第10話 11月の花束② ストックとスイートピー
文字数 1,247文字
「なんですか」
「あ、あの、友達に、友達になるのも無理かな」
「無理ですよ……」
「そうだよね」
「もうほっといて」
「ごめん。花は受け取って欲しい、お詫びの気持ちだから」
「気持ちはわかりましたから、お花はこれで最後にしてください」
「うん、最後にする」
村瀬さんと服部は、今までで一番長く会話していた。11月下旬、風の強い日だった。
これで最後にするとの服部の言葉に油断したのか、村瀬さんは服部から直接手渡しで花束を受け取ったのだ! すごい進歩。
服部は頭を下げると、何度か振り返り去って行った。いつも思うけど私とは反対で、服部は内股だな。
村瀬さんが花束を見てぼんやりしている隙に、食堂に戻る。
「あら可愛い、ピンクと白のストックとスイートピー。いい香りだわ、冬来たりなば春遠からじ」
大家さんの側で、葉月ちゃんが目をまん丸くして言った。
「あ! ピンクのスイートピーはね、リラックスできるんだよ。高山さんが言っていたんだ。村瀬さん、お部屋に飾った方がいいよ。ぐっすり眠れるから」
「そうなの? まあ、お花に罪はないしね」
そう言って村瀬さんは花束を、自分の部屋に持って帰ったのだ。
あんなに服部を毛嫌いしていたのに、ほんの少し結界 が緩 んできたぞ。
12月に入った最初の土曜日の昼下がり、たんぽぽ食堂の前に服部が立っていた!
手には小さな紙の手提げ袋を持って、ポスターを見ている。
『たんぽぽ子ども食堂クリスマス・チャリティーディナー』
今回4回目。クリスマス近くの土曜日に、クリスマスっぽいタダ飯を食うのだ。
ポスター製作をしていた村瀬さんの友達が忙しくなったため、今年のポスターは文字だけ、超あっさり。
1秒で内容がわかるポスターを、服部はじっくり見ている。そんなジッと見つめても、行間に文字は浮かばないし暗号は隠されていないぜ。
私は服部を横目でチェックしながら、食堂に入った。
今日の服部は、白シャツにブルーグレイのカーディガン、黒のスキニー、濃いグレイの細身のコート。首元に光沢のいい杢グレイのマフラー。
多分、ショーウインドウのマネキンが着ている服をそのままそっくり買ったんじゃないだろうか。いいとこのボンボンらしいから。
きっとマネキンの着こなしを真似て、寒いのにボタンを留めないで、前を少し開けているんだ。
「服部の顔はカサカサ、粉を吹いている」と村瀬さんが前に言っていたけど、そんなことはない。普通だ。あっさりした顔。奥二重の目、薄い唇、これといった特徴が無く、極めて普通としか言いようがない。
私は食堂に入ると、速攻、大家さんに耳打ちした。「前に服部が立っている」
「えっ! 村瀬さんを待ち伏せしているのかしら」
「なんか、クリスマスのポスター見ている」
「あらヤダ、物騒だわ。犯罪でも起こされたらたまんない。ちょっと声かけてみる」
さすがは大家さんだ。怒りながら外に出て行った。入口で耳を澄ますが、服部の声は小さくて聞こえない。
急にガラッと引き戸が開いた。
大家さんがニコニコしながら、服部を食堂に連れて来た!
「あ、あの、友達に、友達になるのも無理かな」
「無理ですよ……」
「そうだよね」
「もうほっといて」
「ごめん。花は受け取って欲しい、お詫びの気持ちだから」
「気持ちはわかりましたから、お花はこれで最後にしてください」
「うん、最後にする」
村瀬さんと服部は、今までで一番長く会話していた。11月下旬、風の強い日だった。
これで最後にするとの服部の言葉に油断したのか、村瀬さんは服部から直接手渡しで花束を受け取ったのだ! すごい進歩。
服部は頭を下げると、何度か振り返り去って行った。いつも思うけど私とは反対で、服部は内股だな。
村瀬さんが花束を見てぼんやりしている隙に、食堂に戻る。
「あら可愛い、ピンクと白のストックとスイートピー。いい香りだわ、冬来たりなば春遠からじ」
大家さんの側で、葉月ちゃんが目をまん丸くして言った。
「あ! ピンクのスイートピーはね、リラックスできるんだよ。高山さんが言っていたんだ。村瀬さん、お部屋に飾った方がいいよ。ぐっすり眠れるから」
「そうなの? まあ、お花に罪はないしね」
そう言って村瀬さんは花束を、自分の部屋に持って帰ったのだ。
あんなに服部を毛嫌いしていたのに、ほんの少し
12月に入った最初の土曜日の昼下がり、たんぽぽ食堂の前に服部が立っていた!
手には小さな紙の手提げ袋を持って、ポスターを見ている。
『たんぽぽ子ども食堂クリスマス・チャリティーディナー』
今回4回目。クリスマス近くの土曜日に、クリスマスっぽいタダ飯を食うのだ。
ポスター製作をしていた村瀬さんの友達が忙しくなったため、今年のポスターは文字だけ、超あっさり。
1秒で内容がわかるポスターを、服部はじっくり見ている。そんなジッと見つめても、行間に文字は浮かばないし暗号は隠されていないぜ。
私は服部を横目でチェックしながら、食堂に入った。
今日の服部は、白シャツにブルーグレイのカーディガン、黒のスキニー、濃いグレイの細身のコート。首元に光沢のいい杢グレイのマフラー。
多分、ショーウインドウのマネキンが着ている服をそのままそっくり買ったんじゃないだろうか。いいとこのボンボンらしいから。
きっとマネキンの着こなしを真似て、寒いのにボタンを留めないで、前を少し開けているんだ。
「服部の顔はカサカサ、粉を吹いている」と村瀬さんが前に言っていたけど、そんなことはない。普通だ。あっさりした顔。奥二重の目、薄い唇、これといった特徴が無く、極めて普通としか言いようがない。
私は食堂に入ると、速攻、大家さんに耳打ちした。「前に服部が立っている」
「えっ! 村瀬さんを待ち伏せしているのかしら」
「なんか、クリスマスのポスター見ている」
「あらヤダ、物騒だわ。犯罪でも起こされたらたまんない。ちょっと声かけてみる」
さすがは大家さんだ。怒りながら外に出て行った。入口で耳を澄ますが、服部の声は小さくて聞こえない。
急にガラッと引き戸が開いた。
大家さんがニコニコしながら、服部を食堂に連れて来た!