるだろう。」
タカミは、廊下まで着いてきた。
「まさか……、そうか、変だと思った。最近のお前は、おかしいぞ。心ここに在らずって感じだ。」
タカミの指摘にミチカは、少し驚かされた。
「憑りつかれているんじゃないのか。」
「夏の怪談か。」
ミチカは、動揺を悟られないように話をはぐらかした。
「もう一日、考えさせろよ。」
迷いながらも結局のところ誘いに乗る姿を思い浮かべた。
夏の始まる浜辺は、少しずつ人出が増えていた。休みに入るとミチカは、毎日喫茶店の手伝いに出た。
「推薦って、聞いたけど。」
ミナが店の準備をしながら尋ねた。
「面接は何時なの。」
「未だ決めていません。」
ミチカは、興味なさそうに答えた。
「別の大学を受けてみようかと、考えています。」
「小さい頃から優秀だものね。」
ミナは、優しく言った。
「ナミは、受けるらしいよ。」
「……まさか、医学部?」
反射的に確かめたミチカに、ミナが少しお道化て言い添えた。
「まさかの、医学部。」
ミチカは、幼い頃の記憶を手繰り寄せた。ミチカが風邪をひくと、ナミは真剣に診察の真似事をして看護した。母親のような親身な振る舞いを重く受け止めて、ミチカは迷惑に感じたのだ。
「ナミの努力と根性と執念。半端じゃないよ。君も覚悟して。」
ミナは、微笑みを浮かべ付け加えた。
「外科志望だって。」
「……怪我しないようにします。」
ミチカの軽い冗談にミナが、明るく笑った。
店を訪れる客層は入れ替わった。顔見知りが少なくなり、遠くからの海水浴客で店の雰囲気は変わった。店内に流れる音楽さえも新鮮に聞こえた。ミチカは、昼前から夕方にかけて賑わう店を手伝った。夜にもう一度立ち寄って遅い夕食をご馳走になり帰宅する毎日だった。その夕食は、ナミの役目になっていた。余った食材を使って五人分の料理を工夫し用意した。ナミの料理の才能は、ミチカも認めていた。態度や口に出さなかったが。
ミチカの反応が乏しく気に入らなかったのだろう。ナミは、後片付けを手伝うミチカの耳元で尋ねた。
「美味しかった?」
「うん。」
「どこが?」
「……味が。」
「はぁ……?」
ナミは、呆れて苦言を呈した。
「将来のために教えてあげる。【君の料理は最高だよ。】って言うの。優しい笑顔でね。それが、夫婦円満の秘訣よ。」
ミチカは、半分聞き流していた。気持ちが浮ついていたのだろう。ナミがミチカの脛を蹴って凄んだ。
「……それ、止めなさいよ。」
「なにが、痛いだろう。」
「蹴られて、当然だし。」
「何かしたか。」
「さぁ、どうだか。」
そこに、マコが割り込んできた。
「ナミちゃん、ダメだよ。」
「マコも、いずれ気持ちが分かるよ。」
「えっ?」
「こういう男はね。大変なんだから。」
「大変……? マコ、大丈夫だよ。」
「いやいや、ホント、無理って。泣くよ。」
「マコ、泣かない。」
「マイペースで、自分勝手で、他人に興味がない。」
悪態を聞き捨てながらミチカは、二人から離れた。
「じゃ、帰るよ。御馳走サマ。」
マコとナミが、同時に非難した。
「お兄ちゃん、もう帰るの。」
「こういう男だから……。」
「二人共、好い夢を。」
タカミが、一方的に確認を取りに来た。
「キャンプ、行くだろう。」
「オレ、バイト。」
ミチカは、相手にしなかった。
「受験勉強もあるし。」
「一日二日で変わるものかよ。」
タカミの正論が癇に障ったが、悟られないように鞄に持ち物を詰め込んだ。
「お前が行かないなら意味ないだろう。」
「だから、俺が必要か。」
そう言いながらミチカは、連休明けの軽い約束を後悔していた。マコに強請られたのか、ナミから強引に約束させられたのか憶えていなかった。
「ミナさんの運転、男前だからな。楽しみだ。」
タカミの気持ちは、先走っていた。
「バイクも巧いって知っていたか。」
