第8話 10月の花束 紫苑とオミナエシ
文字数 888文字
ナイスタイミングだった。
種原山入口で、村瀬さんが男の人と話していた。
こっそり木の陰に隠れる。すぐにわかった。こいつが服部だと。村瀬さんが嫌悪感を浮かべていたから。
村瀬さんは日頃口数は少ないが、けっこう感情が顔に出る。
男の後ろ姿は、予想通り痩せていた。チリチリくせ毛が鬱陶しいと村瀬さんは言っていたが、髪は短く整っていてサッパリしていた。背も、麦倉さんと八島さんの中間くらいで丁度いい。
集中して耳を澄ますと、
「だから、いりません」
「俺、たくさん迷惑かけたから許してもらえないのはわかっている。けど、村瀬さんに似たかわいい花だったから、つい、渡したいなって思っちゃって」
「すみません、もう話しかけないでください」
「ごめんなさい」
服部は頭を下げると、小ぶりな花束をナツツバキの木の根元にそっと置き、足早に去って行った。
そのとき正面から顔を見ることに成功したが、あれ? 思っていたより普通じゃん。
イケメンって訳じゃないけど、白いシャツとちょっと品質が良さそうな黒いジャケットが清潔そうに見える。まあ、百川さんよりは数倍オシャレだ。
涙ぐんでいたので、ちょっと可哀相かな、なんて同情しちゃった。やばいやばい。
村瀬さんは、困った顔をしていた。
少し花束を見つめた後、仕方なさそうにため息をついて花束を拾い上げ、食堂に入っていった。
そして私も急いで合流。
「どうしたの村瀬さん、その可愛い花束」
真っ先に大家さんが食いついた。
「……そこで、服部に出くわして、この花置いていっちゃったから。花に罪はないし。ここで飾ってください」
「紫苑の花とオミナエシね。奥ゆかしくて可憐で素敵だわ。派手さはないけど飽きがこないのよ。私は好きよ。服部、随分と古風なことをするわね」
大家さんが小さな花瓶にその花束をいけてカウンターの端に置いた。
そういえば服部は、「村瀬さんに似た花」と言っていた。キザだな。
なんのイベントもなく突然花束を渡すなんて、なかなかのメンタルだ。しかも嫌われているのに。すげー奴。なかなかポテンシャル高いぞ。
村瀬さんはその淡い紫と黄色の小さな花を少し見つめて、またため息をついた。
種原山入口で、村瀬さんが男の人と話していた。
こっそり木の陰に隠れる。すぐにわかった。こいつが服部だと。村瀬さんが嫌悪感を浮かべていたから。
村瀬さんは日頃口数は少ないが、けっこう感情が顔に出る。
男の後ろ姿は、予想通り痩せていた。チリチリくせ毛が鬱陶しいと村瀬さんは言っていたが、髪は短く整っていてサッパリしていた。背も、麦倉さんと八島さんの中間くらいで丁度いい。
集中して耳を澄ますと、
「だから、いりません」
「俺、たくさん迷惑かけたから許してもらえないのはわかっている。けど、村瀬さんに似たかわいい花だったから、つい、渡したいなって思っちゃって」
「すみません、もう話しかけないでください」
「ごめんなさい」
服部は頭を下げると、小ぶりな花束をナツツバキの木の根元にそっと置き、足早に去って行った。
そのとき正面から顔を見ることに成功したが、あれ? 思っていたより普通じゃん。
イケメンって訳じゃないけど、白いシャツとちょっと品質が良さそうな黒いジャケットが清潔そうに見える。まあ、百川さんよりは数倍オシャレだ。
涙ぐんでいたので、ちょっと可哀相かな、なんて同情しちゃった。やばいやばい。
村瀬さんは、困った顔をしていた。
少し花束を見つめた後、仕方なさそうにため息をついて花束を拾い上げ、食堂に入っていった。
そして私も急いで合流。
「どうしたの村瀬さん、その可愛い花束」
真っ先に大家さんが食いついた。
「……そこで、服部に出くわして、この花置いていっちゃったから。花に罪はないし。ここで飾ってください」
「紫苑の花とオミナエシね。奥ゆかしくて可憐で素敵だわ。派手さはないけど飽きがこないのよ。私は好きよ。服部、随分と古風なことをするわね」
大家さんが小さな花瓶にその花束をいけてカウンターの端に置いた。
そういえば服部は、「村瀬さんに似た花」と言っていた。キザだな。
なんのイベントもなく突然花束を渡すなんて、なかなかのメンタルだ。しかも嫌われているのに。すげー奴。なかなかポテンシャル高いぞ。
村瀬さんはその淡い紫と黄色の小さな花を少し見つめて、またため息をついた。