第11話

文字数 571文字

 商店街に向かう道すがら、私はミナミちゃんに「ありがとう」と「ごめんなさい」を言いました。ミナミちゃんに任せきりで、何もできなかったからです。前に立って男子たちと仲良く話しながら歩く詩織ちゃんを二人で見つめていたら、ミナミちゃんが言いました。

「今あそこにいるのは、サオリちゃんね」
「そうなの?」私はびっくりしました。

「ほんとにバカねえ。よぅく見ていればわかるのよ。誰だって今日の詩織ちゃんはちょっとおかしいって思ったはず。伏し目がちだし、男子とは全然口を利かないし、でもしゃべるときだけはニコニコして。無理してるのがバレバレ——でも今は、ハキハキ話してる。えらい違いよ」

 そう言われて思い返してみますが、私にはよくわかりませんでした。しかし、でも、そういえば体調が悪そうな感じはしてたかな、っていうぐらい。

「アンタは嘘をつきなれていないから、わからないのね」ミナミちゃんは、寂しげに笑いました。「でもそれぐらいでちょうどいいのかもね。詩織ちゃんのこと大切にしてやんな」

 ミナミちゃんはそう言って、少し前にいる女の子に話しかけに行きました。

 ミナミちゃんはとても賢いので、私には彼女の言っていることがよくわからないときがあります。でも「大切にしてやんな」と言うミナミちゃんの声は、ほんとうにやさしくて、私はちょっとうれしくなってしまうのでした。
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