第10話

文字数 1,289文字

 詩織ちゃんは、「新しい人」と会いたくありません。
 
 しかし私たちはひとつのところでずっと同じことをして遊んでいられるほど、我慢強くはないのです。とうとう男子の一人が「商店街でも行こうぜ」と言い始めました。詩織ちゃんは戸惑いを隠せていません。ミナミちゃんはにやにやしながらそんな詩織ちゃんを観察しています。私はわたわたと慌てながら、なんとかしなければともごもご何か言いましたが、みんなはもうぞろぞろと校門のほうへ歩き出していました。

 そのときです。「今日はやめておかない? 商店街だなんて、通行の邪魔でしょ」とミナミちゃんが言いました。それで、みんながぴたりと足を止めました。たしかになあという声も聞こえます。けれどおさまりがつかないのは、最初に商店街へ行こうと提案した男子でした(小田原健クンといいます。昔っからの付き合い。だからクンづけなんて、ホントはきもちわるいんですけどね)。この人はまぁとにかく気性の荒いひとで、しかもプライドが高いので、自分の計画を邪魔されて不愉快そうにミナミちゃんをにらみました。

「別にいいだろ。ちょっとぐらい」と男子。
「ちょっとぐらいが一番迷惑なんだっての」とミナミちゃんも負けません。

 状況は一気に悪化します。男子と女子の言い争いという形に発展し、そうして遂には罵り合いの大げんかになりました。冷静であってほしいミナミちゃんでさえも完全に頭に血がのぼってしまっています。

 実里ちゃんが不安そうにスススと私の隣に来ます。そして詩織ちゃんもスススと私の隣に来ました。それから二人一緒になって「どうしよう」と私を見るのです。もちろん、どうしていいかなど私にはわかりません。

「邪魔だっていうんなら、何人か選抜して行こうぜ。それならいいだろ。眞見も含めて、数人だけで。なぁ?」男子はみんなに理解を求めます。
「はん」ミナミちゃんはその提案を鼻で笑いました。「どうもこうも、あんたは結局自分の意見だけが大事なのよ。よくそんな人を切り捨てるような真似ができるわねえ!」

 もはや男子の頭には血がのぼりきって、いつ手を出すともしれない空気です。私はいつでも止められるようにぐっと身構えていました。

「ちょ、ちょっとトイレ……」

 詩織ちゃんはわたわたと走っていきます。口喧嘩はどんどん過激さを増しました。ミナミちゃんはめちゃくちゃ口が悪いので、どこで練習してきたのかと思うぐらい、滝のように、マシンガンみたいに、男子を責め立てます。男子のほうはもはや話についていけず、バカバカと言うばかりです。

 そんな嫌な雰囲気を見て、徐々にですが、人が減っていきました。みんな別の場所で遊んだり、帰ってしまったのです。男子はこれ幸いに「これで問題ないな」とにやぁっと勝ち誇ったので、ミナミちゃんはかんかんになって怒りました。ミナミちゃんが大爆発しそうになったところで、

「私はいいよ! 行こう!」

 と声がしました。詩織ちゃんが戻ってきて、そう言ったのです!
 ミナミちゃんはじっと詩織ちゃんをにらんで、「ふん」とそっぽを向きました。男子はガッツポーズで、仲のいい友達と大喜びしています。
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