第15話
文字数 1,333文字
「でね! 超イケてるアイディアを思いついちゃったの!」と詩織ちゃんが言います。
そして携帯電話を私に見せました。そこには動画が映し出されていました。その動画は引っ越してくる前に撮られたもののようでした。木造の建物が並び、背後には大きな山が見えました。
「これはね、サオリが私を演じている動画なの」
動画のなかのサオリちゃんは数人で遊んでいましたが、カメラに気が付くと「勝手に触らないでってば」と笑いながらこっちに近づいてきます。カメラがばっと上を向いて、雲一つない青空と、見知らぬ男子の顔を映し、がたがたと音がした後、暗転。動画が終わります。
「私たちが引っ越す少し前ね、新しく引っ越してきた人がいたの。男の子なんだけど、勝手に携帯をいじってね、私のふりをしたサオリを撮影してたってワケ」
「ええと、これをどうするの?」
「私は明日誰かも知らない人と会うわけでしょ。その人に、佳奈ちゃんがこの動画を見せて、今から会う子はこんな子だよって教えておくの。これならもう初対面じゃないでしょ?」
「私が動画を見せて、ええと、それで初対面じゃなくなる? えっ、どういうこと?」
「いや、コレ、サオリの動画。見せる。私、会う。そしたら初対面じゃない。わかる?」
何を言っているのか、わかりません。私の感覚がおかしいのでしょうか。
動画を見せて初対面じゃないことになる程度なら、普通に会ってしまってもかまわないように感じます。詩織ちゃんはいったいなぜ、ここまで初対面を嫌がるのでしょうか?
「わからない」
私はすなおにそう言いました。すると詩織ちゃんは突然突き放したように、
「佳奈ちゃんは人見知りしないから私の気持ちがわからないんだよ」
と、そう言われました。言われましたがしかし、それでも私にはよくわかりません。
「もちろん万全じゃないよ。本当はサオリが私のふりをしてくれないと駄目なの。でも今はそれができないんだから、これでなんとかするしかない。そうでしょ?」
「なんとかなりそう?」
「わかんない。こんなの、やったことがないもん。もしかしたら、声が出なくなるかもしれない。私、初対面の人と会うと、こう、息ができなくなるの。ぶわあって唾が溢れてきて呼吸ができなくなるの。おぼれちゃうの」
「溺れるって、ツバで?」
「佳奈ちゃんにはわからないよ。ともかく佳奈ちゃんは動画を見せて、どんな子かって話をしてくれればいいから。佳奈ちゃんって携帯電話持ってたっけ」
「ううん、私は持ってない」
「それじゃあ私のを貸すね。とりあえず明日だけ。うまくいったら、佳奈ちゃんがいつでも動画を見せられるようにしなくちゃ」
詩織ちゃんは真剣そのものです。なんといっていいのか、私は複雑な気持ちになりました。
「ねえ詩織ちゃん」私はもやもやとした気持ちの中から、言葉を絞り出します。「サオリちゃんじゃなくて、詩織ちゃん本人として、一度会ってみるのは駄目なの? 最初はしゃべらなくてもいい。だんだん慣れて行けばいいじゃない」
しかし詩織ちゃんは、首を横に振ります。
「私にはできないよ。それに、〈詩織〉と仲良くしてなんの意味があるの? 〈詩織〉と仲良くする理由なんてどこにもないでしょ?」
詩織ちゃんはそう言って、寂し気に笑いました。
そして携帯電話を私に見せました。そこには動画が映し出されていました。その動画は引っ越してくる前に撮られたもののようでした。木造の建物が並び、背後には大きな山が見えました。
「これはね、サオリが私を演じている動画なの」
動画のなかのサオリちゃんは数人で遊んでいましたが、カメラに気が付くと「勝手に触らないでってば」と笑いながらこっちに近づいてきます。カメラがばっと上を向いて、雲一つない青空と、見知らぬ男子の顔を映し、がたがたと音がした後、暗転。動画が終わります。
「私たちが引っ越す少し前ね、新しく引っ越してきた人がいたの。男の子なんだけど、勝手に携帯をいじってね、私のふりをしたサオリを撮影してたってワケ」
「ええと、これをどうするの?」
「私は明日誰かも知らない人と会うわけでしょ。その人に、佳奈ちゃんがこの動画を見せて、今から会う子はこんな子だよって教えておくの。これならもう初対面じゃないでしょ?」
「私が動画を見せて、ええと、それで初対面じゃなくなる? えっ、どういうこと?」
「いや、コレ、サオリの動画。見せる。私、会う。そしたら初対面じゃない。わかる?」
何を言っているのか、わかりません。私の感覚がおかしいのでしょうか。
動画を見せて初対面じゃないことになる程度なら、普通に会ってしまってもかまわないように感じます。詩織ちゃんはいったいなぜ、ここまで初対面を嫌がるのでしょうか?
「わからない」
私はすなおにそう言いました。すると詩織ちゃんは突然突き放したように、
「佳奈ちゃんは人見知りしないから私の気持ちがわからないんだよ」
と、そう言われました。言われましたがしかし、それでも私にはよくわかりません。
「もちろん万全じゃないよ。本当はサオリが私のふりをしてくれないと駄目なの。でも今はそれができないんだから、これでなんとかするしかない。そうでしょ?」
「なんとかなりそう?」
「わかんない。こんなの、やったことがないもん。もしかしたら、声が出なくなるかもしれない。私、初対面の人と会うと、こう、息ができなくなるの。ぶわあって唾が溢れてきて呼吸ができなくなるの。おぼれちゃうの」
「溺れるって、ツバで?」
「佳奈ちゃんにはわからないよ。ともかく佳奈ちゃんは動画を見せて、どんな子かって話をしてくれればいいから。佳奈ちゃんって携帯電話持ってたっけ」
「ううん、私は持ってない」
「それじゃあ私のを貸すね。とりあえず明日だけ。うまくいったら、佳奈ちゃんがいつでも動画を見せられるようにしなくちゃ」
詩織ちゃんは真剣そのものです。なんといっていいのか、私は複雑な気持ちになりました。
「ねえ詩織ちゃん」私はもやもやとした気持ちの中から、言葉を絞り出します。「サオリちゃんじゃなくて、詩織ちゃん本人として、一度会ってみるのは駄目なの? 最初はしゃべらなくてもいい。だんだん慣れて行けばいいじゃない」
しかし詩織ちゃんは、首を横に振ります。
「私にはできないよ。それに、〈詩織〉と仲良くしてなんの意味があるの? 〈詩織〉と仲良くする理由なんてどこにもないでしょ?」
詩織ちゃんはそう言って、寂し気に笑いました。