第16話

文字数 1,185文字

「へえ、これが眞見さんか。元気そうな子だね」

 翌日、私は学校に先回りして、例の動画をみんなに紹介しました。今日は新しい人がたくさんいますから、詩織ちゃんは少し遅れてくるという段取りです。むしろ間を置いたほうが緊張すると思うのですが、他ならぬ詩織ちゃんが言うのですからそうするしかありません。私は自分の役目を果たし終えてホッとしていましたが、それもつかの間、だれかがこんなことを言いました。

「でも眞実ってさぁ、元気なときと元気じゃないときで、かなり落差があるんだよな」

 ドキッとしました。まるで私がいたずらを咎められたような気分です。

 ああ、もう、すべてを白状してしまいたい!

 私は隠し事をしていると心臓がばくばくしてきて、舌もうまく回らなくなってしまいます。それでいつもお母さんには悪事がばれてしまうので、大人らしくポーカーフェイスを身につけたいのですが、ふつうの顔をしようとすると、だんだん歪んでくるのです。それで歪みをなんとかしようとするほうに意識を向けると、今度は体がおかしくなってきます。不安定な台のうえでぐらぐらとずっと揺れているみたいに、いつも不安な気持ちになってしまうのです。

「佳奈ちゃん、どうかしたの? 大丈夫?」

 そんな私に、実里ちゃんがやさしく声をかけてくれます。ああ、打ち明けたい。ぜんぶ言ってしまったほうが楽に決まっているのです。でも詩織ちゃんの必死な表情を思うと、それもできないのです。

 私はみんなを連れて、すぐ近くの公園へ行きました。「ちょっとトイレ」と伝えて、私はひとり、女子トイレに入っていきます。中には詩織ちゃんが待っていました。詩織ちゃんはぱちぱちと自分の顔を叩いて気合を入れます。鏡の前でにこーっと笑ってみたり、発声練習をしたり、まるでこれから舞台に立つかのようです。「やれそう?」と私は訊きました。

「もちろん。きっとやってみせるんだから」詩織ちゃんはふんと息を吐きます。

 それを聞いて安心した私は、詩織ちゃんと一緒にトイレを出て、みんなのところに戻ります。

「みんな、詩織ちゃんが来たよ」

 と声を掛けました。その場にいた全員が、じっと詩織ちゃんのほうに視線を向けます。

 挨拶をしようと右手を上げかけていた詩織ちゃんは、そのまま動きを止めていました。何も言わないまま口だけがあわあわと動いています。詩織ちゃんの首がギギギと音を立てそうなぐらいぎこちなく動いて、まっすぐに私の目を見てきました。受け取ったメッセージはこうです――ヤバイ、助けて。

「し、詩織ちゃんのおでましだーぞぉ!!」と私。声がひっくり返っています。
「二人ともどっかおかしいんじゃないのか」

 あまりの不審さに、みんなどよめいています。詩織ちゃんはかちかちに固まっているし、私は頭がパニックだし、口を開くと思わず「入れ替わってましたー!」と全部ぶちまけてしまいそうでした。
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