第19話

文字数 1,413文字

「まず訊きたいんだけど、ミナミちゃんはどうしてこんな合成写真を用意していたの?」

 ミナミちゃんは一瞬、ぴたりと動きを止めました。それからこう説明します。

「いくら実の姉妹だって、こんなくだらないことに付き合い続けられるほど、忍耐があるもんじゃあないからね。スカタンのオッサンのときもそうだけど、あんなのを肩代わりさせられ続けたら身が持たないってもんよ。そうでしょ?」

 実里ちゃんはフムとまたちょっと考えます。それから、詩織ちゃんを見ました。

「私はね、詩織ちゃんの気持ちわかるよ。私も、人と会うのは苦手。だって、怖いでしょ。自分が相手からどう思われてるかって考えただけで、何もできなくなるもん」
「でもだからって、こんなこといつまでも続けてていいわけ?」

 とミナミちゃんが刺すような声で言います。実里ちゃんは首を縦に振りました。

「ミナミちゃんの言ったことは、私も正しいと思う。このままじゃ絶対にダメ。こんなこと、ずっとは続けて行けないよ」
「結局あんたも私と同じことを言うんじゃない」とミナミちゃん。

 話を聞いていた詩織ちゃんがわっと泣き出しました。

「私には無理なのよ! 誰かと話すなんて、そんなこと向いてないもの。そうよ、私はダメなやつよ。だからこそ、私はサオリとしてしか人に会いたくないのよ。私なんか人に好かれるわけがないのよ」
「だからお人よしのバカを利用したってことでしょ」

 ミナミちゃんは、私を指差して言いました。私が「お人よしのバカ」!

「そこの間抜けなら、頼んだらなんだってやってくれるでしょうし、きっとちょうどよかったでしょうね。その間抜けに秘密なんて背負わせて、どうするつもりだったの。どれだけこいつの負担になってるか、あんたわかる? 私はそれが許せないのよ」
「負担になってるのはわかるよ。でも、私には佳奈ちゃんしか頼れないんだもん、仕方ないじゃん。サオリもいなくて、私には佳奈ちゃんしか、いないから……」
「この間抜けのお人よしを、あんたは利用してるの」
「利用なんてしてない!!
「現に利用してるじゃない!!

 今にもつかみ合いになりそうな二人の間に、私は割って入ります。

「けんかしないで。たしかに大変だったけど、私は別に気にしてないから。大丈夫だから」

 ミナミちゃんは私をにらみました。

「そうやって甘やかすから良くない。私たちは春から小五になるの。あと二年で卒業して、今度は中学生。湖中中学校は第二小の人たちも来るの。これから先、どんどん初対面が増えてくる。初対面のほうが、多いぐらい――それなのに、初対面が嫌なんて、甘えたこと言ってんじゃないよ。そんなんじゃ、生きていけないからね!!
「そんなの、私だってわかってる」

詩織ちゃんはミナミちゃんの服を掴みます。けれど、すぐに力を失って、だらりと腕が垂れました。

「私には生きる資格もないってこと?」

 詩織ちゃんは肩を震わせて、ぼろぼろ泣きました——人見知りは死ねってこと? 自信がないやつはいなくなったほうがいいってこと?

「やめてよ!」

 実里ちゃんが怒鳴りました。これにはさすがに、あのミナミちゃんもひるみます。実里ちゃんはずんずんとミナミちゃんに詰め寄って、「詩織ちゃんに謝って」と言いました。実里ちゃんの目は、うるんでいます。「謝って!!

「ふん」ミナミちゃんは腕を組んで、そっぽを向きます。「あぁ、はいはい。ごめんなさい」

 私はただおろおろすることしかできません。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み