25*熊野の神隠し

文字数 2,669文字

 考えたら、オオクニヌシさんも、クエビコさんも実家を知ってたわけで。
 ツクヨミはナグサヒコの後裔一族に拾われた。
 古の戦で、ツクヨミは熊野で天ツ軍に討たれ、隠世に隠れた。熊野のどこかに眠った神社がある。70年前、世界の変化が起きた。ツクヨミが現世に人として現れた。記憶を失ってた。一族の本家に拾われ、分家で育てられた。本家の入婿と結ばれ、2代目ツクヨミを産み、2代目は20歳のときに行方不明となった。熊野の山神に隠された。隠された処はツクヨミの眠った神社だろうか。本家に伝わる熊野の神隠し。神が人を隠すでなく、人が神を隠すのか。しばらくして見つかったが、記憶を失ってた。2代目は3代目ツクヨミを産み、3代目も20歳のときの行方不明となった。見つかったが、記憶を失ってた。
 そして3代目の母さんは4代目の私を産んだ。3代目までは覚醒もなく、2代目までは余生を本家で暮らし、人として死んだ。けっこう、短命かもしれないけど。
 ツクヨミを追い、オオクニヌシさん、クエビコさん、キューピーちゃんが現れた。オオクニヌシさん達も、一族(祖父や親戚のみんな)も、代々のツクヨミを守り、覚醒を待ってた。もしかしたら、わざと記憶を失わせ、ツクヨミを醒めさせとうとしたのか。なんで熊野の山神はツクヨミを隠そうとするのか。
 しかし。
 世界の変化は大きくなり、現世に影響を与えた。私は、中学のときに父母を交通事故で亡くした。私は、実家を離れ、東京(の隣の埼玉)でひとり暮らしを始めた。
 2018年、私は19歳。
 父さんも本家の人だ。私に母さんの記憶があまりないのも、母さんが本家に暮らしてたからだ。母さんも記憶を失ってたからだ。唯一の記憶はブレスレット。ブレスレットは母さんの、代々のツクヨミの心と命の憑代。ニギハヤヒの捜してた神璽。ニギハヤヒに見つからないように、イザナミ様が隠してくれた。

『ツ、ツクヨミ。聞かれてないが、オ、オレの考えを言おう。ひとつめは、本家でなく分家で育てられたのは、やはりツクヨミは隠されるべき存在だ。ふたつめは、オ、オオクニはなにか知ってる。オ、オレはオオクニによって生まれ変わってる。甦ってる。つまり記憶が、だ、段々と曖昧になってる。あと、オレは動けない。しかしオオクニは代々のツクヨミを知り、神隠しを知ってる。なぜ、ナ、ナグサヒコの後裔一族はツクヨミを拾い、代々のツクヨミに、ツクヨミの神霊を降ろすか。ニギハヤヒや、あ、天ツ神に仕えた神の一族が、なぜ。いったい、ナ、ナグサヒコは国ツ神か、神に成れなかった神人か、神に成ったミサキ神か。と、突然と現れたナグサヒコは、いったい……』

 私はツクヨミが醒めたときの憑代、神代(カムシロ)。
 だんだんと厨二病的展開になってくる。
「…………ま、いーかー」
 今の私はニウヒメさんの誤解を解きたいだけ。ムリにツクヨミの記憶を戻さなくていい。20歳になれば私は記憶を失い、かってにツクヨミが醒めてくれる。醒めなくても私のせいでない。
 横溝正史もびっくりな展開だ。神様ラブコメじゃなかったのか。
 オオクニヌシさんは眼鏡好男子じゃなかったのか。改名、妻帯仮面男。
 あ、ニギハヤヒと被る。


「どこに行ってたの?」
 和歌山市駅でタカヒメとワカフツヌシさんに会う。
 夜なのに、黒色の迷彩服なのに、神威(?)がダダ漏れなのですぐにわかる。
「刺田比古神社だ」
「どうだったの?」
「神威は感じなかった。祭神は高天原に昇ったんだろう。あと、キイは天ツ軍が通ったわりに天ツ神を祀る社はない。気になった。カラスは多いのに」
 出雲国は負けたといえ、出雲神ががんばってるから天ツ神を祀る神社は少ない。河内国や大和国、周辺国を考えると、確かに紀伊国は天ツ神を祀る神社は少ない。式内社の大社13社(熊野速玉大社以外は名神大社)のうち、スサノヲさんの関係神社6社、ナグサヒコの関係神社5社、ニウヒメさんを祀る丹生都比売神社。のこりの1社が天ツ神を祀る神社、鳴神社だ。あと、天ツ神を祀る有名な神社は竈山神社くらい。タカヒメも気になった。
「父神は知ってますか?」

 電車を待ちながら、タカヒメの疑問にオオクニヌシさんが教えてくれる。私もいるので話したくないだろう。しかし娘神に訊かれ、父神のプライドで話さないでいられない。
「ツクヨミ様がヤマトに行かれた後、キイにナグサヒコと名のる神が現れました」
 いきなりのナグサヒコ。
 オオクニヌシさんは私の実家を知ってる。私とナグサヒコの関係も知ってる。代々のツクヨミも、神隠しも知ってる。タカヒメのフリでおもしろい展開になりそう。
「イソ族を滅ぼし、古の戦でニウ族を滅ぼした?」
「そうです。イク族も滅ぼしました。そして天ツ神に命じられてキイを治めましたが、滅びました。アスカの、ある一族が継ぎました」
 クエビコさんの情報共有はバレてない。
 飛鳥の一族は、クエビコさんの話を聞いて調べた。平安時代に遠縁の婿養子を迎えた。平群坐紀氏神社を本貫とする一族。
「伊太祁曽神社の処に日前神宮國懸神宮を建てる前の元宮は濱宮。祭神は天懸大神と国懸大神。オオクニヌシさんは天懸大神もニギハヤヒと思う?」
「知りません」
 私が濱宮を知ってるのに驚かない。ポーカーフェイス。改名、妻帯腹黒仮面男。
 日前大神はニギハヤヒと言ってた。そうか日前大神と天懸大神が別神というのは知ってる。
 あと、オオクニヌシさんの知りませんは初めてだ。わかりませんで私が虐めたの、根に持ってる。うーん。しかたがない。ナムヂさんに変わられたら困る。このへんで止めよう。
「それでなんで天ツ神の神社は少ないの?」
「アスカの一族が継ぐ条件に、天ツ神の祀る社を拒みました」
 確かに紀伊国の国ツ神の抵抗は凄かったらしい。紀ノ川を遡らなかったのは、国ツ軍に参じなかったけど、阻んだ多数の国ツ神が居たという説もある。天ツ神は隼人、熊曾の反乱で疲れてた。条件を受け入れなければならなかった。2大勢力のイソ族、ニウ族を滅ぼしたから、ムリに天ツ神の神社を建てる必要はない。
「なるほど」
 オオクニヌシさんは、なにか守ってるかんじ。だから言わない。だから我慢。だからしかたがないと言う。なにを守ってるんだろう。
 タカヒメ、感想を。
「世界の変化で、再び天ツ神が降り、戦が始まるでしょう。ワタシは全ての天ツ神を倒します。必ず父神の仇(アダ)を討ちます」
 そういう感想は求めてない。
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