第9話 11月の花束① 白と緑のポットマム

文字数 829文字

 2週間後、服部はまたやって来た。
私は服部と村瀬さんのスリリングなやり取りが、今一番気になるコンテンツだ。勉強の息抜きに丁度いい。

 実は私だけじゃなく、赤い着物女子とタヌキの子も気になるみたいだ。
不意に2人が同時に立ち上がり、スイーっと食堂を出て行ったので私もピンときて後をつけると、ビンゴ! 服部が立っていた。
どうも村瀬さんが帰ってくるのを、種原山自然公園入口で待ち伏せしているみたいだ。ストーカー行為は得意らしいからな。まあ、村瀬さんの生活パターンは単調だから把握はしやすいか。

 また小さな花束を持っていた。なんか白と黄緑の小さくて丸っこい花束。

「あの、なにか用ですか?」

「あ、ごめん。花をプレゼントしたかっただけで」

「いりません」

「しつこくてごめん」

 村瀬さんは服部に対しては、別人のように強気だ。はっきりしていて、NOと言える強い村瀬さんだ。

 服部はまた花を木の根元に置くと、早足に去って行った。細身の濃いグレイのコート羽織って、今日もオシャレな服装。

 あんなに嫌われているのに絡んできて、涙ぐんで帰って行く。繊細なのか図太いのかよくわからん男だな。赤い着物女子とタヌキの子が、木の陰でヒソヒソ話をしている。
村瀬さんは少しぼんやり花を見て、辺りを見回すと、また仕方なさそうに花束を拾い上げた。

「あら、またお花貰ったの? ポットマムじゃない。清楚でいい香り。白と緑のブーケも素敵ね」
「大家さん、あんまり服部の花を褒めないでください」
 それを聞いた田所さんが目を丸くして言った。

「その花、カラス男から貰ったのかい。特段、変な気は感じない、術はかかってはいないよ。派手派手しくなくて、なかなかセンスのいい花束じゃないか」

 村瀬さんはムスッとしていた。
ただでさえ、百川さんと自然消滅しつつある村瀬さんのテンションは低い。

「面倒くさい女にならないよう、奥歯を噛みしめ自分をセーブしていて機嫌が悪い」と常連のおじさん達が分析していた。
 あんたら芸能レポーターか。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天宮 開(あまみや かい)


女子中学生 物腰が男っぽく、毅然としていてマイペース。バイセクシャル。

会社経営に失敗して父親は破産。貧困となったが、優秀な両親を尊敬している。

村瀬 芽依(むらせ めい)


泉工医大生 たんぽぽ食堂で学習支援をしている

服部 司(はっとり つかさ)


泉工医大生 村瀬芽依マニア サフランガチオタ 

近藤 優名(こんどう ゆうな)


第1部 第1章参照

高山 真奈(たかやま まな)


たんぽぽ食堂の常連 高校生

成田 宗也(なりた そうや)


たんぽぽ食堂の常連 高専生

須川 葉月(すがわ はづき)


たんぽぽ食堂の常連 小学生

岬 悠生(みさき ゆうせい)


たんぽぽ食堂の常連 同じ市営住宅に住む同級生 

二宮 治子(にのみや はるこ)


たんぽぽ食堂のオーナー 資産家

大山 仁市(おおやま じんいち)


民生委員 地域を巡回し、不遇の児童救済にかかりきり。

田中 秀一(たなか しゅういち)


符丁神社の宮司 霊能力者 独身

畑中 麻美(はたなか あさみ)


たんぽぽ食堂の調理師 みんなのオアシス的存在

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み