第4話 ダサい民話 ふくら雀の中の人
文字数 1,572文字
近藤さんに、過去に気持ちを置いていると言われてから、ずっとモヤモヤした。
幽霊がダメ出しかよ。私はちゃんと現在を見ているよ。
私はちゃんと現在を見ている。
それがキーワードのように頭にあるせいか、改まって周囲を落ち着いて見るようになった。
今、私を取り巻くこの景色は嫌いじゃない。
キャラ変したとき、友達みんな驚いて引いたけど、すぐに新しい友達ができた。蓮香 。
蓮香はいつも私にこう言った。
「おもしれー女」
少女マンガに出てくる男が、ヒロインに言うセリフらしい。
最近、私が元アイドルグループのセンターの子に似ているって言い出した。目力があるんだって。確かに厚めの唇は似ている。
「平手ちゃんみたいな髪型に寄せなよ、それから少しリップでも塗って」
「寄せるといいことあんの?」
「あるに決まっているだろ! 可愛ければ人生イージーモードだよ!?」
「蓮香、私はそんなカードは使わないぜ」
「あ~あ、開は頭いいけどバカだ、もったいねぇ~」
この景色は嫌いじゃない。これから勉強して這い上がって登っていくだけだから。
数学をバリバリやっていると、村瀬さんが水を差した。村瀬さんは普段口数が少ないので、大家さんのように聞き流せない。
「開ちゃん、泉水第一高校を受験するんでしょ?」
「そうっす。うちには私立に行く金ねえし」
「泉水第一は県内の公立トップ校だよ。そろそろ国語と社会の勉強も真剣に始めた方がいいよ」
「夏休みにやるつもりっす。古文漢文地理歴史はすぐ眠くなっちゃうんだ」
また近藤さんを見た。
そのときは小太りの中年サラリーマンとベンチに並んで座っていた。
サラリーマンのおじさんは泣いていた。本当にマンガのようにボタボタ涙をこぼしていて、近藤さんがおじさんを慰めている風だった。
私に気がつくと、おじさんは薄くなって消えた。
「さっきの人すごく泣いていたね」
「須川葉月ちゃんのお父さんなの」
たしか、葉月ちゃんのお父さんは亡くなったばかり。
「今はそこにいるわ」
近藤さんの指の先、枝の上に不格好なデブった雀がいた。
雀はフラフラ羽ばたいて、食堂の窓近くの枝に留まり、中を覗いているようだった。葉月ちゃんはいつも窓際で読書をしている。
「葉月ちゃんは自分がぼんやりしていたからお父さんを助けられなかったって、後悔しているよ」
近藤さんは悲しそうに笑いながら言った。
「葉月ちゃんのお父さんはね、自分を責めていて成仏できないのよ。つまらない誘惑に負けてしまった後悔先に立たずって、今日だけで合計14回言ったわ。葉月ちゃんに言っておいて。お父さんがふくら雀になって心配しているから、自分を責めないでちょうだいって」
「私が言うの!?」
「うん、お願いね」
雀のお宿かよ。私はクールなキャラでやっているんだ。
大家さんや田所さんみたいな年寄りじゃあるまいし、日本昔話みたいな話はダサくて言えねえよ。
「あのね、あのふくら雀? そこの枝にいるふっくらした雀だよ。お、お父さんなんだって。……葉月ちゃんの。雀のお父さんじゃないよ、葉月ちゃんのお父さんなんだって。私が言ったんじゃないよ! 近藤優名さんっていう人が言ったの。近藤さんはもう死んでいるから、代わりに言ってくれって頼まれたの! 葉月ちゃんが自分を責めると、お父さんが心配しちゃうんだってさ。それで雀になって飛んできたんだって。だから自分を責めないでくださいって。葉月ちゃんはなんにも悪くないって……私が言ったんじゃないよ! 近藤さんに頼まれただけだから! だから近藤さんは死んでいるんだってば。え? お父さんにそっくりなの? あの雀?」
私は窓の外のふくら雀を指さして話しているうちに、顔がこれ以上なく熱く真っ赤になった。
