第13話 服部からの支援物資
文字数 1,435文字
服部は翌週の水曜日の夕方、約束の物を届けてくれた。
服部が運んだのではない。クリーム色の作業着の若い従業員2名が、ハットリ製菓のワゴン車でキビキビ運んでくれた。大きな段ボール3箱。
帰ったあと中身を見ると、新品同様の参考書と問題集、基礎からムズいのまで! 5教科全部完璧に揃っていた。
今日から頭に詰め込むぞ! 詰め込み教育ができるのは金持ちの特権だ、貧乏人はゆとり教育に流れがちなんだ。
私が大量の戦利品を両脇に抱えると、大家さんから一言。
「開ちゃん、それはみんなの問題集だからね、直接書き込みは禁止よ。きれいに扱うこと、わかった?」
「わかっていますって」
高山さんもメラメラ闘志を燃やしていた。
「これでマっちゃんに差をつけてやる。期末は負けたけど、次は絶対に負けない」
土曜日、服部が来ないかなと、私と高山さんは待ちわびた。感謝の気持ちを直接伝えないと気が済まないからだ。
服部の両親は教育熱心だと思う。基礎の問題集はすぐに終わるような薄さで達成感があり、難度の高い問題集は解説がわかりやすく丁寧だ。
基礎の問題集は岬が使っている。岬はあのラップバトルのあと、食堂に来て少し勉強するようになった。
実はバトル終了後、対戦相手だったMCぎんなん君とネクスト製紙工場の仲間達が、岬の商品券を現金で買ってあげたのだ。そのときMCぎんなん君が、
「俺も昔は貧乏でバカだったけど、今、就職して地に足がついている。おまえも、高校はちゃんと出てうちの会社に来いよ」
と誘っていた。社長でもないのに。
岬は声をかけてもらったのが嬉しくて、MCぎんなん君に次のバトルで会うときには、ちゃんとした自分を見せたいと思ったらしい。おまえら、少年マンガか。
3時頃、恐る恐る食堂の引き戸が開き、戸の隙間に服部が見えた!
私はダッシュして、たじろぐ服部を捕獲、食堂に引きずり込んだ。今日はラフなダウンジャケットだ。
「すっごく役に立っています問題集、ありがとう服部!」「さん」
いつもの心の中の癖で呼び捨てにしてしまい、慌てて「さん」を付けた。高山さんも、
「服部さん、これで絶対、ライバルに差をつけてみせます」
握りこぶしで決意表明をしていた。
「き、君たちってすごいよね、熱血だよね。これ、よかったら使ってください」
そう言うと服部は、紙袋から新品のノートを取り出して私達に配ってくれたのだ! なんて気の利く男なんだ。
今日は村瀬さんはバイトで不在、代わりに椎貝さんがいた。椎貝さんは立ち上がって馬鹿丁寧なお辞儀をした。
「初めまして、椎貝と申します。環境工学システム1年です」
「あっ、服部です。バイオの2年です」
「ご支援ありがとうございます、今後ともよろしくお願いします」
固い、固いな、椎貝さん。取引先かよ。
服部は、「また来週クリスマス用のお菓子を持ってきます。それじゃ」
そして小さい声で「すみません、これを村瀬さんに渡してください」と、いつもの小洒落た茶色の紙袋を大家さんに渡してササッと帰ろうとした。
私と高山さんと葉月ちゃんは歩道まで服部について行き、恐縮しまくる服部に対し、盛大にお見送りをした。
食堂に戻ってから、みんなで紙袋の中身を覗き込み、息を呑んだ。
パープルのグラデーションのスイートピーに、オレンジのチューリップとカーネーション。
いつもセンスいいな、服部。こんな組み合わせの色使い、素人には思いつかないぜ。段々思い切りよく派手になってきたな。
いいぞ、その調子だ、もっとやれ、服部。
服部が運んだのではない。クリーム色の作業着の若い従業員2名が、ハットリ製菓のワゴン車でキビキビ運んでくれた。大きな段ボール3箱。
帰ったあと中身を見ると、新品同様の参考書と問題集、基礎からムズいのまで! 5教科全部完璧に揃っていた。
今日から頭に詰め込むぞ! 詰め込み教育ができるのは金持ちの特権だ、貧乏人はゆとり教育に流れがちなんだ。
私が大量の戦利品を両脇に抱えると、大家さんから一言。
「開ちゃん、それはみんなの問題集だからね、直接書き込みは禁止よ。きれいに扱うこと、わかった?」
「わかっていますって」
高山さんもメラメラ闘志を燃やしていた。
「これでマっちゃんに差をつけてやる。期末は負けたけど、次は絶対に負けない」
土曜日、服部が来ないかなと、私と高山さんは待ちわびた。感謝の気持ちを直接伝えないと気が済まないからだ。
服部の両親は教育熱心だと思う。基礎の問題集はすぐに終わるような薄さで達成感があり、難度の高い問題集は解説がわかりやすく丁寧だ。
基礎の問題集は岬が使っている。岬はあのラップバトルのあと、食堂に来て少し勉強するようになった。
実はバトル終了後、対戦相手だったMCぎんなん君とネクスト製紙工場の仲間達が、岬の商品券を現金で買ってあげたのだ。そのときMCぎんなん君が、
「俺も昔は貧乏でバカだったけど、今、就職して地に足がついている。おまえも、高校はちゃんと出てうちの会社に来いよ」
と誘っていた。社長でもないのに。
岬は声をかけてもらったのが嬉しくて、MCぎんなん君に次のバトルで会うときには、ちゃんとした自分を見せたいと思ったらしい。おまえら、少年マンガか。
3時頃、恐る恐る食堂の引き戸が開き、戸の隙間に服部が見えた!
私はダッシュして、たじろぐ服部を捕獲、食堂に引きずり込んだ。今日はラフなダウンジャケットだ。
「すっごく役に立っています問題集、ありがとう服部!」「さん」
いつもの心の中の癖で呼び捨てにしてしまい、慌てて「さん」を付けた。高山さんも、
「服部さん、これで絶対、ライバルに差をつけてみせます」
握りこぶしで決意表明をしていた。
「き、君たちってすごいよね、熱血だよね。これ、よかったら使ってください」
そう言うと服部は、紙袋から新品のノートを取り出して私達に配ってくれたのだ! なんて気の利く男なんだ。
今日は村瀬さんはバイトで不在、代わりに椎貝さんがいた。椎貝さんは立ち上がって馬鹿丁寧なお辞儀をした。
「初めまして、椎貝と申します。環境工学システム1年です」
「あっ、服部です。バイオの2年です」
「ご支援ありがとうございます、今後ともよろしくお願いします」
固い、固いな、椎貝さん。取引先かよ。
服部は、「また来週クリスマス用のお菓子を持ってきます。それじゃ」
そして小さい声で「すみません、これを村瀬さんに渡してください」と、いつもの小洒落た茶色の紙袋を大家さんに渡してササッと帰ろうとした。
私と高山さんと葉月ちゃんは歩道まで服部について行き、恐縮しまくる服部に対し、盛大にお見送りをした。
食堂に戻ってから、みんなで紙袋の中身を覗き込み、息を呑んだ。
パープルのグラデーションのスイートピーに、オレンジのチューリップとカーネーション。
いつもセンスいいな、服部。こんな組み合わせの色使い、素人には思いつかないぜ。段々思い切りよく派手になってきたな。
いいぞ、その調子だ、もっとやれ、服部。