第26話

文字数 986文字

 歓迎会が終わった帰り道のことです。

 沙織ちゃんは「寄りたいところがある」といって通学路を逸れました。驚いたことに、そこはスカタンおじさんのいる、駐車場だったのです。自分のほうから酒屋に出向いていきます。私はひやひやしながらそれを見ていましたが、出てきたおじさんはいつもとは違い、随分態度が柔らかいのです。

 やがて沙織ちゃんが戻ってきました。身を寄せ合う私たちを見て沙織ちゃんは「何やってんの?」と首を傾げます。スカタンおじさんと語らうとは並みの度胸ではありません。すなおにすごいと伝えると、沙織ちゃんは苦笑いしました。

「佳奈ちゃんたちさぁ、昔なにか悪さでもしたんでしょ。ちゃんと話せばわかってくれるいいおじさんじゃないの」

 私の記憶にある限り、スカタンおじさんをいいおじさんと言ったのは沙織ちゃんだけです。ミナミちゃんが「あの人と何かあったの」と訊くと、沙織ちゃんは言いました。

「あの人、私と詩織のことを初対面で区別してたから」
「えっ、マジ?」とミナミちゃんが驚きます。
「マジマジ。そんときにね、こう言われたの。お前ら、ずーっとそうやってきたのか、って。最初は何言われてるかわかんなかったけど、はっきり言われちゃった。いつまでもはやっていられないぞって」
「じゃあ、あのおじさんがきっかけで、入れ替わんのやめようって思ったんだ」

 ミナミちゃんは納得したように、そう言います。

 しかし沙織ちゃんはすぐにはウンと言いませんでした。「んー」としばらく考えるように唸ってから、ようやく「ウン」が来ます。ミナミちゃんは「なんなのこの異様な間は」と笑いました。

「実はね」沙織ちゃんは声を小さくしました。きっと詩織ちゃんには聞かれたくなかったのだと思います。「もうやめようと思ったのは、引っ越してきた日なんだよね。ずっともやもやしてて、それをおじさんがはっきりさせてくれたっていう感じかな」

「やっぱり、入れ替わりなんていつまでも続けられないから?」
「それもあるよ。前にいたところは、ド田舎だからね。湖中町はなんだかんだ都会だし……でも私はそれでもがんばろうって思ってたんだ。私がなんとかしてあげなくちゃって、思ってたからね。でもそれじゃだめだって、気づいたの——佳奈ちゃん、あなたのおかげだよ。佳奈ちゃんがいたから、私は入れ替わりなんてやめるべきなんじゃないかって、本当に考え始めたの」
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