葉月ちゃんは泣き出し、椎貝さんは十字を切って目を閉じ、村瀬さんと大家さん、田所さんは驚いた表情で私と雀を見比べた。
幽霊がダメ出しかよ。私はちゃんと現在を見ているよ。
私はちゃんと現在を見ている。
それがキーワードのように頭にあるせいか、改まって周囲を落ち着いて見るようになった。
今、私を取り巻くこの景色は嫌いじゃない。
キャラ変したとき、友達みんな驚いて引いたけど、すぐに新しい友達ができた。
蓮香はいつも私にこう言った。
「おもしれー女」
少女マンガに出てくる男が、ヒロインに言うセリフらしい。
最近、私が元アイドルグループのセンターの子に似ているって言い出した。目力があるんだって。確かに厚めの唇は似ている。
「平手ちゃんみたいな髪型に寄せなよ、それから少しリップでも塗って」
「寄せるといいことあんの?」
「あるに決まっているだろ! 可愛ければ人生イージーモードだよ!?」
「蓮香、私はそんなカードは使わないぜ」
「あ~あ、開は頭いいけどバカだ、もったいねぇ~」
この景色は嫌いじゃない。これから勉強して這い上がって登っていくだけだから。
数学をバリバリやっていると、村瀬さんが水を差した。村瀬さんは普段口数が少ないので、大家さんのように聞き流せない。
「開ちゃん、泉水第一高校を受験するんでしょ?」
「そうっす。うちには私立に行く金ねえし」
「泉水第一は県内の公立トップ校だよ。そろそろ国語と社会の勉強も真剣に始めた方がいいよ」
「夏休みにやるつもりっす。古文漢文地理歴史はすぐ眠くなっちゃうんだ」
また近藤さんを見た。
そのときは小太りの中年サラリーマンとベンチに並んで座っていた。
サラリーマンのおじさんは泣いていた。本当にマンガのようにボタボタ涙をこぼしていて、近藤さんがおじさんを慰めている風だった。
私に気がつくと、おじさんは薄くなって消えた。
「さっきの人すごく泣いていたね」
「須川葉月ちゃんのお父さんなの」
たしか、葉月ちゃんのお父さんは亡くなったばかり。
「今はそこにいるわ」
近藤さんの指の先、枝の上に不格好なデブった雀がいた。
雀はフラフラ羽ばたいて、食堂の窓近くの枝に留まり、中を覗いているようだった。葉月ちゃんはいつも窓際で読書をしている。
「葉月ちゃんは自分がぼんやりしていたからお父さんを助けられなかったって、後悔しているよ」
近藤さんは悲しそうに笑いながら言った。
「葉月ちゃんのお父さんはね、自分を責めていて成仏できないのよ。つまらない誘惑に負けてしまった後悔先に立たずって、今日だけで合計14回言ったわ。葉月ちゃんに言っておいて。お父さんがふくら雀になって心配しているから、自分を責めないでちょうだいって」
「私が言うの!?」
「うん、お願いね」
雀のお宿かよ。私はクールなキャラでやっているんだ。
大家さんや田所さんみたいな年寄りじゃあるまいし、日本昔話みたいな話はダサくて言えねえよ。
「あのね、あのふくら雀? そこの枝にいるふっくらした雀だよ。お、お父さんなんだって。……葉月ちゃんの。雀のお父さんじゃないよ、葉月ちゃんのお父さんなんだって。私が言ったんじゃないよ! 近藤優名さんっていう人が言ったの。近藤さんはもう死んでいるから、代わりに言ってくれって頼まれたの! 葉月ちゃんが自分を責めると、お父さんが心配しちゃうんだってさ。それで雀になって飛んできたんだって。だから自分を責めないでくださいって。葉月ちゃんはなんにも悪くないって……私が言ったんじゃないよ! 近藤さんに頼まれただけだから! だから近藤さんは死んでいるんだってば。え? お父さんにそっくりなの? あの雀?」
私は窓の外のふくら雀を指さして話しているうちに、顔がこれ以上なく熱く真っ赤になった。
葉月ちゃんは泣き出し、椎貝さんは十字を切って目を閉じ、村瀬さんと大家さん、田所さんは驚いた表情で私と雀を見比べた。