第15話 女の本能 男の本能

文字数 1,346文字

翌日、目を覚ますと、カーテンの外は、もう明るくなっている。
結衣はまだ僕の肩先でスース―と寝息を立てている。甘いバターの香りとともに、グウン・グウンとパンをこねる機械の音が聞こえ、タイマーセットしてあるエアコンも、温風を吐き出し始める。
裸のまま足を絡ませていたため、下敷きになっていた右足が軽く痺れている。
しばらくして僕が起きていることに気づいたのか、二度瞬きをして、目を開ける。
「おはようございます」
「おはよう」
「ゆっくりと、お休みになれましたか?」
「よう寝れた。結衣のおっぱいパワーのおかげ」
二人の身体の間に手を入れて、形の良い胸をまさぐると、くすぐったそうにするが、今日は抵抗せず、そのままにしている。
「私もさわっていいですか?」
「ええよ、でも、まだちっちゃいままやで」
「ちっちゃいのも、グニグニしてて、なかなかさわり心地がいいんです」
「看護婦さん、痛くしないでくださいね」
冗談めかせて言うと、「バカ」と恥ずかしそうに笑ってキスをする。
どうして、こんなかわいい素敵な女の子が、僕に好意をもってくれるのだろうか。
最初は、不器用な手つきでさすったり、握ったりしていたが、ウサギが巣の中にもぐるように、ごそごそと頭から布団の中に入っていく。先月、不安と緊張に囚われていた姿からは想像できない。下腹部に手だけではない、ねっとりとした温かな感触が伝わってくる。少し布団を上げて中を見ると、小さな女の子が初めてかくれんぼした時のように、隠しきれない裸の丸いお尻が、眼の前でプルプルと震えている。
その瞬間、身体の中の血液が、一点をめがけて流入しはじめた。
「ゲホッ、ゲホッ」
驚いた子ウサギが、少し赤くなった目をまんまるにしながら巣穴から顔をだす。
「大丈夫かぁ?」と苦笑していると、「いきなり大きくなって、びっくりしました。どうしていいかわからず、喉に詰まっちゃいました」と、ひとしきり二人で笑う。もう一度、獲物を見つけた巣穴のなかにごそごそと入っていく。その足首を掴んでゆっくり開かせると、残った白いお尻を自分の胸の上に乗せた。

結衣は帆掛け船になり、お遊戯をしている子供のように手をつないだまま、目を閉じ、ゆっくりと腰を前後にゆすっている。無防備にひらいた形の良い鼻の穴がかわいい。時折、お腹のなかで僕のものをキュッキュッと締め付ける。
官能の中に埋没している時の女性は、どうしてこんなにきれいなんだろう。セックスにおいては、女は男の何十倍も気持ちよく、それは出産の時の痛みと関係があると言う人がいるが、それは肉体的な機能の違いによるものではないように思う。
男は動物の本能として、身を守るため、女を取られないために、いかなるときも(セックスの時でさえ)、周囲を観察し、冷静さや客観性を保つ機能が組み込まれている。過去の後悔や失敗の記憶もそこに含まれる。そのため官能や快楽だけでなく、幸せとかやすらぎとかいったものに頭の先まで浸りきることができない。
逆に女性は、眼の前にある官能や幸せに髪の先まで浸すことができる。仮にその相手が全夫の仇であったとしても・・。それが組み込まれた本能であり、その後先のないリアリズムこそが女性の強さなのかもしれない。
そんなことを思いながら身体を起こし、向こう側に結衣を横たえた。
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