第20話 治験審査委員からの嫌がらせがあります。
文字数 1,506文字
研究室から瑠璃仁を離した春馬は、センサーや盗聴器のない場所で話を聞いてほしいという瑠璃仁と一緒に、納得できる場所を探した。外は人工衛星が見張っているからだめだという。やっと見つけた条件に合致する場所は、白く真新しい立方体のような空間だった。
弱々しくうめく瑠璃仁に、春馬はゆっくりと息を紡ぐように言う。
尊厳を踏みにじられ傷ついた顔で、瑠璃仁は笑う。
「ははは。僕が病気だから? 界隈じゃ有名なんだってさ。今日もまた研究仲間から言われたよ。いや、仲間なんかじゃないね。僕は知ってるんだ。僕なんて、気の狂ったただの妄想患者だって言われてる! 僕の研究は、世界を塗り替えるんだ! それなのに、誰も信じてくれない!! 誰も!!」
「坊ちゃんに言われた通りやっていればそれで大金がもらえるなんて、こんなにいい仕事ないって、科学者でも介護士でもいい、俺は家庭の方が大事だからな、って笑うんだ。ここは一条お坊ちゃまの入院施設代わりなんだって!」
春馬は痛む胸を押さえて、首を横に振った。
瑠璃仁は子供のように春馬に当たる。
瑠璃仁はもっと何かを言おうとして開きかけた口を、一度引き結んで、静かに春馬の言葉を聞いた。
瑠璃仁の双眸にまた光が灯ったように見える。春馬は息を整えて、小さく頷いた。
「でも論文と計画を公的に認めてもらえない以上、実力行使するしか……実験を成功させて認めさせるしかない。だって、四次元が見えるようになるんだよ? 四次元が見えるようになったら、ものすごいことになる。蓋を開けないで中のものを見ることができるし、取り出すことだって可能だ。手の届く距離まで空間がねじ曲がっているのがわかったら、テレポート移動だってできる。世界がたちまちのうちに変動するんだよ。ああ、もう、僕ならそれを可能にできるのにな。悔しい」
瑠璃仁は床に座り込んだ。
「こんな病気なんかになったせいで――だいたい、僕はこの病気になったからこのことに気づけたんだ! それなのに! この病気のせいで妄想状態だと言われて! 僕はいったい何のために、この病気を耐えていると――っ、その上でどれだけ苦労して考えていると、思っているんだ! 実験できれば、すべては実証できるのに! どんなに理論立てて説明したところで、僕の論文は見向きもしてもらえない。でも実証できれば一転、注目を集めることだろう! この実験には人体への薬剤投与が必要となる。でも僕の周りに、そんなことを協力してくれる人はいないんだ。僕自身、妄想や幻覚を伴う病気持ちだから、自分でやるわけにもいかないしね……」
微かな光が消えたりしないようにそっとかざす春馬の手は、あまりにも小さかった。