第3話

文字数 1,094文字

 日曜日になりました。早朝です。

 外がおそろしく騒がしいので目を覚ました私は、家の前の道にクラスメイトが溢れかえっているのにすぐ気が付きました。ばたばたと階段を駆け下りてパジャマのまま飛び出すと、実里ちゃんが私を待っていました。「おはよう、佳奈ちゃん。なんだか本当にお祭りにみたいになっちゃったね」

 道路は完全に封鎖されていました。私はうきうきした気持ちでそれを見ていましたが、実里ちゃんはちょっと不安そうでした。

「こんな騒ぎにしたら、怒られるかもしれないね」と実里ちゃんが言います。

 私も「たしかに」と思いました。みんなが集まってからしばらく経つのかもう待ちくたびれたようで、サッカーをしたり、塀の上に乗ったり、もはや動物園状態でした。

「そりゃこんなバカ騒ぎしてりゃあ怒られるでしょ」

 そんな声がしました。クラスメイトの南由香ちゃんです。携帯電話をぽちぽちといじったままで、私たちのほうを見ようとしません。でもトトト、トトトとリズムよくキーを打つのはたいへんカッコいいです。私と実里ちゃんが慌てていても、ミナミちゃんはおもしろそうにくすくす笑って、こう言います。

「別にそう慌てなくてもいいんじゃない? 大人になにか訊かれたら、ぜんぶ男子のせいにしちゃえばいいんだよ」

「嘘なんて、いいのかなあ」実里ちゃんが、余計にしゅんとします。

「バカだねえ。それが社会の仕組みなのよ」

 なんだか「社会」の難しい話になったらしいので、私はよくわからなくなってしまいました。
 しかしミナミちゃんがずいぶん落ち着いているので、これは見習わないといけないと思いました。時には大人に対してこういうハッキリとした態度でいるのも大事であることを私は知っています。この前も近所の家の障子を野球ボールで破ったときに、「やったのは私です!!(さあ怒るがいい!!)」という態度でいたら、「言い訳をしないのは立派だ」と褒めてもらったことがあります。

 こうなったら、『眞見』さん一家にはさっさと引っ越してきてもらうしかありません。

 私は腕を組んでぐっと念じていました。

「バカだねえ」ミナミちゃんは言いました。
「どんだけ気合入れようが、向こうには関係ないんだから。力抜いて待ってるのが一番いいのよ」

「たしかに」私は納得して、力を抜きました。かなり楽でした。

 私ももう高学年なので、気合とは関係のないことが色々あることを知っています。たとえばテストがそうです。わからないことをわかるために、アタマを使うわけです。

「でもそういえば、不思議なんだけど」
「どうしたの?」と実里ちゃん。

「どうしてみんなは、朝に引っ越してくるって思ったの?」
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