第1話 タダ飯食って3年目!
文字数 1,413文字
私、天宮開 は小6の頃から、たんぽぽ食堂っていう子ども食堂でタダ飯を食っている。いつも出来たての美味い飯だ。
今日のメインは『ぶり大根』というものだった。
「今日はちょっとハズレか?」って思ったけど、見かけより美味い魚だった。大根も。大根の差し入れをした農家の安納 さん、とても喜んでいた。
食堂の大家さんが、足を閉じて座れとか、言葉遣いを丁寧にしろとか、もう少し字をきれいに書けとか、家の手伝いはしているのかとか口うるさいが、それはまあ聞き流せばいい。
調理師の畑中さんは一度だけ、インフルエンザで1週間お店を休んだことがあった。そのときはけっこう困った。常連のおじさん達も困っていた。畑中さんの影響力は大きい。
たんぽぽ食堂に入り浸ってもう3年経つので、今さらちょっとやそっとのことじゃ驚かない。種原山周辺はいつでも逢魔が時。心霊現象、怪奇現象が日常茶飯事だ。もう慣れたし、そんなことはどうでもいい。
食堂の隅に赤い着物の小さい女の子や、モンペを履いた二足歩行のタヌキ、泥だらけの蓑をかぶった猟師、羽の生えたサラリーマンが座っているのはいつものこと。
定期的に種原病院の駐車場に、昔ながらの霊柩車が何台もグチャグチャに停まっていたり。車は黒かったり赤かったり白かったり。
種原山上空周辺では、百鬼夜行的な何者かが列を作っていたり。威風堂々とではない、細々と遠慮がちに「ちょっと通りますよ」って感じ。
種原山では子ども達が遊んでいる。昨日は木製のコマとベイブレードでいい勝負をしていたので、……あっそうかアチラ側の子ども達か……と思った。
一番気色悪かったのは、壊れた案山子の人形が食堂の窓を覗いていたときかな。
ぐるぐる回ってウザかったので石を投げつけてやった。
田中宮司が言うには、「種原山の磁場効果じゃなーい?」だって。
食堂のみんなで見えるモノの姿形を照合してみると、微妙に違っていたので面白かった。
麦倉さんは、
「ホントやめて! そういう土着的な心霊現象っ」
とか言ってキレ出すので面倒くさい。
それ以上に耳を塞いで大騒ぎするのは高山さんの彼氏、小関さん。面白いからわざと聞かせるけど。
心霊現象と隣り合わせなのに、私同様、ここの住民達はそんなのどうでもいいみたいだ。
そんなことよりも自分の恋愛や家賃収入、窮地の児童救出にかかりきり。
村瀬さんなんて「モノノケ? アレって、私の中でホームレスと同じ位置づけかな」
だってさ。一理ある。
ところで、八島さんは地元の自称大手企業に就職が決まって3月に引っ越していったのだが、最後まで何も見えなかったと言っていた。それはそれで鈍感、頭が固すぎ。
だから近藤さんに話しかけられたときも、別に驚かなかった。
「やっと波長が合ったわ! 天宮開ちゃん、こんにちは。近藤優名 と言います。ずっとお話ししたかったんだ」
近藤優名という名は知っている。
確かもう3年以上前に亡くなっている人だ。
村瀬さんと大家さんと畑中さんのおしゃべりを聞いたことがある。
泉工医大に進学が決まって、コーポ種原に引っ越しの最中に交通事故で亡くなったらしい。
食堂の近く、川添いのベンチに白黒猫と座っていた。おでこ全開で髪を紺色のシュシュで結び、この辺りでは見たことの無い制服を着ていた。
「ね、ね、開ちゃん、隣座って」
「……うん」
生きている村瀬さんよりよっぽどハキハキしている。
いったい何の話をするつもりなんだ、この幽霊は。
今日のメインは『ぶり大根』というものだった。
「今日はちょっとハズレか?」って思ったけど、見かけより美味い魚だった。大根も。大根の差し入れをした農家の
食堂の大家さんが、足を閉じて座れとか、言葉遣いを丁寧にしろとか、もう少し字をきれいに書けとか、家の手伝いはしているのかとか口うるさいが、それはまあ聞き流せばいい。
調理師の畑中さんは一度だけ、インフルエンザで1週間お店を休んだことがあった。そのときはけっこう困った。常連のおじさん達も困っていた。畑中さんの影響力は大きい。
たんぽぽ食堂に入り浸ってもう3年経つので、今さらちょっとやそっとのことじゃ驚かない。種原山周辺はいつでも逢魔が時。心霊現象、怪奇現象が日常茶飯事だ。もう慣れたし、そんなことはどうでもいい。
食堂の隅に赤い着物の小さい女の子や、モンペを履いた二足歩行のタヌキ、泥だらけの蓑をかぶった猟師、羽の生えたサラリーマンが座っているのはいつものこと。
定期的に種原病院の駐車場に、昔ながらの霊柩車が何台もグチャグチャに停まっていたり。車は黒かったり赤かったり白かったり。
種原山上空周辺では、百鬼夜行的な何者かが列を作っていたり。威風堂々とではない、細々と遠慮がちに「ちょっと通りますよ」って感じ。
種原山では子ども達が遊んでいる。昨日は木製のコマとベイブレードでいい勝負をしていたので、……あっそうかアチラ側の子ども達か……と思った。
一番気色悪かったのは、壊れた案山子の人形が食堂の窓を覗いていたときかな。
ぐるぐる回ってウザかったので石を投げつけてやった。
田中宮司が言うには、「種原山の磁場効果じゃなーい?」だって。
食堂のみんなで見えるモノの姿形を照合してみると、微妙に違っていたので面白かった。
麦倉さんは、
「ホントやめて! そういう土着的な心霊現象っ」
とか言ってキレ出すので面倒くさい。
それ以上に耳を塞いで大騒ぎするのは高山さんの彼氏、小関さん。面白いからわざと聞かせるけど。
心霊現象と隣り合わせなのに、私同様、ここの住民達はそんなのどうでもいいみたいだ。
そんなことよりも自分の恋愛や家賃収入、窮地の児童救出にかかりきり。
村瀬さんなんて「モノノケ? アレって、私の中でホームレスと同じ位置づけかな」
だってさ。一理ある。
ところで、八島さんは地元の自称大手企業に就職が決まって3月に引っ越していったのだが、最後まで何も見えなかったと言っていた。それはそれで鈍感、頭が固すぎ。
だから近藤さんに話しかけられたときも、別に驚かなかった。
「やっと波長が合ったわ! 天宮開ちゃん、こんにちは。
近藤優名という名は知っている。
確かもう3年以上前に亡くなっている人だ。
村瀬さんと大家さんと畑中さんのおしゃべりを聞いたことがある。
泉工医大に進学が決まって、コーポ種原に引っ越しの最中に交通事故で亡くなったらしい。
食堂の近く、川添いのベンチに白黒猫と座っていた。おでこ全開で髪を紺色のシュシュで結び、この辺りでは見たことの無い制服を着ていた。
「ね、ね、開ちゃん、隣座って」
「……うん」
生きている村瀬さんよりよっぽどハキハキしている。
いったい何の話をするつもりなんだ、この幽霊は。