第12話

文字数 960文字

 商店街の散歩はなにごともなく終わりました。
 学校に戻った頃にはもうずいぶん暗くなっていたので、そろそろ帰ろうという話になりました。方向の違う子たちと先にお別れして、私たちはお手洗いに行った詩織ちゃんを待ってから歩き出しました(そう、お手洗いです! 私たちの前から姿を消したのがポイントです)。

 小学校の前の通りを渡ったところで、前を歩いていた男子が「あっ」と声をあげました。

「第二小の連中がいる! こっちの道から行くぞ!」

 私たちの住む湖中町には、湖中小学校のほかに湖中第二小学校があります。それぞれに異なるスポーツチームがあることもあってか、二つの小学校はずっと仲が悪いのでした。先日などは一人で下校した実里ちゃんが第二小の人に絡まれたりしたほどです。

 しかし脇道に逸れたところで、油断は禁物。具合の悪いことにそこは〈スカタンゾーン〉でした。その駐車場に入り込んだのを見つかるが最後、酒屋の主人が飛んできて「このスカタン!」と怒鳴ってくるというおそろしい場所です——これは、前にお話ししたことがありましたよね。詩織ちゃんが引っ越してきた翌日、学校に向かう途中のことだったと思います。

 だから私はもう、詩織ちゃんはすっかり事情を知っているものと考えていました。大きな勘違いをしていたのです! 詩織ちゃんはそろりそろりと動く一同を不思議そうな目で見ていました。そうしてとうとう私のそばに近寄ってきて「何をしてるの?」と当たり前に声を出したのです。

「バカ!」

 男子のひとりがそう言いました。その瞬間、全員が全速力で駆け出します。それと同時に、酒屋の引き戸が勢いよく開いて、体格のいいひげもじゃの主人が「このスカタン!」と怒鳴りました。出遅れた詩織ちゃんが慌てて転んでしまい、スカタンおじさんに説教を受けています。私たちはそれを遠目に見つめながら、「やべえ」と口々に言いました。あのおじさんに捕まると何より恐ろしいし、しかも説教も長いのです。ミナミちゃんは責めるように私をにらんで「言ってなかったの?」と囁きました。

「もちろん言ったよ!」

 と応じる私に、ミナミちゃんは詰め寄ります。

「いつ言ったのよ」

「みんなとはじめて会った日!」

「ほんとうにバカねえ。それはサオリちゃんでしょ!」

 ああもう、私にはわけがわかりませんでした。
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