第6話
文字数 1,188文字
その晩のことです。
私の部屋は二階角にあり、眞見さんの家がすぐ横に見えます。お風呂から上がって部屋でくつろいでいた私は、その窓の一方が控えめにカツカツと鳴るのを聞きました。もちろん夜だからカーテンはとうに閉めています。最初は風かなにかだろうと思って大して気にも留めていなかったのですが、カツカツ、カツカツとともかくよく鳴るし、しかもその間隔もだんだんせわしくなるので、私はちょっと様子を見てみることにしました。ちらとカーテンをめくってみると、すぐ目の前に人の顔がすうっと現れました。無意識にぱっと口が開いて、
「ぎええ!」
と叫びます。するとそこにいた女の子が慌てた様子で首をぶるぶると横に振りました。人差し指を立てて「静かに」というジェスチャをします。
私は気を落ち着けるためにカーテンを一旦閉め、深呼吸をします。私の声に驚いて駆けつけてきたお母さんに無事を伝え、一人になってから、また改めて、カーテンを少しひらいてみます。窓のカギを開けると、女の子が口元をちょっと震わせながらぎこちなく微笑みます。
「こんばんは。あの、驚かせてごめんなさい」
「心臓が止まるかと思ったよ。幽霊ではないんだよね?」
「大丈夫生きてるよ。自己紹介したいから部屋に入ってもいい?」
私は特に警戒することもなく女の子を部屋に招き入れました。女の子は「ありがとう」と言います。とりあえずベッドに座ってもらって、私は学習机にひょいと腰を落ち着けました。「その、はじめまして」と女の子。「あ、どうも。はじめまして」と私。
少しの沈黙があって、
「私の名前は真実詩織っていいます。その、隣に引っ越してきた……わかるでしょう?」
私はようやく状況を呑み込みました。要するに屋根を伝ってここまでやってきたわけです。私もよく屋根に乗るので別に不審には思いませんでした。むしろなぜ常に玄関から出入りしないといけないのか疑問なのですが……まぁ、その話はいいでしょう。
「私、相田佳奈っていいます。朝はごめんね」
「よろしくね。あのさ、ちょっと頼みがあってきたの」
「どうしたの?」
「今日集まってたのってクラスの子でしょ。紹介してくれないかな、と思って。できれば一人ひとりに挨拶したいの」
「なぁんだそんなこと。全然だいじょうぶだよ。明日、みんなを学校に集めるからさ、ついでにこの町の案内もしてあげる。いろいろ楽しいとことか、まぁ、気をつけなきゃいけないとことかもあるからさ」
「ありがとう。ごめんね、突然押しかけて」
詩織ちゃんはそう言って、立ち上がりました。もう帰ってしまうようです。まだいてもらってもいいのですが、詩織ちゃんはどうしても帰りたいようでした。「また来てよ」と私はひらひら手を振って、お別れをしました。突然やってきたのには驚きましたが、どうせ明日の朝には隣の家へ突撃するつもりでいたので、手間がはぶけたともいえます。
私の部屋は二階角にあり、眞見さんの家がすぐ横に見えます。お風呂から上がって部屋でくつろいでいた私は、その窓の一方が控えめにカツカツと鳴るのを聞きました。もちろん夜だからカーテンはとうに閉めています。最初は風かなにかだろうと思って大して気にも留めていなかったのですが、カツカツ、カツカツとともかくよく鳴るし、しかもその間隔もだんだんせわしくなるので、私はちょっと様子を見てみることにしました。ちらとカーテンをめくってみると、すぐ目の前に人の顔がすうっと現れました。無意識にぱっと口が開いて、
「ぎええ!」
と叫びます。するとそこにいた女の子が慌てた様子で首をぶるぶると横に振りました。人差し指を立てて「静かに」というジェスチャをします。
私は気を落ち着けるためにカーテンを一旦閉め、深呼吸をします。私の声に驚いて駆けつけてきたお母さんに無事を伝え、一人になってから、また改めて、カーテンを少しひらいてみます。窓のカギを開けると、女の子が口元をちょっと震わせながらぎこちなく微笑みます。
「こんばんは。あの、驚かせてごめんなさい」
「心臓が止まるかと思ったよ。幽霊ではないんだよね?」
「大丈夫生きてるよ。自己紹介したいから部屋に入ってもいい?」
私は特に警戒することもなく女の子を部屋に招き入れました。女の子は「ありがとう」と言います。とりあえずベッドに座ってもらって、私は学習机にひょいと腰を落ち着けました。「その、はじめまして」と女の子。「あ、どうも。はじめまして」と私。
少しの沈黙があって、
「私の名前は真実詩織っていいます。その、隣に引っ越してきた……わかるでしょう?」
私はようやく状況を呑み込みました。要するに屋根を伝ってここまでやってきたわけです。私もよく屋根に乗るので別に不審には思いませんでした。むしろなぜ常に玄関から出入りしないといけないのか疑問なのですが……まぁ、その話はいいでしょう。
「私、相田佳奈っていいます。朝はごめんね」
「よろしくね。あのさ、ちょっと頼みがあってきたの」
「どうしたの?」
「今日集まってたのってクラスの子でしょ。紹介してくれないかな、と思って。できれば一人ひとりに挨拶したいの」
「なぁんだそんなこと。全然だいじょうぶだよ。明日、みんなを学校に集めるからさ、ついでにこの町の案内もしてあげる。いろいろ楽しいとことか、まぁ、気をつけなきゃいけないとことかもあるからさ」
「ありがとう。ごめんね、突然押しかけて」
詩織ちゃんはそう言って、立ち上がりました。もう帰ってしまうようです。まだいてもらってもいいのですが、詩織ちゃんはどうしても帰りたいようでした。「また来てよ」と私はひらひら手を振って、お別れをしました。突然やってきたのには驚きましたが、どうせ明日の朝には隣の家へ突撃するつもりでいたので、手間がはぶけたともいえます。