28*アマノクメ組ワタツミ三女神

文字数 2,633文字

 新大阪駅を出ると平穏な大阪の夜の街。振り返ると不穏な新大阪駅。どうなってるんだ。
 南風が吹いてる。見えないけど、スサノヲさんとニギハヤヒは南方で戦ってるようだ。
「イ、イヅメが時間と空間を抂げた瞬間に居た、ひ、人が巻きこまれた。スサノヲに聞いたことがある。こ、別天ツ神なみの神威」
「タカちゃん、大丈夫かな」ワカヒコくんが見つめる。
「大丈夫。タカヒメは別天つ神なみに強い。ワカフツヌシさんもいる」
「どうすれば駅は戻るの、クエビコさん」
 ニウヒメも助けたいけど、駅を放っておけない。倒れてる人々を助けないと死んでしまう。知ってる知らないで感傷に耽らない。巻きこまれた人々を優先。
「か、かんたん。結界を張ったイヅメを、た、倒す」
 言うのはかんたんだけど、別天ツ神なみのイヅメをどうやって倒すか。カカシ、ポンポン、コドモの神、神威の無い神、役にたたない神。まともに戦える神はトミビコさんだけ。
 こんなときに出てしまい、悔やんでるナムヂさん。
「大殿……」トミビコさんが独り言ちる。
「大殿は高天原で暴れ、壊しまくったと言われてました」
 確かに。プロフィールを調べた。凄い神威だろう。
「も、問題はニギハヤヒと戦ってる、ス、スサノヲをどうやって連れてくるか」
「行きましょう、姫。大殿の処に」
「た、確かに。戦況を考えると、ほ、他にない」
「ツーちゃん、ナントカなるの?」
「なンとかなってたら、こうなってないンだよ。なあ、ツクヨミ」
 ナムヂさんに肩を引き寄せられる。
「……うん」すっと避ける。
 私は、なんにもできないけど、なんとかなるタイプだった。いつもなんとかなった。最近、ちょっとへこんだけど、なんとかなる。
「なんとかなる」
「トミビコさん、あっち。淀川の向こう」
 クエビコさんで指す。キューピーちゃんが教えてくれる。
 タカヒメとワカフツヌシさんが戦ってくれてる。トミビコさん、ワカヒコくんも、クエビコさんも、キューピーちゃんもがんばってくれてる。私は……。

「ここまでね」
 淀川を渡る橋の前に、また現れてくれる。もういい、うんざり。
「い、古の戦以来の、危機だ」クエビコさん、言わなくてもわかる。
「ホホホ。とうせんぼ」
「フフフ。ソコツミ、この神達ね、殺すのは」
「ホホホ。きもちよく海神社で眠ってたのに」
「フフフ。イヅメ様に呼ばれたけど、強いのかな、ウワツミ」
「ハハハ。戦えばわかるよな、ナカツミ」
 同じ顔の三女神がポーズを構える。
「あたし達は、アマノクメ組ワタツミ三女神」
 三女神がハモる。戦隊モノか、魔法少女モノか。ハデな赤色の神衣を纏い、中国剣舞に使う蝙蝠剣のような金色の剣を構える。なんか遊園地のショーが始まる感じ。
「イヅメに仕えるクメ水軍の三組頭のひとつでございます」
「あと2組もいるの?」
「シオタマ兄弟神はクサカの戦で姫が倒し、クメ水軍の軍形が乱れ、天ツ軍は退きました」
 まったく記憶にないが、昔の私は強かったみたい。記憶もない、神威もない、戦えない。今の私は三ない神だ。
「……ここはワタシが抑えます。姫は大殿の処へ」
 トミビコさんは辛そう。さっきも。
「ハハハ。ぼく達と戦うってさ、ナカツミ」
「フフフ。こうゆうの、なんていうんだっけ、ソコツミ」
「ホホホ。バカは死なないと治らないかしら、ウワツミ」
「ハハハ、そうだ、バカだ、ソコツミ」
「ホホホ、じゃあ、死なないといけないわね、ナカツミ」
「フフフ、殺しましょう、殺しましょう」
「ハハハ。アマノクメ組ワタツミ三女神。クメ舞で殺そう」
 周囲を三女神が舞いながら廻る。同じ顔、同じ姿の三女神が剣を回しながら、メリーゴーランドのようにグルグルと廻る。
「コレ、ナニ、なんなの、ツーちゃん」
「スサノヲさんの処に行かれなくなちゃった」
「ホホホ。バカが治りますように」
 メリーゴーランドから剣が飛んでくる。トミビコさんが弾くと、剣穂を引かれ、メリーゴーランドへと戻る。
「フフフ。バカが死にますように」剣が飛んでくる。ワカヒコくんを斬る。
「ハハハ。バカは死なないと治らない」剣が飛んでくる。ナムヂさんを斬る。
「姫、姿勢を低く」
 トミビコさんが叫ぶ。剣は四方八方から、上から下から飛んでくる。トミビコさんも弾き返せない。足を斬られたワカヒコくんが膝をつく。私の目前に、剣が飛んでくる。ナムヂさんが、私を庇い、肩を大きく斬られる。
「ナムヂさん」
「あ、あンな、確かに不器用だ。でもな。そういう生き方を強いられたんだ。ゆ、許してやれ」
 な、なに?
「あとな、タカヒメは娘、じゃない」
 なに、言ってるの?ナムヂさんの体を支えようと起き上がる。
「姫ッ、姿勢を低くッ」
 剣が飛んでくる。死ぬ。殺される。
 悲惨な設定に耐えよう、過酷な物語をじぶんの意思で進もう。謎ときあり、バトルあり、ラブコメあり、西村京太郎あり、横溝正史ありの神話テイスト中二病要素たっぷりセカイ系転生モノの主役をじぶんの意思で演じよう。もう、賞味期限間近の肉じゃがのアレンジレシピという4コママンガのネタはないだろう。まだ、過酷な物語や悲惨な設定はあるだろう。甘んじ、全てを受けるので、できれば、なんとかしてください、神様。一生のおねがい。
「頼む……」ナムヂさんが私に凭れる。
「退け」ナムジさんが起きる。いや……。
「国ツ神を舐めるな」
 飛んできた剣を弾き、浮いた剣が戻る前に剣穂を攫み、引っぱる。三女神の、どの神かわからないけど引っぱられ、倒れる。のこりの女神もぶつかり、倒れる。
「大丈夫か」
 私の前にシコヲさんが立ってる。
「フフフ。グルグルの舞を破るなんて」
「ハハハ。地祇もちょっとはやるな」
「ホホホ。でも、クメ舞の恐怖はまだまだあるわ」
 まだまだあるの?
 シコヲさんは風上を指す。指先に大阪城が見える。
 上町台地の先端にあり、今の大阪城は徳川氏大阪城、前は豊臣氏大坂城、大阪城の前は石山本願寺、大阪が宮処の時代は生國魂神社があった。古の戦の後に難波津で、統治国土を司る神、生島神(生国魂神)と足島神(咲国魂神)を祀ったのが始まり。宮中祭祀の主神となり、生島巫が奉じた。生島巫はイヅメ。徳川家康、豊臣秀吉、織田信長、顕如、そして天ツ神の欲望の絡みあう地の上空で、スサノヲさんとニギハヤヒが戦ってる。
「トミビコ、ワカヒコ、ツクヨミと行け」
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