第1話<4日-1>

文字数 1,296文字


コツ、コツ、コツッ-----
いつもなら人通りがある通路なのに、今日は何故か人がいない。
毎日通い慣れた道だが、ヒールの音がやたら大きく聞こえる。
スタ、スタ、スタ------
ヒールの音に合わせて、後ろから足音がしているような気がして後ろを振り返る。
誰もいない・・・
ほっと胸をなで下ろして、また歩き始める。
スタスタスタ-----
やはり足音が聞こえる。後ろには誰もいなかったはずなのに・・・
急に心細くなり、足を速める。後ろの足音はやはり早くなる。
もう少し、もう少しで大通りに出られる。
そう思うと自然に足が速くなり、最終的には小走りでその通路を抜けた。
大通りまで出ると、車も人も一気に増えた。そこでもう一度、通路へ目を向けた。
やはり、誰もいない・・・・
疑心暗鬼にかかっているのだろうか。
最近、いつも見られているような視線を感じたり、人につけられているような気がして、不安になっていた。
それだけではない。1週間位前から、私のSNSに不審なコメントが届くようになっていた。
コメントと言っても、言葉ではなく絵画の写真。西洋画の綺麗な女性の絵。でも少し怖いと感じた。
何故こんな物が貼り付けられているのかは分からないが、きっと悪戯か間違いだろうと、そこまで気にしていなかった。しかし、次の日には4枚、次の日には6枚とコメントに貼り付けられており、さすがに怖くなって、相手をブロックしたが、また違うハンドルネームで貼り付けられ、とうとう私の方が退会した。
それでもその絵が気になって、ネットで調べてみたら「オフィーリア」というミレーの作品で、その絵のテーマに余計に怖くなった。
そんなことがあったからなのか、最近はやたらと神経質になっている。
大通りを歩き始め、多くの人とすれ違いながら職場へと急いだ。
私が務めているのは、大きくはないが支店を何店舗か持つ雑貨店で、「ノワール」という店名にふさわしく、黒やグレーの色を主体とした雑貨を輸入販売している会社だ。最寄り駅からは歩いて5分の場所だが、固定客も多く、そこそこ業績も良い店舗だ。
大学を卒業と同時に働き始め、もうすぐ1年半が来る。店舗での接客が主な仕事だが、最近やっと小物の発注を任されるようになった。
「黒瀬さん、これ包装お願い。」
「あっはい!」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって。なにかあった?」
「いえ、大丈夫です。」
そう答えながら商品を預かり、奥で包装をしてからお客様に手渡す。
・・・・・・・・
その時、不意にあの視線のような物を感じる気がして、頭を下げながら入り口のガラスから通りを見る。
別に気になるような人影はない。
「ありがとうございます。」
お客様にお礼を言い、再度頭を上げたとき、視界の隅に黒っぽい何かが見えた気がした。
その方向へ顔を向けると、一人の男性が立っている。帽子を目深にかぶっているせいで顔ははっきり見えないが、雰囲気からして、私と同じくらいか、少し歳上に見えるその男性は、私と目があった様に見えたものの、何事もなかったかのように、スマホで話し始めた。
気の・・・・せい?
お客様を送り出した後、不審に思いながらも、もう一度外を見たが、もう誰もいなかった。
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