喫茶店の裏に停めている大型バイクをミチカは、想い出した。物思いに耽るような様子が気になったのだろう。タカミが探りを入れた。
「まさか、告ったか? カノジョ、できたなら真っ先に報告しろよ。」
「どう思考を飛躍すれば、そうなるんだ。」
ミチカは、呆れて言い返した。
「お前こそ、あの女子の返事どうするんだよ。」
タカミが、下級生から手紙を貰った噂を小耳にはさんでいた。
「今どき、手紙を書ける女子は貴重だと思う。それに、可愛い。」
「なんで知っているんだよ。人のことだと思って、無責任だな。」
タカミの慌てる姿にミチカは、忠告した。
「お祖母ちゃんの遺言を進呈するよ。断るなら紳士的に相手を傷つけないように。」
「お前の祖母ちゃん、生きてるだろう。」
タカミは、廊下まで着いてきた。
「まさか……、そうか、変だと思った。最近のお前は、おかしいぞ。心ここに在らずって感じだ。」
タカミの指摘にミチカは、少し驚かされた。
「憑りつかれているんじゃないのか。」
「夏の怪談か。」
ミチカは、動揺を悟られないように話をはぐらかした。
「もう一日、考えさせろよ。」
迷いながらも結局のところ誘いに乗る姿を思い浮かべた。
夏の始まる浜辺は、少しずつ人出が増えていた。休みに入るとミチカは、毎日喫茶店の手伝いに出た。
「推薦って、聞いたけど。」
ミナが店の準備をしながら尋ねた。
「面接は何時なの。」
「未だ決めていません。」
ミチカは、興味なさそうに答えた。
「別の大学を受けてみようかと、考えています。」
「小さい頃から優秀だものね。」
ミナは、優しく言った。
「ナミは、受けるらしいよ。」
「……まさか、医学部?」
反射的に確かめたミチカに、ミナが少しお道化て言い添えた。
「まさかの、医学部。」
ミチカは、幼い頃の記憶を手繰り寄せた。ミチカが風邪をひくと、ナミは真剣に診察の真似事をして看護した。母親のような親身な振る舞いを重く受け止めて、ミチカは迷惑に感じたのだ。
「ナミの努力と根性と執念。半端じゃないよ。君も覚悟して。」
ミナは、微笑みを浮かべ付け加えた。
「外科志望だって。」
「……怪我しないようにします。」
ミチカの軽い冗談にミナが、明るく笑った。
店を訪れる客層は入れ替わった。顔見知りが少なくなり、遠くからの海水浴客で店の雰囲気は変わった。店内に流れる音楽さえも新鮮に聞こえた。ミチカは、昼前から夕方にかけて賑わう店を手伝った。夜にもう一度立ち寄って遅い夕食をご馳走になり帰宅する毎日だった。その夕食は、ナミの役目になっていた。余った食材を使って五人分の料理を工夫し用意した。ナミの料理の才能は、ミチカも認めていた。態度や口に出さなかったが。
ミチカの反応が乏しく気に入らなかったのだろう。ナミは、後片付けを手伝うミチカの耳元で尋ねた。
「美味しかった?」
「うん。」
「どこが?」
「……味が。」
「はぁ……?」
ナミは、呆れて苦言を呈した。
「将来のために教えてあげる。【君の料理は最高だよ。】って言うの。優しい笑顔でね。それが、夫婦円満の秘訣よ。」
ミチカは、半分聞き流していた。気持ちが浮ついていたのだろう。ナミがミチカの脛を蹴って凄んだ。
「……それ、止めなさいよ。」
「なにが、痛いだろう。」
「蹴られて、当然だし。」
「何かしたか。」
「さぁ、どうだか。」
そこに、マコが割り込んできた。
「ナミちゃん、ダメだよ。」
「マコも、いずれ気持ちが分かるよ。」
「えっ?」
「こういう男はね。大変なんだから。」
「大変……? マコ、大丈夫だよ。」
「いやいや、ホント、無理って。泣くよ。」
「マコ、泣かない。」
「マイペースで、自分勝手で、他人に興味がない。」
悪態を聞き捨てながらミチカは、二人から離れた。
「じゃ、帰るよ。御馳走サマ。」
マコとナミが、同時に非難した。
「お兄ちゃん、もう帰るの。」
「こういう男だから……。」
「二人共、好い夢を。」