第21話 急性期の患者を無事に連れ帰る方法
文字数 1,583文字
白夜は研究所を歩き回って、消えた二人を探していた。携帯電話は何度かけても繋がらない。壁に掲示されていた避難経路図を確認すると施設の部屋数はそこまで多くないようで、しらみつぶしに部屋を回ることにした。
頭に入れた地図と現在位置を照らし合わせながら、東、南、西、北と順序立てて回っていたら、ふと想定外の場所に出て混乱した。明らかに地図に載っていない部屋が並んでいる。とうふのような白く奇妙な立方体――真新しいので、後から増設したのだろう。白夜はここまでやってきたことを繰り返すように、パタン、パタンと扉を開けてみた。そのうちの一室に二人はいた。春馬にもたれるように立っている瑠璃仁が、じっと推し量るようにこちらを見つめていた。
瑠璃仁の病気の進行は、思ったよりかなり進んでいるのかもしれなかった。危険度も増している。
立場上、どう断ったものか……。白夜は思案する。真正面から、「それは妄想ですので一旦実験を中断して、治療に専念なさってはどうですか」と言うべきなのだろうか。
しかし、言い方によっては拒絶されてしまうかもしれない。信用をなくし、敵とみなされ、もう近づくなと言われるかもしれない。そうなると今後看護が非常にやりにくくなってしまう。そもそも、瑠璃仁の主治医の若槻医師からも、本人のやりたいことは止めないよう言われてもいるし……。
距離が開いている。また開いていく。
――でも、仕方がないじゃないか。
知らない顔して、春馬みたいに実験に付き合うという方が無茶だ。自分は瑠璃仁の言動が病気によるものだと知っている。でもそれなら、春馬にだけはきちんと伝えなくてはならない。瑠璃仁が病気で妄想をもちやすい状況下にいることを。