第13話

文字数 1,138文字

 ともかく詩織ちゃん(サオリちゃん?)を助けないといけない一心で、スカタンおじさんのほうへ駆け出していきます。しかし私が辿り着くよりまえに、詩織ちゃんは自分で逃げ出しました。学校のほうへ引き返して、向こうの角を折れて姿が見えなくなりました。スカタンおじさんが大きい体を揺らして、追いかけて行きます。中年男性が小学生を追いかける危険な光景にみんなが悲鳴をあげました。しかしおじさんが角を曲がるより前に、なんと詩織ちゃんが引き返してきたのです。ミナミちゃんが私の横に来て、囁きました。

「入れ替わったかもしれない」
「えっ」
「少し様子を見ましょう」

 すべてをすっかり理解しているらしいミナミちゃんの言葉に、私は足を止めました。五分ぐらいすると、詩織ちゃん(?)はすたすたとこっちに歩いてきて、

「終わったよ」

 とにっこり笑いました。スカタンおじさんは住みかの酒屋にのそのそと戻っていきます。スカタンおじさんにしては早く終わった説教にみんなは「良かったなぁ」と安心して歩き出しましたが、なんだか納得がいかないのは私です。「さっきのはどういうことなの?」と私が訊くと、ミナミちゃんは言いました。

「双子についてわかっていなくちゃあいけないことがひとつある」
「それは、なに……?」
「双子の片割れは、タダでは私たちに会わないということ。おそらく、初対面を嫌うのよ。最初に会った時、変に写真ばかり撮ってたから偵察みたいなもんでしょう」
「ええと、私がまず会ったのが詩織ちゃんだから、次の朝はサオリちゃんで……」
「バカねぇ」ミナミちゃんは肩をすくめました。「最初に現れたやつが詩織と名乗っているということは、それは嘘で、姿を隠しているほうがまさに詩織ちゃんなのよ」
「へぇ?」私は首をかしげます。難しい話です。
「あのスカタンのオッサンは、詩織ちゃんとは初対面だから、サオリちゃんと入れ替わったの。きっと後ろからついてきたのね」ミナミちゃんは名探偵みたいにあごに手を添えて、ぶつぶつと独り言を言いました。「いったい何が目的なのかな? 単なるドッキリという感じでもなさそう。人見知り、とか? ばかげてる。姉妹愛もここまでくると病気ね……」

 それから少し歩いたあと、目の前を歩くサオリちゃんが振り返って、みんなに向かって言いました。

「今日はありがとう。町のことがいろいろわかってきたよ。明日もお願いできるかな」

 私はぎょっとしました。その言葉の内容から、その声のトーンから、また、その笑顔からも、私にもはっきりとわかったのです。目の前にいるのはたしかに、ミナミちゃんが今日、男子とけんかをしているときに不安そうにしていたあの女の子とは違うのだと。

 ミナミちゃんは私の驚く表情を見て、「わかった?」と笑いました。
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