第20話 ジュースと果し合いと捜索
文字数 3,847文字
「やっぱり戻りたい」
ミディアがうんざりしたような口調で
「あたしもちょっと疲れたよ」
「ディロス、どこか休憩できる所に行こう」
「そうさなぁ……おお、あそこは
ディロスの導きで
テーブルに突っ伏したミディアが
「楽しんできて。私はここにいる」
「うーん、俺はさっきあったマンドサルの
「ワシは珍しい道具を並べていた店だな。もう一度見たい」
「楽器を演奏してる集団がいたよね。ゆったり聴けるなら聴きたい」
それぞれの目的がかなり違うのと、ミディアを
「いらっしゃい、……あれ? ポレイトたちじゃない」
「ミドリ。ここで働いてるのか?」
「そうなんだよ。人が多過ぎてここで休憩してたら、働かないかって」
「どうしてそういう話になるんだ……」
ミディアを残して3人で
「あたしがついてたら
そう言ってミドリはシュッ、シュッと何かを突き出すような仕草をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミディアを置いて、再び3人は人混みの中を突き進む。
道路脇の建物の壁には、赤、青、黄、緑などの色を付けた布がぶら下がっている。さらに道路を横断するように縄を渡して、馬や牛や鳥を模した
それを飲みながら、
その
城門と
目の
「あれはエメキオだね。……人を振り回してる?」
「プハァッ! 死ぬかと思った……」
「あらポレイト。あなたも
エメキオはその巨大な右手で
「え……っと、何やってるんです、か?」
「毎回大好評! 銅貨3枚払って騎士団最強の
「10枚?! ……いやぁ、でも手加減してくれないんですよね」
「当然じゃないの。もちろん殺しはしないけどネッ」
彼は片目を閉じてウインクした。倒れた3人の男たちはまだ起き上がれないようだ。胸は上下しているから、死んだわけではなさそう。
「俺はやめときます。なあモナ……、モナーク?」
モナークがツカツカとエメキオに歩み寄り、銅貨3枚を渡した。
エメキオの笑みが消え、なんとなく戦闘用のオーラを放ち始めた。
「モナーク、女の子相手でも手加減は出来ないワ。それでもいいの?」
「手加減なんてしたら、エメキオがこの男たちみたいになるよ」
詰めかけた群衆の
「リエム。顔のアレ、治ったのか」
「二夜前にようやく完治だ。いや〜、もう治らないかと思ってたから、今が楽しくてなぁ。久しぶりに街の風に当たりに来たんだよ」
リエムは群衆の先頭に立ち、腕を組んだ。
「エメキオとモナークの本気の戦い、じっくり見ていこうかな」
モナークは真剣な表情でエメキオを
「団長、合図をお願い」
リエムは
「……はじめろ!」
モナークが地を
左足でブレーキをかけ、体を回転させてモナークは左腕を突き出す。エメキオは身体をのけ
モナークは
エメキオの巨体がぐらつく。彼はその向きに同調し回転してモナークの足を外し、前転で彼女との間合いを取った。
ひと呼吸も置かずモナークが走り寄り、今度は正面から左足を突き出す。エメキオは左手でその蹴りを
モナークは右足をグニャリと曲げ、背中を地面と平行にしてパンチを
「……あらあら、どこでそんな体技を覚えたのかしら」
「里にはもっと強い戦士がいるよ。でも、あたしはきっと、もっと強くなれる」
ひと
「ポレイト、ティーナが大変!」
ミディアのいつもより大きな声。エメキオもモナークも立ちすくみ、
「ミディア、どうした。ティーナに何か……」
「足を折られて、知らない奴に運ばれてるって! この鳥が飛んで来た!」
「運ばれてる? どこに?」
「分からない……。鳥はそれしか教えてくれない」
リエムがエメキオに歩み寄り、指示を出す。
「出来るだけの人数を集めろ。ティーナは城の近くにいたはずだ。
「そうネ! ちょっと
叫びながらエメキオは群衆を吹っ飛ばし、レミルガム城へ走って行った。
「おれたちは
「分かった!」
遅れてミドリが、
「はい武器。まさか丸腰で行こうと思ってた?」
「……宿から持ってきてくれたのか」
「うん。あたしにはこれくらいしか出来ないから」
ミドリは
「ありがとう、ミドリ!」
とにかく人を
「ディロス、まずは人のいなさそうな所を
「歓楽街には古くから使われていない建物がたくさんあるぞ! 散らばるべきではないか?!」
「あたしが飛んで探そうか?!」
「ポレイト! 風の精霊、助けてくれない?!」
ミディアの言葉で
「そっか。その手があった」
天然石のネックレスを強く握り、目を
「……頼む。ティーナがいる場所を探したいんだ」
緑の光が
『すごく疲れるけど……』
「それでいい。必要な分、使ってくれ」
『たまには自分のことも考えなよ。
「いいんだ。大切な仲間なんだ」
『ふぅん……』
これは、本? 平積みになっている。古い書棚いっぱいに本が置かれている。書棚を、淡い光が照らしている。
「もっと周りの景色を観ることは出来ないか?」
『暗い場所だね。光が届かない場所はムリ。でも方向は分かったでしょ』
「何が見えたんだ」
「ディロス、本が置かれてる古い建物。何か心当たりあるか?」
「本だと? そんな高価なもの、歓楽街にあるとは思えんな」
本って高価なのか。……ってそんなこと今はどうでもいい。精霊が教えてくれたのは貴族街とは反対側だ。でも具体的な場所が分からないから、とにかく近くまで行くしかない。
疲れてグニャグニャの足をとにかく前に出して進もうとする。その時ふと、頭をよぎる言葉があった。
『王都の修道院に古書を収めた一室がある……』
バンサレアで水の
「修道院はあっちにあるか?」
「修道院、修道院……。おお、今は使われておらんが、研究所の
「きっとそこにいる! 行こう!」
震える足を思い切り叩いて、
上空には暗く分厚い雲。