第21話
文字数 1,190文字
はじまりはちょっとしたいたずらごころ。
けれどそのために二人は、特に詩織ちゃんは、自分たちの違いをはっきりと知ることになったのでした。たとえばよく行く駄菓子屋さんの、いつも不愛想な息子さんがにこやかに接してきたとき、詩織ちゃんは強くショックを受けた様子だったと言います——この人は不愛想なんじゃない、私に対してだけ不愛想なんだ、私が嫌いなんだ。
「サオリは元気で人当たりがいいから、みんなに好かれる」
詩織ちゃんはだんだんと家にとじこもるようになったといいます。
「私は好かれるような人間じゃない」
詩織ちゃんは人と会うのを怖がりました。誰とも会いたくないといって泣きました。途方に暮れたのは、サオリちゃんです。サオリちゃんは妙な遊びを持ち掛けたことに責任を感じました。なんとかしなければいけないと思いました。それで、サオリちゃんは自分の存在を詩織ちゃんに渡すことにしたのです。
サオリちゃんは言いました。
「詩織は外に出るようになったけど、今度は私の内側に閉じこもるようになった。何度か無理に引きずり出そうとしたけど、結局は私への依存を強めるだけだったの。私が詩織の代理をすればうまくいってきた。だから、詩織はそれ以外にどうすればいいのか知らない。あの子は、本当はどうにかしたいと思ってるのに」
サオリちゃんの言葉には、詩織ちゃんへの想いがたしかにこもっていました。詩織ちゃんは憎まれてると心配していたけれど、その反対です。サオリちゃんもまた、この状態をどうにかしたいともがいているのでした。 私は言いました。
「ねえサオリちゃん。詩織ちゃん、心配してたよ。サオリちゃんから嫌われたんじゃないかって。みんなで一緒に話そうよ。解決できるよ」
「だめよ。私は詩織から離れなくちゃ。あの子は自分の力で誰かと関わりたいと思ってる。それなのに私がいたら、どうしても頼っちゃうでしょう」
サオリちゃんの声が震えます。私は胸が締め付けられるような気がしました。サオリちゃんも、本当は詩織ちゃんと話したいのです。
「私を頼れなかった詩織が、昨日どうなったか聞かなくってもわかるよ。わかっちゃうのよ。あの子、本当に初対面は駄目だから」
「いきなりは無理だよ。少しずつ前に進んでいかないと」
私は励ますつもりでしたが、サオリちゃんはぶるぶると首を横に振ります。
「もうすぐ新学期が始まる。そんな悠長なこと言ってられない」
少しの沈黙のあと、サオリちゃんは言いました。それは、ひとつの覚悟でした。
「私に考えがある。私が、詩織を治す。だからね佳奈ちゃん、明日また学校にみんなを集めて」
「それはもともと、そのつもりだけど……でも……」
「いい? いま話したことは詩織には秘密よ。佳奈ちゃんが隠しごとの苦手な子だってことはわかるけれど、こればかりは話しちゃだめ。詩織を助けたいと思うなら、絶対に黙っておいてね。約束よ……」
けれどそのために二人は、特に詩織ちゃんは、自分たちの違いをはっきりと知ることになったのでした。たとえばよく行く駄菓子屋さんの、いつも不愛想な息子さんがにこやかに接してきたとき、詩織ちゃんは強くショックを受けた様子だったと言います——この人は不愛想なんじゃない、私に対してだけ不愛想なんだ、私が嫌いなんだ。
「サオリは元気で人当たりがいいから、みんなに好かれる」
詩織ちゃんはだんだんと家にとじこもるようになったといいます。
「私は好かれるような人間じゃない」
詩織ちゃんは人と会うのを怖がりました。誰とも会いたくないといって泣きました。途方に暮れたのは、サオリちゃんです。サオリちゃんは妙な遊びを持ち掛けたことに責任を感じました。なんとかしなければいけないと思いました。それで、サオリちゃんは自分の存在を詩織ちゃんに渡すことにしたのです。
サオリちゃんは言いました。
「詩織は外に出るようになったけど、今度は私の内側に閉じこもるようになった。何度か無理に引きずり出そうとしたけど、結局は私への依存を強めるだけだったの。私が詩織の代理をすればうまくいってきた。だから、詩織はそれ以外にどうすればいいのか知らない。あの子は、本当はどうにかしたいと思ってるのに」
サオリちゃんの言葉には、詩織ちゃんへの想いがたしかにこもっていました。詩織ちゃんは憎まれてると心配していたけれど、その反対です。サオリちゃんもまた、この状態をどうにかしたいともがいているのでした。 私は言いました。
「ねえサオリちゃん。詩織ちゃん、心配してたよ。サオリちゃんから嫌われたんじゃないかって。みんなで一緒に話そうよ。解決できるよ」
「だめよ。私は詩織から離れなくちゃ。あの子は自分の力で誰かと関わりたいと思ってる。それなのに私がいたら、どうしても頼っちゃうでしょう」
サオリちゃんの声が震えます。私は胸が締め付けられるような気がしました。サオリちゃんも、本当は詩織ちゃんと話したいのです。
「私を頼れなかった詩織が、昨日どうなったか聞かなくってもわかるよ。わかっちゃうのよ。あの子、本当に初対面は駄目だから」
「いきなりは無理だよ。少しずつ前に進んでいかないと」
私は励ますつもりでしたが、サオリちゃんはぶるぶると首を横に振ります。
「もうすぐ新学期が始まる。そんな悠長なこと言ってられない」
少しの沈黙のあと、サオリちゃんは言いました。それは、ひとつの覚悟でした。
「私に考えがある。私が、詩織を治す。だからね佳奈ちゃん、明日また学校にみんなを集めて」
「それはもともと、そのつもりだけど……でも……」
「いい? いま話したことは詩織には秘密よ。佳奈ちゃんが隠しごとの苦手な子だってことはわかるけれど、こればかりは話しちゃだめ。詩織を助けたいと思うなら、絶対に黙っておいてね。約束よ……」